賃貸物件で立ち退きを求められたら拒否できる?立ち退き料の相場・交渉術を弁護士が解説

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賃貸物件で立ち退きを求められたら拒否できる?立ち退き料の相場・交渉術を弁護士が解説

ある日届いた管理会社や大家さんからの「立ち退き退去)のお願い」。 大家さんからの要求となれば「すぐ出ていかなければならないの?」と不安になるかもしれない。

結論から言うと、立ち退きの要求に対してすぐに同意したり、無理に引越しの準備を始めたりしなくてもよい。賃貸物件に住む入居者の権利は「借地借家法」という法律で強力に守られており、一定の条件を満たしていない限り、立ち退きを強制されることはないからだ。

ただし、原則として更新がない「定期借家契約」を結んでおり、大家さんから再契約しないと通知された場合は期間満了で退去する必要がある。

本記事では、弁護士監修のもと、立ち退きを求められた際の入居者(賃借人)の権利や「正当な理由」の基準、立ち退き料の考え方や冷静に話し合いを進めるためのステップを解説する。

※記事の内容は、2026年8月の法令・情報に基づいています

芝大門法律事務所 高橋真司先生

慶應義塾大学卒業後、99年に弁護士登録・芝大門法律事務所へ入所。不動産紛争、居住者間のトラブルなど多くの大家さんが悩むテーマを中心に取り扱う「不動産問題のプロ」。著書に「賃貸住宅の法律Q&A」(大成出版社・共著)ほか。

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立ち退きは拒否できる? 知っておきたい入居者の権利

大前提として、賃貸借契約を解約するには「大家さんと入居者、両者の合意」が必要となる。つまり、大家さんが立ち退きを求めたとしても、入居者側が同意しなければ、原則として立ち退く必要はない。

法律(借地借家法第28条)では、大家さん側に「正当事由(正当な理由)」がなければ更新拒絶や解約(立ち退き要求)は認められない、と定められている。つまり、大家さんに正当な理由がない限り、入居者は「引越しが面倒」「今の部屋が気に入っている」といった個人的な理由であっても、立ち退きを強制されない。

さらに、大家さんからの更新拒絶通知(立ち退き要求)は「契約書で定められた契約期間満了日(退去日)の6ヵ月前まで」に行う必要があると法律で定められています。もし「来月中に出ていってほしい」など、期間が6ヵ月未満であった場合はルール違反となるため、契約更新(延長)を求めることができます。

大家さんの「正当な理由(正当事由)」とは何か?

では、どのような理由であれば「正当だ」と認められるのだろうか。 実は、正当な理由の定義は法律で厳密に定められているわけではない。「大家さんと入居者が物件を必要とする事情」や「物件の利用状況」などを総合的に見て判断される。

一般的に、正当事由として考慮されやすいのは以下のようなケースだ。

  • 大家さん自身の事情:大家さんが自身の居住用や事業用として、その物件をどうしても使用する必要がある場合など
  • 建物の状況:建物の老朽化が激しく、倒壊の恐れがあるなど住み続けるのが危険な場合など
  • 公的な事情:都市再開発などによって、建物を建て替えなければならない場合など

ただし、「建物の老朽化などで危険な場合」のように入居者の安全に関わるケースを除き、これらが1つ当てはまるからといって即座に「絶対に出ていかなければならない」となるわけではない。

「立ち退き料を支払うから出ていってほしい」というケースも多く見られます。ただ、立ち退き料の支払いは、大家さん側の正当な理由を『補充する条件』に過ぎず、大家さんに建物使用の必要性がないのにお金を払うことのみで自体が正当な事由が認められることにはなりません。つまり、「お金を払うから」と言われても、入居者が納得していなければ立ち退きを強制されない場合も多いのです。

なお、家賃を長期間滞納している、無断で別の住人を住まわせている、近隣に重大な迷惑をかけ続けているなど、入居者側による重大な契約違反がある場合は、大家さんが債務不履行に基づいて催告して(契約の条項等によっては即時)契約を解除できることが多いので、「正当の事由」の問題にならない。この場合、立ち退きを強制され、立ち退き料も支払われない可能性が高いので注意しよう。

立ち退き料に相場はない? 請求できる費用の考え方

立ち退きに応じる場合、気になるのが「立ち退き料はいくらもらえるのか」という点。ネットで検索すると「立ち退き料は家賃の6ヵ月分程度」「老朽化した物件なら30〜50万円」といった相場が紹介されていることがあるが、これはあくまで一部の事例に基づいた参考値にすぎない。

立ち退き料に明確な“相場”は存在しません。月額家賃が5万円の物件と50万円の物件では費用感が大きく異なりますし、立地や建物の老朽度、入居者ごとの事情を踏まえた個別の判断が必要になります。

