【解説】映画『日日是好日』で描かれる茶道と人生。「すぐにわからないもの」が教えてくれること
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黒木華主演・映画『日日是好日』の魅力を解説!
2020年9月21日(祝・月)ひる1時より、テレビ東京・午後のロードショーにて映画『日日是好日(にちにちこれこうじつ)』が地上波初放送される。
本作の原作は森下典子によるエッセイ『日日是好日 「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』(新潮文庫刊)。25年に渡って茶道を続ける女性が得た、たくさんの“学び”を綴った内容になっている。
映画は、自分の将来に悩む女性を繊細に演じた黒木華、きっぱりとした性格で可愛らしい多部未華子、そして、しっかりした佇まいのお茶の先生に扮した故・樹木希林という、3人の女優の存在感も含めて楽しめる内容。美しく場面を切り取る撮影によって、茶道の作法を実際に見られること、四季折々の風情を堪能できることも、映像作品ならではの魅力だろう。
本作が伝えていることは茶道の作法だけに限らない。人生における大切な価値観・哲学に気づかされる物語にもなっていたのだ。この記事では、そんな映画『日日是好日』の魅力について、たっぷりと解説していこう。
映画『日日是好日』の魅力1:「茶道ってなんだかヘン」から始めるからこそ、親しみやすい物語

映画『日日是好日』は、当初は153館という中規模での公開でありながら初登場2位の週末興行収入を記録し、公開館数はその後に230館まで拡大、最終興行収入は12.8億円という好成績を記録。作品評価も高く、日本アカデミー賞、報知映画賞、日刊スポーツ映画大賞、キネマ旬報ベスト・テンなどで多数の賞を受賞した。
特に女性や年配層からの支持を得ていたというこの映画。茶道を知らない方にも『日日是好日』が親しみやすい作品になったのは、序盤から「茶道ってなんだかヘン」だということを、はっきりと言っていることも大きな理由ではないだろうか。
初めて茶道の教室に訪れた主人公の典子(黒木華)とその従姉妹の美智子(多部未華子)。まずは帛紗(ふくさ)という布を折り、それで棗(なつめ)という漆器を拭き浄める作法を、戸惑いながらも従順に学んでいく。お茶菓子の見た目の可愛らしさを見て、やっと緊張がほぐれた2人。
「お抹茶はお茶碗に残さないように、最後に音を立てて飲みきるの」という作法を先生から聞いた時、典子は「えっ?音を立てるんですか?」と驚いて、たまらず笑ってしまう。美智子も「お茶ってヘンですね」「すっごくヘンですね」と言ってしまう。
言いにくいことのようだが、それは“当然の疑問”でもある。もちろん、ただ茶道をヘンだと否定するのではなく、その後の物語では茶道から得た学びや、「こういうことだったんだ」という気づきを丹念に綴っていく。
この「リスペクトをして、様々な思考を巡らせながらも、当然の疑問は包み隠さない」という気取らない作風だからこそ、映画『日日是好日』は大きな支持を集める作品になったのだろう。原作エッセイでは映画よりも辛辣な文言をもって、様々な茶道への疑問も綴られているので、合わせて読むとさらに楽しめるはずだ。
その後も生徒たちが茶道を学ぶ様、先生とのやり取りは何とも微笑ましく、作法を1つ1つこなしていく様は美しくもある。しかし、やはり「茶道ってなんでこんなに面倒な作法をやらなきゃいけないんだろう?」という、根本的な疑問も浮かんでくる。
映画『日日是好日』では、25年という時間をかけて、「なぜ茶道が“そうなっている”のか」という疑問をゆっくりと解き明かしていく。そして、その大いなる疑問を、茶道だけに限定しない、人生を包括した価値観・哲学へと昇華していることこそが、本作の主題と言ってもいいだろう。
映画『日日是好日』の魅力2:「すぐにはわからない」からこそ学べること

映画『日日是好日』の公式サイトには、以下のような文言がある。
世の中には、「すぐわかるもの」と、「すぐにはわからないもの」の二種類がある。すぐにわからないものは、長い時間をかけて、少しずつ気づいて、わかってくる。子どもの頃はまるでわからなかったフェリーニの『道』に、今の私がとめどなく涙を流すように。
これと符合する文言は、原作エッセイの「まえがき」にもある。映画では、冒頭で映画『道』を家族と観た幼い典子が「ディズニーのほうが良かった!」と文句を言っており、中盤とラストで作品の意義を改めて提示するという構成になっている。
フェデリコ・フェリーニ監督の1954年の『道』は純粋無垢な女性と不器用な男の旅を追った暗いトーンの作品であり、映画史に残る名作であると称賛される反面、とてもじゃないが子どもにはおすすめできない内容だ。
だが、人生の酸いも甘いも嚙み分けた大人が観ると、登場人物の複雑な感情や、切ない価値観がわかる。『道』に限らず、幼い頃に観た映画を観返してみて、新たな魅力に気付けたり、はたまた全く違う印象になったという方は、少なくはないはずだ。
『日日是好日』では、茶道も『道』と同じく「すぐにはわからないもの」としている。茶道の作法の数々を「なんでこんな決まりがあるの?」と、意味のない形式主義的なものだと思っても、それは全体の中のほんの断片にすぎない。全体像をつかむことができたり、その本質に気づけるのは、だいぶ後のことというのは、映画や茶道だけでなく、すべての“学び”を得る物事すべてに通じるものだ。
そして、「すぐにはわからないもの」が「わかるようになる」ということは、とても意義深いことだ。本質を知るまでには時間がかかるが、それだけの時間を掛けた、自分でじっくりと考えて得た答えだからこそ、本当の学びになる。これもまた、すべての物事、そして人生に通ずることだろう。
映画『日日是好日』の魅力3:「日日是好日」と、季節に合わせて変わる作法の、本当の意味

