【解説】映画『名探偵ピカチュウ』にみる、ポケモンの世界の新解釈とは? 大ヒットの「5つ」の理由
映画『名探偵ピカチュウ』の魅力を5つのポイントから解説!
5月22日に金曜ロードSHOW!で映画『名探偵ピカチュウ』が本編ノーカットで地上波放送される。
本作は世界的に知られる日本発のコンテンツ『ポケットモンスター』シリーズを基にした初のハリウッド映画(ただし『ポケットモンスター』シリーズとこの映画は同一の世界観ではない)にして、ゲームの『名探偵ピカチュウ』を原作とした作品である。
その成功の理由は、本作が持つ種々の魅力にある。この記事では、映画『名探偵ピカチュウ』の5つの魅力と面白く観られるポイントについて、本編のネタバレに触れない範囲でたっぷりとご紹介しよう。
映画『名探偵ピカチュウ』の魅力1:ポケモンたちが当たり前にいる世界がすごい!『ミュウツーの逆襲』のオマージュも!
『名探偵ピカチュウ』の魅力としてまずはじめに挙げたいのは、「人間とポケモンたちが都市で一緒に暮らしている世界」が構築されていることだ。
駅に降り立てば、カビゴンが路上で寝ていたり、オクタンが屋台で働いていたり、カイリキーが4本ある腕を利用して交通整理の仕事をしている。他にもたくさんのポケモンたちが、当たり前のように街を往来しているのだ。
もう1つ重要なのは、ピカチュウをはじめとしたポケモンたちの毛並みや質感の表現だ。3DCGらしい表面がツルツルした表現ではなく、動物、植物、鉱物など自然界にあるものの質感を再現している。シーン1つ1つの作り込みも半端なものではなく、暗い部屋でスタンドデスクの光に照らされた時の影の作り方、水でずぶ濡れになった時の毛並みの表現に至るまで妥協は一切みられない。
ついに劇場であの #ポケモン たちに会える!
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かつてゲームボーイで遊んでいた頃の白黒のドット絵のイメージや、テレビアニメの2Dで描かれたポケモンとも全く違う、“現実の世界のような光景”は、『ポケットモンスター』を良く知る人ほど(知らない人でも)感動的に映るだろう。
『ポケットモンスター』の世界に最大級のリスペクトを払った結果としてそれらの映像表現が生まれたことは言うまでもないが、さらにアニメ映画『ミュウツーの逆襲』(1998)のオマージュもある。
映画『名探偵ピカチュウ』でもミュウツーが重要な役割を果たしており、『ミュウツー〜』と似たシチュエーションや構図がある他、冒頭のミュウツーが液体に入っている時の空気の泡が同じ形になるようにこだわったのだという。
“現実の世界にポケモンがいる光景”を映像で表現するために、世界最高峰のスタッフたちがこれ以上のない努力と研鑽を重ねて生まれた作品である、ということを何よりも賞賛したいのだ。
映画『名探偵ピカチュウ』の魅力2:ピカチュウの“KAWAII”と“しわしわ顔”はこうして生まれた!
?しわしわ?
?もふもふ?
?うるうる?
?ふわふわ?
