【一人暮らしインテリア】まるでジャングル!たくさんの植物に囲まれたおしゃれ部屋
ギャラリーのような好きな植物・モノに囲まれた部屋作り

植物とアンティークなインテリアに溶け込む田中さん
役者、モデル、植物ブランド/アパレルブランド・オーナー、フォトグラファーなど様々な顔を持つ田中陸さん。
一見、様々なモノが雑然と並んでいるように見えるのに、なぜかスタイリッシュでかっこいい…そんなセンスと技を感じるディスプレイ感たっぷりの部屋にお邪魔した。
プロフィール
名前:田中陸さん
職業:役者
年齢:24歳
ルームデータ
居住地:東京都
居住人数:1人
間取り:1R +ロフト
家賃:55,000円(管理費込み)
築年数:築30年
このページの目次
太宰が暮らした街で出会った、条件を全て忘れるほどの部屋
名古屋出身の田中さんは大阪での美容師のキャリアに終止符を打ち、役者を目指して東京に来た。
当初は三軒茶屋の友人の家に居候していたが、半年のアルバイト生活でお金を貯め、いよいよ一人暮らしをしようというタイミングで「自分は東京の人混みが苦手だ」と気づいたという。
そこで部屋探しのヒントをくれたのが、その時に傾倒していた太宰治。太宰が暮らした「三鷹市」に焦点を絞り、アクセスの良さと、程よい“のどかさ”を兼ね備えたこの物件に、文字通り「出会った」という。
「細かな条件はいろいろ考えていたけれど、この部屋を内見した時のしっくり来た感じ…まさに出会ったと感じて即決しました。結局バストイレは別だったし、ロフトもあって良い部屋だったんですが、細かな条件は後回しになるほどの一目惚れ。部屋選びでは、第一印象のピンと来る感覚は大事にした方がいい」(田中さん)
それにしても今の時代に太宰を起点に部屋を探す人がいるなんて…草葉の陰で太宰も喜んでいるだろうと伝えると、「お笑い芸人で芥川賞作家の又吉も同じ理由で三鷹に住んでいたことがあるらしいです。影響を受けた人たちにあやかっただけ…」とはにかんだ。
唯一妥協したポイントを聞くと、しばらく考えて「電気かなぁ」とポツリ。あまりに築年数が経ち過ぎて、メインの照明は配線から変えないと新しい照明器具がつけられない。仕方なく以前からのものを使っているが、なぜか違和感なくマッチしてしまうのも田中さんのセンス。

懐かしい雰囲気の昭和の照明。これがしっくり来る不思議な懐の深さがある部屋
イメージは「ギャラリー&秘密基地」。お気に入りがランダムに並ぶ心地よい部屋だ。
部屋に入ると、一瞬ジャングルの中に入ったような植物たちの歓迎を受ける。そして次に目に入ってくるのは、スタイリッシュかつおしゃれに並んだ様々な「モノ」たち。
レザーのソファ、アンティークの本棚、ポスター、オブジェ、90年代の映画、ターンテーブル、そして4台のテレビ。不規則にランダムに雑然と並んでいるように見えるのに、不思議とカッコいい。本人に聞いても「好きなものを並べただけ」と素っ気ない答えが返ってくる。この圧倒的な敗北感はなんだろう。

今や目にすることのなくなったブラウン管テレビ。この家ではレーザーディスクを映す役目を担っている
「あえて言うなら、ギャラリーをイメージしてバランスを見ながらモノを置いているくらい。今、洋服や植物のブランドを立ち上げていて、そのポップ・アップ・ストアを出すことが多いので、この部屋はそのショップづくりの練習台でもあります」(田中さん)
好きなデザイナーやアーティストは特にいないと言うが、部屋作りに大きな影響を与えたのは90年代の映画。ジム・ジャームッシュやガス・ヴァン・サントが粛々と紡ぐストーリー。『トレインスポッティング』の疾走感や『Elephant』の絶望。それらを吸収して落とし込み、形にしたのがこの部屋のテイストだという。

雑然としているようで不思議な統一感があるのはセンスの賜物
そしてモノが多いと感じるのは「お気に入りに出会ったら迷いなく部屋に連れ帰る」から。厳選されたモノというより、田中さんに声をかけられ集められた仲間たちという風情だ。
例えば一番のお気に入りという大型の1人掛けソファも、西永福にある「もぐランド」というリサイクルショップから台車に乗せてトコトコと連れ帰ってきた。その距離約5駅分。
「おしゃれなアンティークショップよりも、街角にある雑多なリサイクルショップのようなお店が好き。モノを買う時にサイズを測ったこともなければ、置き場所を考えてから買うこともない。とにかく気に入ったら連れて帰り、そこから“どこに置こうかな”とはじまる」と意外な行き当たりばったり感だ。

左が西永福から台車で運んだソファ。右は近所の「東京ガラクタ研究所」で買ったもの

この観葉植物も、出会いを経て連れて来られたメンバーの1人。この時も鉢を抱えて一緒に帰宅した
生活感がない理由にはロフトの存在も大きい。ベッドがそっくり入るほどの広いロフトがあることで、ベッド周りの雑然としたものが2階に移り、部屋は「好きなものだけ」のスペースにできる。
しかしよく見ると、そもそもすっきりと片付いた部屋に並んだ「モノ」たちなのがわかる。基本はギャラリーのように何もないスペース、そこに田中さんが選んだお気に入りたちが飾られているのだから、美しくスタイリッシュに輝くのは当たり前だ。ベースは「すっきりと片付いた部屋」。部屋の散らかった良い子のみなさんは、くれぐれも真似をしないように。

