【解説】映画『ターミネーター:ニュー・フェイト』シリーズ第6作目が賛否両論の理由を徹底考察
映画『ターミネーター:ニュー・フェイト』を肯定したいと思える3つの理由

その1:多様性のあるキャスティング
今回の『ニュー・フェイト』が多様性に富んだキャスティングになっていることも特筆すべきだろう。謎の女性を演じたのはカナダ人のマッケンジー・デイヴィス、事実上の主人公を演じたのはコロンビア人の新鋭女優のナタリア・レイエス、その弟役にメキシコ出身のディエゴ・ボネータ、新型ターミネーター役にオースティンで生まれ育ったガブリエル・ルナと、国際色の強い俳優が揃っているのだ。
『ニュー・フェイト』でのメインの舞台はメキシコであり、その場所で麻薬カルテルが跋扈していることも物語と絡んでいたりもする。それは『1』と『2』のメキシコのシーンのオマージュとも言えるだろう。何より、メキシコはまさに多様性に富んだ人種構成が特徴でもあため、その国際色のあるキャスティングに必然性があるというわけだ。なお、撮影はスペインとハンガリーで行われているのだが、大掛かりなセットのおかげもあり、違和感は全くない。
そして、(本作に賛否両論があろうとも)多くの方が絶賛するであろう事は、マッケンジー・デイヴィスの存在感だろう。彼女は、撮影前に1ヶ月ほどのトレーニングやハイ・プロテインの食事療法を行い、撮影中にも1日に5、6回のトレーニングを継続、スタントのトレーニングも綿密に行うなど、身体と精神を鍛えあげた。その体術を駆使したアクションのみならず、凛々しさと弱々しさを併せ持つキャラクター性も含めて、誰もが彼女のことを大好きになれるのではないだろうか。
その2:百合カップルの子育て奮闘記にも見えるかも?
SNSで「今回のターミネーターは実質百合映画」という感想が話題になった。もちろん同性愛というわけではなく、ブロマンスの女性版(ロマンシス)に当たる描写があるということなのだが……本編を観ればそれは納得、明らかに女性たちの“関係性萌え”があった。
何より、事実上の主人公の女性・ダニーを“守る存在”が、リンダ・ハミルトン演じるサラ・コーナーと、マッケンジー・デイヴィス演じるグレースという“2人”の大人がいるのだ。このおかげで、本作は「年の差のある百合カップルが義理の娘を守りつつその教育方針について対立し合う」という、“子育て映画”のような構図も見えてくる(※感じ方には個人差があります)。
例えば、序盤でサラ・コーナーが「パパとママはお話があるの」と冗談めかして言っていたり、中盤ではサラ・コナー直伝の銃の撃ち方が見事に成功していたり、とある作戦についてはグレースが「そんなことをダニーにさせない!」と猛反対していたりする。もはや、方や娘にスパルタ教育をしすぎるお母さん、方や娘に過保護すぎるお母さん、その間で揺れる娘という構図に見えないだろうか(見えてほしい)。そんな彼女たちが、文字通りの(血の繋がりがなくても)家族関係を作り上げていく過程は、とても感動的だ。
なお、リンダ・ハミルトンは当初の脚本に書かれていたサラ・コナーとグレースの対立関係が予測可能なうえに退屈だったと感じたため、身を粉にして脚本を練り直す作業に徹したのだとか。彼女が表現したかったのは「(女性たちが)それぞれ異なっているという事実」だったそうで、まさにその言葉通りのそれぞれ違ったキャラの魅力・関係性があることは、掛け値無しに賞賛できるポイントだろう。
余談ではあるが、グレース役のマッケンジー・デイヴィスは、Netflixで配信されているSFアンソロジードラマ『ブラック・ミラー』の中でも特に評価の高いエピソード「サン・ジュニロペ」でも主演を務めている。そちらはストレートに“同性愛もの”の作品になっており、マッケンジー・デイヴィスは何とメガネをかけて服装もダサいと言う“イケてない女子”に見事にハマっている。ぜひ『ニュー・フェイト』と合わせて観て、その役の幅の広さを知ってほしい。
その3:女性が強くある、現代に作られる意義のある作品になっている
昨今のディズニー映画である『シンデレラ』や『マレフィセント』や『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』もそうなのだが、前述したような多様性のあるキャスティングと、この“女性の強さや活躍”を描くというのは、現代に作られる映画ならではの傾向だ。
ポリティカル・コレクトネスを意識しすぎなのではないかという意見もあるが、やはり女性が強くある姿は痛快無比であるし、意義のあるフィクションにおける価値観の変容であると肯定したいのだ。
また、本作のメインキャラはこのように女性ばかりであり、アーノルド・シュワルツェネッガー以外の男性キャラは、敵のターミネーターか、モブキャラクターか、さっさと殺されるかのいずれかという勢いになっている。
また、序盤に登場する薬局のお兄さんは、薬を盗もうとしているものの体が弱り切って倒れてしまったグレースに対して、なぜか通報をせずにその逃走を手伝ってあげたりする。これは「弱っている女性に対しては優しくするように!」というフェミニズムをストレートに示したシーンなのかもしれない。ダニーが銃口を男に向けていたせいかもしれないが。