?とぼとぼ?おじさんピカチュウに
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前述の“現実の世界にポケモンがいる光景”の魅力につづき、主人公の相棒となるピカチュウが、全身骨抜きにされるほどにかわいいということも超・重要だ。これは脳細胞に直接届くかわいさだと思う。
ロブ・レターマン監督によると、日本語の“KAWAII”という感覚をまさに重視したそうで、「抱きしめたい」と思ってもらうために、ピカチュウの毛並みも長すぎず短すぎずの絶妙なバランスを目指していたのだという。
SNSで大いに話題になった“しわしわピカチュウ”をはじめとした表情は、そのピカチュウの声を担当した俳優ライアン・レイノルズの顔面にたくさんのセンサーを取り付けたこと、つまりモーション(フェイシャル)キャプチャーにより製作されている。わずかな表情の変化もピカチュウの顔に反映することで、かわいさはそのままに、リアルな人間の表情の豊かさも再現されているのだ。
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ピカチュウは骨格や筋肉に至るまで徹底的に作り込まれており、コマ送りにするとピカチュウの有名なポーズが随所に散りばめられてもいることもわかるのだそうだ。もはや努力というよりも、妥協を許さないクリエイターの“執念”が、このかわいくてたまらない、ギュッとしたくなるピカチュウを作り上げたのだ。
ヒロインのパートナーであるとぼけたコダックや、ヨシダ刑事のそばにいる(怒っているように見える)ブルー、その他の劇中のすべてのポケモンが見ているだけで幸せになれる愛らしさだ。
余談だが、劇場公開日の直前(日本では劇場公開の直後)に、「POKEMON Detective Pikachu: Full Picture」というタイトルの動画が投稿されていた。違法アップロードされた本編かと思いきや、1時間42分に渡ってピカチュウが愛らしく踊っていた……つまりはプロモーション用の映像だったことが大反響を呼んだのだ。「モフモフかつ動いているピカチュウはこんなにもかわいいんだぞ!」ということがダイレクトに伝わる斬新かつ効果的な宣伝だったと言えるだろう。
映画『名探偵ピカチュウ』の魅力3:リアルな映像化の障壁? ゲームならではの設定が持つ“危うさ”へのひとつの回答
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『名探偵ピカチュウ』の舞台である架空の街ライムシティでは、人間とポケモンたちが“パートナーシップ”を結んでいて、共に寄り添って暮らせる場所を目指している。バトルも、トレーナーも、捕獲のためのモンスターボールもない場所であるともアナウンスされていた。
ポケモンの世界を実写映画化するに当たって、この設定はリアルな映像表現と同等に重要だったのではないだろうか。
ピカチュウが登場する『ポケットモンスター』のゲームでは、「モンスターボールを使ってポケモンを捕まえる」「ポケモン同士を人間の命令により戦わせる」という基本中の基本となる設定がある。「ポケモンを攻撃して弱らせたり眠らせたほうが捕獲の確率がアップする」という要素はよく知られている。
もちろんその設定はゲームの面白さに直結しているのだが、そのまま映画で再現してしまうと、現実社会での一方的な暴力にも見えかねない、倫理的な危うさが出てしまう恐れがある。既存のゲームやアニメに比べ、生身の人間が登場する実写映画ではその生々しさが顕在化しやすかったのではないだろうか。
本作で構築された、パートナーシップおよび架空のライムシティという舞台は、ポケモンと人間との関係におけるひとつの回答、新解釈とも言えるものだろう。
架空のライムシティでも、ポケモン同士のバトルが闇カジノ的な違法な場で行われているのも“ありそう”なブラックな設定として生きている。欺瞞にならない、説得力も十分で、かつポケモンファンも納得できるという、極めてバランスの取れた内容になっているのだ。
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ロブ・レターマン監督は「ポケモンが人間のいい部分を引き出してくれる」という株式会社ポケモンの社員の言葉に感銘を受け、「ポケモンの世界にはポケモンとの絆がある」「時としてポケモンは人間の希望的存在である」といった“人間とポケモンの絆・繋がり”を映画でも大切にしていたのだとも語っていた。本作は、ポケモンの世界の根底にある尊い精神性を大切にしている作品なのだ。本編の物語を追えば、絆・繋がりという価値観に真摯に向き合っていることが伝わるだろう。
余談だが、前述したアニメ映画『ミュウツーの逆襲』ではポケモン同士を戦わせることそのものを否定的に描くというショッキングな展開がある。これは遺伝子研究によって人間に作られたポケモンであるミュウツーという存在に向き合った結果として生まれた、必然性のあるものだった。同作については以下の記事でも解説しているので、合わせてチェックしてみてほしい。
映画『ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』にはメタフィクション的構造があった?自己存在を問う物語を今一度解説する
映画『名探偵ピカチュウ』の魅力4:フィルム・ノワールの影響、そしてあの有名アニメ映画との類似も?