立ち退き料は一概に「家賃の〇ヵ月分」と決まっているわけではなく、「立ち退きによって入居者が被る経済的損失」をベースに金額を割り出していくのが基本的な考え方だ。具体的には、以下のような項目が立ち退き料(補償)の内訳として考慮される。

  • 引越し費用: 引越し業者への代金など
  • 新居の初期費用: 新しい物件を借りるための敷金・礼金・仲介手数料・火災保険料など
  • 差額家賃: 今の部屋と同等の条件(広さ・立地など)の部屋に引っ越した際、家賃が高くなってしまう場合の、一定期間分(1〜2年分程度)の差額
  • その他の実費: インターネットの移転工事費など

「今の家賃と同額の物件が見つからない」「急な引越しで有休を使わなければならない」など、引越しによって生じる負担を具体的にリストアップしよう。

このとき、単に口頭やメモで金額を伝えるのではなく、「引越し会社の見積書」や「検討している新居の初期費用の見積書」など、金額の根拠となる客観的な資料を準備しておくのがポイントだ。実際のデータをもとに妥当な金額を大家さんとすり合わせていくことで、相手も納得しやすくスムーズに話し合いを進められる。 

引越し費用や新居の初期費用、差額家賃の2年分などを積み上げていくと、結果的に『家賃の6ヵ月分程度』にまとまるケースは少なくありません。また、長年住み続けている場合などは、入居者側の『借家権(その部屋を借りて住む権利)』の価値が立ち退き料に上乗せされることもあります。このように法的な判断や複雑な計算が必要な場合は、早めに弁護士に相談するのも一つの手です。

立ち退きに納得できない場合の交渉と、拒否する流れ

立ち退き要求が認められるかどうかの最終的な判断は、調停や訴訟で行われる。しかし、まずは入居者と大家さんの「話し合い(交渉)」によって解決を図るのが原則だ。以下の流れで冷静に対応を進めよう。

STEP1:立ち退きの理由と期日を正確に把握する

手紙や電話で立ち退きを求められたら、まずは大家さんや管理会社に「なぜ立ち退きが必要なのか」という詳しい理由と、「いつまでに退去してほしいのか」を確認しよう。建物の老朽化など安全上の問題がある場合もあるため、理由をきちんと把握することが大切だ。 また、この時点で契約期間満了日が「6ヵ月未満」であれば、法律に基づき契約の延長を主張できる。

STEP2:条件面を話し合い、交渉する

立ち退きの理由を確認したら、立ち退き料などの条件を確認しよう。提示された条件に納得できるなら、合意して引越しの準備を進めて良い。

もし、「立ち退き料が少なくて次の住居の契約や引越しに支障が出る」「準備期間が短い」など不満がある場合は、遠慮なく大家さんに交渉してみよう。特に長年住んでいた物件の場合、昨今の経済事情で周辺の家賃相場が上がっている可能性が高い。そのため、「今の家賃と同じ金額で、同エリア・同スペックの物件を借り直すのは困難である」といった実状を伝えることも大切だ。 

こうした入居者側の負担を具体的に伝えることで、立ち退き料の増額や期日の延長を考慮してくれるケースも多い。

STEP3:納得できなければ「拒否」する

条件交渉を重ねても妥協点が見つからず、退去したくない場合は、立ち退きを「拒否する」ことも考えられる。立ち退きはあくまで個人間の契約の問題であるため、両者が合意しなければ、正当事由が認められない限り、そのまま住み続けることができる。

入居者が立ち退きを拒否しても、大家さんが退去を求める場合は、「調停」や「訴訟」へと発展する可能性がある。第三者を交えて客観的にトラブルを解消するための手段だが、時間や費用、そして心理的な負担がかかるのも事実だ。

また、最終的に大家さんが求めている内容で正当事由が認められ、退去を強制する判断が出る場合も考えられる。

「話がこじれそうだな」と感じたら、一人で抱え込まずに以下の専門窓口へ相談しよう。

  • 各自治体の無料法律相談: 市区町村の役所などが定期的に開催している弁護士相談
  • 消費生活センター(消費者ホットライン:188)賃貸トラブル全般についての初期のアドバイス
  • 不動産トラブルに詳しい弁護士: 立ち退き料の妥当性や、大家さんの「正当事由」の法的判断、交渉の代理など

専門家から客観的なアドバイスを受けることで、裁判を回避してスムーズな和解に持ち込めるケースも多いことを覚えておこう。

まとめ

大家さんから立ち退きを求められたからといって、無条件で従う必要がない場合は多い。「正当事由」がないと考えられる場合や、条件に納得できない場合は、立ち退きを強制されない、つまり居住を続ける権利が法律で保障されている。

一方で、建物の老朽化など、大家さん側にもやむを得ない事情(正当事由)がある場合がある。「自分の生活を守るための費用」である引越し費用や立ち退き料をしっかりと計算し、互いに前向きな姿勢で妥協点を探ることが大切だ。 正しく法律の知識を身につけて、冷静に話し合いを進めていこう。

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