映画『ターミネーター:ニュー・フェイト』に対し、否定的になるのも致し方がない3つの理由

その1:“ゴリ押し”に思えてしまうのが気になる?
ここまで、この『ニュー・フェイト』を賞賛・肯定したが……それでもやはり、個人的には擁護できない部分もある。それは、細部の展開がやや納得しにくい、はっきり言えば“ゴリ押し”に思えてしまうところが少なからずあったことだ。
アクションシーンは派手で、それ自体は確かに観ていて楽しいのだが、矢継ぎ早に“流れ”で展開しているようにも思えるし、スケールのインフレが激しすぎるため、ハラハラもしにくくなってしまっているのではないだろうか。
事前に立てたはずの作戦もいつの間にかポシャってしまっていたりするし、ラストで提示される敵のターミネーターを倒す手段も納得しにくかった。ここは脚本をもっとブラッシュアップできたのでは……というのが正直なところだ。
その2:新型ターミネーターへの恐怖を感じにくいかも?
また、今回の敵となる新型ターミネーターは、今までにはなかったフレッシュなギミックもあり、あらゆる手段で主人公たちを追い詰めていくので面白い……のだが、やはり『2』での液体金属ターミネーターの持つ“怖さ”には遠く及ばないというのも本音だ。
これは、今回の新型ターミネーターを演じたガブリエル・ルナが比較的温和で親しみやすい顔立ちに見えてしまうせいもあるかもしれない。序盤での彼は主人公との父親とも(安心させて殺すために)フレンドリーに接しており、その“人間くささ”もむしろ魅力とも言えるかもしれないが……。
『ターミネーター』シリーズにあったはずの恐怖を感じにくいのは、アクションに特化した作劇や、明るめの画作りや演出のためなのかもしれない。これは『デッドプール』などを手がけていたティム・ミラー監督の作家性によるところが大きく、一概に悪いところとも言えないのだが、やはり物足りなさを覚えてしまう原因だろう。
その3:そもそも続編は必要ない?
本当に“そもそも”の話になってしまうが、『ターミネーター2』は本来であれば続編が必要ではないと、改めて思ってしまうところがある。『2』のラストシーンである“先の見えない高速道路”はこの後の運命が決まっていないということ=その先を描くことなど野暮そのものと言えるし、この『ニュー・フェイト』での前述した“シリーズの根幹をひっくり返すような衝撃的なシーン”に「今までのは何だったんだ?」と虚しさや怒りを覚えてしまうのも、やはり当然だろう。
さらには、その名作とされている『2』の時点で、過去と未来が矛盾なく繋がったラストで締めくくったはずの『1』における、未来での出来事を“なかったこと”にしてしまっている、前作の根本を覆すような試みをしてしまっているのだ。「そうでもしなければ(前の出来事をなかったことにしなければ)続編が作れない」というのがこの『ターミネーター』というシリーズの宿命(まさにFate)とも言えるのだが、だからこそ「やっぱり続編を作らないほうがいいじゃないか」とも思ってしまうと言うむずがゆいジレンマが、どうしても内在してしまっている。
まとめ:『ターミネーター2』以降は“大金をかけた二次創作”と思えばいいかもしれない
主観的な意見になるが、筆者は『3』も『4』も『新起動/ジェニシス』も大好きだ。そうであるのに、それらが製作者側からも“失敗作”と切り捨てられてしまうのはやはり寂しいし、それでいて(何度も言うが冒頭に衝撃的なシーンのある)この『ニュー・フェイト』だけが“正当な続編”と銘打たれてしまうのはモヤモヤした気持ちばかりが募ってしまう。
そのモヤモヤを解決する方法があるとすれば、「『2』以降を“大金をかけた二次創作”と(勝手に)思うこと」なのかもしれない。偉大な作品である『1』と『2』が“正史”であり、それ以降の作品は「『ターミネーター』が大好きなファンたちが作った、“僕たちの考えた続編”」と認識すれば、様々な“ifストーリー”として微笑ましく観ることができないだろうか。
『ターミネーター』シリーズを「何度も何度も失敗して、その度に“やり直し”をしている」とネガティブに捉えず、「ほほう、また新作の同人誌が出たのか」と認識できれば、わりと作り手も観客も幸せになれそうな気がする。少なくとも、それほどまでに『ターミネーター』が愛されているシリーズであるということは、疑いようのない事実なのだから。

参考記事:
リンダ・ハミルトン、『ターミネーター』を退屈なキャットファイトだった脚本から救った – フロントロウ
【ネタバレあり】サラ・コナーをとことん怒らせる必要があった。映画『ターミネーター/ニューフェイト』ティム・ミラー監督インタビュー | ギズモード・ジャパン
【ネタバレ】『ターミネーター:ニュー・フェイト』ジョン・コナー、監督が意図を解説 | THE RIVER
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