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この『名探偵ピカチュウ』では、有名映画のオマージュも数多くある。特にライムシティの夜の光景はフィルム・ノワール(退廃的な傾向のある犯罪映画の総称)の影響が強い。
ロブ・レターマン監督は『第三の男』(1949)の他、SF映画の金字塔『ブレードランナー』(1982)や日本のアニメ映画『AKIRA』(1988)、黒澤明監督の『天国と地獄』(1963)をフィルム・ノワールと捉えて参考にしたと明言している。英語圏である世界の中にカタカナも書かれた看板のネオンが輝いている光景はまさに『ブレードランナー』的であるし、濡れた地面、街路に炊かれた煙、ダークな色合いの画は往年のフィルム・ノワールらしい耽美な魅力に満ち満ちていた。
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物語は主人公と相棒がタッグとなり事件を解決する『48時間』(1982)に代表される“バディもの”であり、人間と動物(アニメ)のコンビが活躍するという点は『ロジャー・ラビット』(1988)にも通じている。主人公とヒロインが“わざわざ背中合わせで話す”というのも刑事ものの映画の“あるある”をいじったギャグだろう。序盤で映ったフィルム・ノワール的な白黒の映画は、『ホーム・アローン』(1990)の劇中で登場する架空の映画だったりもするのだ。
そして、2016年に公開された『ズートピア』は“異種族が共存しあって生きている社会”を描いた映画であり、人間とポケモンたちが主従関係ではない、対等な存在として社会を構築している『名探偵ピカチュウ』の世界観と通じているところがあった。
『ズートピア』と『名探偵ピカチュウ』は「動物(やポケモン)を凶暴化させる物質による騒動が起きる」「それが政治的な陰謀につながっている」というプロットとアイデアも一致している。2016年に発売された『名探偵ピカチュウ』の原作となるゲームからその要素はあったため、これは間違いなく偶然の一致だ。しかし、映画『名探偵ピカチュウ』での「初めて街に来た時の光景」はカメラワークや見せ方がかなり『ズートピア』と似ていたりもする。作り手が映像面において参考にした可能性は大いにあるだろう。
映画『名探偵ピカチュウ』の魅力5:原作ゲームを遊んでよりわかるコンセプトの秀逸さ
映画『名探偵ピカチュウ』の原作となるニンテンドー3DS向けのゲームは2016年に発売されていた。初めに『名探偵ピカチュウ 新コンビ誕生』というタイトルでダウンロード販売がされ、後にシナリオを大幅に追加した“完全版”もリリースされている。
ゲームの設定は秀逸だ。誰もが知るピカチュウに“お互いに言葉でコミュニケーションができる”という新たな魅力がプラスされ、共に事件の謎を解き明かしてくという、今までの『ポケットモンスター』シリーズとは異なるエンターテインメント性が打ち出されている。実際にこのゲームをプレイしてみたところ、その面白さは映画でもしっかり受け継がれていたのだと実感できた。
エイパムたちが不可解な行動をするという物語の発端部分から、行方不明の父親および謎の物質の正体を追う流れなど、メインのストーリーラインはゲームと映画でかなり一致していて、ピカチュウがコーヒー好きといった細かい設定も共通していた。
ゲームには、映画にはない“洞窟に閉じ込められてしまう”といったシチュエーションもあり、(ピカチュウにサポートしてもらいつつ)自ら聞き込みや現場検証をしていく“能動的”な探偵の楽しさはゲームならではなので、映画を観た人も新鮮な気持ちで遊ぶことができるだろう。ゲームとしてのつくりは丁寧で難易度も決して高くはないので、漢字がある程度読めるくらいのお子さんであれば存分にオススメできる。
“ピカチュウのおっさん声”という魅力が、映画とはまた異なる渋い声で堪能できるということも大きい。映画のピカチュウの吹き替えは西島秀俊(原語ではライアン・レイノルズ)が務めており、「やさぐれているけどそこがキュートなおじさん」な感じが楽しかったが、ゲームではテレビアニメ『鋼の錬金術師』(2003〜2004年放映版)のロイ・マスタング役などで知られる声優の大川透がピカチュウの声を担当しており、より“頼れる相棒”な印象が強く惚れ惚れとできる。決め台詞である「ピカッとひらめいた!」も大好きだ(コレは映画でも言って欲しかった)!