劇中では、掲げられた「日日是好日」の書を見て、「これ、どういう意味?」「毎日がいい日だってことじゃない?」「それだけ?」などと典子と美智子が話し合うシーンがある。その時には答えは出なかったが、タイトルにもなっているこの「日日是好日」の意味を解き明かしていくことも、この作品の大きな柱だろう。
結論から言えば、「日日是好日」は「その日が良いとか悪いとかいった単純な優劣や損得にとらわれず、その一日一日をただありのままに生きよう、喜びであろうと悲しみであろうと、その時の感情をも大切にしよう」という教えである。
この教えは、典子の悩みの多い人生に重なってくる。彼女は就職が上手くいかず、親しい美智子だけでなく周囲の人々が結婚や出産などの人生を駒を進めていく中で、モラトリアムの真っ只中。居場所のないような感覚があった。典子は結婚を考えていた相手の裏切りも経験し、そして終盤にはさらなる悲劇も襲う。そんな時には、さすがに「今日も良い日」だなんて思えないのが普通だろう。
しかし、そうした悲しみや痛みも含めた感情や状態をも、大いに味わって過ごせば、それはきっとかけがえないのない日であると、「日日是好日」という言葉は唱えている。終盤で、典子はお茶室で窓の外に土砂降りの雨を見ていた。そこで典子は、想像の中で海辺にいる“ある人”を目にし、そこで自身が土砂降りの雨を浴びているにも関わらず、“感謝”を告げる(映画において雨は往々にして登場人物の“涙”を示している)。彼女がそのようなイメージをしたのも、「日日是好日」の意味が真に理解できたからだろう。
茶道では季節に合わせてお点前の作法が変わってしまうため、「せっかく少し楽しくなったのに、振り出しに戻ったみたい」と、学んだことがそこでリセットされたようだと感じる典子。しかし、その日その時の気候や天気に合わせて茶道の道具の組み合わせや手順が変化する様も、実は「今という季節を、視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚の五感ぜんぶで味わうために必要だった」と気づいていく。
雨の日は雨を聴き、雪の日は雪を見て、夏には暑さを、冬には寒さを感じる。季節に合わせて形を変える茶道は、そうした「(ありのままの)生き方」そのものを示しているのだ。これも「日日是好日」の価値観そのものであるし、「すぐにはわからないもの」が「わかるようになる」過程を経て典子たち、そして映画を見ている私たちが得た、大切な答えだ。
映画『日日是好日』の魅力4:一見して不自由な茶道は、自由な価値観を教えてくれている

原作エッセイには、「茶道は『人を型にはめるがんじらめの世界』だと思っていたのに、実はすべてが自由だったのだ」という文言がある。茶道の作法そのものは厳格で、一見して不自由で融通が利かないものに見えるが、実はそうではない、としているのだ。
その理由の筆頭が、茶道と、多くの人が経験する学校教育とは全く違うということ。個性を重んじているはずの学校教育だが、人を競争に追い立てるという制約や不自由がある。一方の茶道には「お茶がわかる」までに時間制限はなく、理解が早い方が”評価”をされるということもない。お茶への理解が遅くて苦労をしても、いつしかその人なりの深さが生まれることもあるし、学ぶ人それぞれのお茶の形があるのだ、と。
この“多様性”に通ずる価値観も、茶道だけでなく人生に置き換えられるものだろう。学校のテストで良い成績を残す者だけが大成するというわけではないし、成功の基準や望む生き方は、人それぞれで異なる。一見して不自由に思えた茶道は、そうした自由な価値観をも教えてくれている、というわけだ。
さらに原作では、こうも訴えられている。「お茶は、どんな解釈をも許容する。ならば、私の見方もまた、1つの茶の世界なのだ」と。この言葉もまた真理だ。どれだけ茶道や人生について思考を巡らせ、ついに答えを得たとしても、それは一人の人間の考え方にすぎない。どんな解釈であっても自由というのも、茶道および人生の本質だろう。
季節は何度も巡ってきて、また同じような茶道を繰り返していくという、ある意味で当たり前のこともこの映画は教えてくれる。その「ずっと続いていく」こと、その繰り返しの過程には、やはり新しい学びがあり、その学びがあればこそ、人は成長し続けていく。これも人生に通じていることではないか。
『日日是好日』は茶道と人生を重ね合わせ、これほどまでにたくさんのこととを教えてくれているのだ。
映画『日日是好日』の地上波放送情報
9月21日(月・祝) テレビ東京 午後のロードショー『日日是好日』午後1時00~3時00分
「テレビ東京」公式サイト
映画『日日是好日』DVD&Blu-ray発売中

DVD&Blu-ray好評発売中
DVD:4,290円(税込) Blu-ray:5280円(税込)
発売元 ハピネット/パルコ 販売元 ハピネット
©2018「日日是好日」製作委員会
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参考:日日是好日 | 禅語を味わう || 黄檗宗 少林山達磨寺
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