広々としたロフトのおかげで、生活感のあるものが2階に集約されてすっきりと暮らせる
人との出会いや風景写真などのイメージソースを、自分に蓄積する日々
Instagramの風景写真が印象的な田中さんだが、素材は散歩中の風景や友達と遊びに行った場所、それにヒッチハイクなどで国内を旅して回った時のものもあるという。
「ヒッチハイクは意外と乗せてくれるんですよ。気前のいい社長さんがご飯をご馳走してくれたり、家に泊めてくれたり、ヒッチハイクは人との出会いの宝庫です。役者を目指す自分の役作りの上でも非常に参考になる」と訥々と話す様子からは想像もできないアナーキーさだ。
言葉にはできない感覚や瞬間を切り取ったような田中さんの写真。絶妙なバランス感覚で、つい見入ってしまう求心力の強さがある。なんだか田中さん自身のようで不思議だが、この写真を見てオリジナルブランドの出店を依頼されることも増えたそうだ。
ヒッチハイクで出会った人たちとの思い出も隣人とのちょっとしたトラブルも、幸せな思い出から嫌な経験まで、すべて柔らかく吸収して自分の中に取り込み、積み重ねている田中さん。「すべて役者になるための栄養になるので」と笑う。

田中さんの好きなものがずらりと並んだ壁。統一感はないのに不思議としっくりくる
植物を育て・世話を焼き・成長を喜ぶ、植物中心の生活
もともと植物が好きで独学で学んでいたが、専門の知識を吸収するため、現在は勉強を兼ねて小売の店でアルバイトとして働いている。
部屋を覆うように飾られているのは観葉植物、多肉植物、コケ、食虫植物、シダ植物と多種多様な植物たちだ。毎朝、仕事に行く前と後に全ての健康状態をチェックし、霧吹きや水やりをする。休日には午前中いっぱいをかけて世話をするという植物中心の生活を送っている。
植物の魅力をたずねると、「同じ種類の植物でも一つ一つに全く違う個性があり、その個性を見極めながら育てる醍醐味があります。植物は自然界にあるアート。育てていくのはデザインをするのと同じです」と表情が明るくなった。
針金や麻紐の骨太なプラントハンガーは田中さん自作のもの。これなら一人暮らしの小さな部屋でも省スペースで植物が飾れる。
「もともと鉢に入っていたものを土を落として水苔を巻いて、針金や麻紐で吊るしています。現地では苔や木にへばりついて育ったものなので、よりオリジナルに近い形にしただけ。元の姿に近づけた方がよく育ちますから」(田中さん)
あくまでも自然に寄り添い、植物をコントロールしようとはしない。彼らが彼ららしく育つことをよしとし、すくすく育つ様を見ることが幸せだと語る。いつかは熱帯地方に生き、そこに育つ本来の植物たちの姿を見てみるのが目下の目標。おそらく人よりも植物が多い前人未到のジャングルの可能性は高いだろうけれど、ぜひその夢は叶えてほしい。

思い思いに自由に育っている植物たち。日本でこんなに元気に暮らせるのは個性に寄り添った育てられ方をしているから

育てるのが難しいと言われる食虫植物もいる。虫を食べなくても生きられるが、食べると元気になるそうだ
「物々交換」で敷居を下げて広げたい植物の魅力と知識
一人暮らしでも手をかけずに育てやすい植物を聞くと、「サボテンですね」と即答した。中でも「金鯱(きんしゃち)」は、姿も愛らしく水やりも簡単で、素人でも育てやすいそうだ。
一番のお気に入りを聞くと、ざっくりと体がえぐれているサボテンを見せてくれた。「もっときれいなサボテンもあったけど、これを選んだ。この傷からエネルギーや生命力を感じたから」。この繊細さ、優しさが田中さん最大の魅力ともいえる。

これが初心者におすすめの育てやすい「金鯱」。コロンとして可愛らしい

中心がざっくりとえぐれながら、大事に育てられすくすくと育ったサボテン
小さい植物から育てるのが好きなので、どんどん大きくなって増えすぎるのが悩みと話す田中さんが、最近はじめた面白い試みがある。それは植物とパーソナルなものの「物々交換」。
「僕のInstagramを見て、“ほしいけど育てられるか心配”という人が結構います。その人たちに株分けをして、育て方などの知識と情報を差し上げる代わりに、相手の得意なことと物々交換するんです。例えばパティシエの人ならお菓子とか、もちろんモノじゃなくても、歌手の卵なら一曲歌ってもらったり、役者なら1分間即興で演技してもらったり」(田中さん)
そうすることで、植物を育てることに二の足を踏んでいた人のハードルを下げ、より植物の魅力が広がることを期待している。
「最近、植物ブランドでオーダー制作をはじめました。これは発注者の方のインスタを見たり、個人的なストーリーを聞いて、その人のイメージにぴったりな植物を提案するもの。新たな人たちとの出会いもあって楽しい仕事の一つです」(田中さん)
飲みに行っても、若い人たちはなかなか植物の話に興味を持ってくれない…と少し寂しそうに話してくれた田中さん。彼の自然体の柔らかさはまるで植物のようだが、同時に強く押してもぽきっと折れない強さも感じさせる。「役者」と「植物」の両輪で、しなやかに軽やかに進む田中さんの未来の姿がふと目に浮かんだ。

ベランダもこの通り。ここには多肉植物・サボテンが多く並ぶ

植物と共にステキな暮らしをこれからも続けていく
文=元井朋子
写真=編集部