「ピカチュウと一緒に推理をする」ゲームは、ポケモンの世界を実写映画化するという高いハードルをクリアする目的において重要なコンセプトであったと言える。
「モンスターボールを使ってポケモンを捕まえる」「ポケモン同士を人間の命令で戦わせる」という『ポケットモンスター』シリーズの設定は実写映画向きではないともいえる。しかし、人間とポケモンが言葉も交わせる“相棒”同士であり、冒険の目的が事件の解決およびポケモンと人間たちの平和のためであればどうか。
大作の商業映画として成り立たせるための準備が、この原作となるゲームから周到にされていたからこそ、映画『名探偵ピカチュウ』は成功したと言えるのではないだろうか。
映画の最後にはある“真相”が提示されるのだが、ゲームではそれが最終的に明かされることはなく、良くも悪くも「これで終わり?」と思ってしまう顛末になっている。伏線は映画よりもわかりやすく張られていて、「そういうことだよね」と十分に推測はできるのだが、Nintendo Switchで開発中とアナウンスされている(2020年5月現在)続編まで“お預け”されている印象なのは正直ちょっと苦しくもあった。明確に真相を教えてくれて、それが物語の最大の感動につながっている映画の結末は、この原作ゲームを先に遊んでいた人にとっては溜飲を下げられるものだったのだろう。
まとめとおまけ:『ソニック ザ・ムービー』が早く観たい!
総じて『名探偵ピカチュウ』は、ポケモンと人間たちが共存する世界の構築、ピカチュウはじめポケモンたちがめちゃくちゃかわいい、といった、ポケモンの世界へのリスペクトとこだわりが魅力に直結した映画と言える。
印象に残るシーンを振り返っても、バリヤードをマイルドな拷問にかけるというブラックなギャグがあったり、中盤に“天地がひっくり返る”ような大スペクタクルが展開したりと、楽しい見せ場の連続だ。それでいて、“父と子”のホロリと泣かせるドラマまで用意されているというのだからスキがない。
正直に言って「こっちかと思ったら実はこっちでした」という“ひっくり返し”の連続で進む物語は(原作ゲームに比べ上映時間が限られているためでもあるが)探偵らしい推理要素にやや乏しく、悪役の最終的な行動が意味不明のうえに迂闊すぎるなどとツッコミたくなる部分もある。しかし、ポケモンたちが生きている世界でおっさん声のピカチュウと一緒に冒険をしていくというワクワクは、そんな欠点を帳消しにしてしまえるほどの唯一無二の魅力だ。それは細部に至るまでのスタッフの飽くなき研鑽の賜物。きっと、二度三度と観ることで新たな発見もあることだろう。
現在、『名探偵ピカチュウ』と同様にゲームを原作とし、実写と3DCGアニメの融合で作られた映画『ソニック ザ・ムービー』が近日公開予定となっている。
全米ではゲーム原作映画史上最高のオープニング成績を記録した大ヒット作であるが、残念なことに新型コロナウイルスの影響で日本での公開日はいまだに未定となっている。こちらもかわいい(カッコいい)キャラクターを堪能できる、原作ゲームへの愛に溢れた内容であることは間違いないだろう。公開を心待ちにしている。
参考記事:
【インタビュー】なぜピカチュウはふさふさ、もふもふなのか ─ 『名探偵ピカチュウ』ロブ・レターマン監督に訊く
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文=ヒナタカ
インディーズ映画や4DX上映やマンガの実写映画化作品などを応援している雑食系映画ライター。過去には“シネマズPLUS”で、現在は“ねとらぼ”や“ハーバー・ビジネス・オンライン”などで映画記事を執筆。“カゲヒナタの映画レビューブログ”も運営中。『君の名は。』や『ハウルの動く城』などの解説記事が検索上位にあることが数少ない自慢。
Twitter:@HinatakaJeF
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