【解説】映画『マイ・インターン』で得られる「5つ」の仕事の“学び”とは
今から4年前の2015年9月に公開された映画『マイ・インターン』を紹介

本連載では、月イチで名作映画を、過去に公開された月に合わせて紹介していく。5回目となる今回は、今から4年前の2015年9月に公開された『マイ・インターン』だ。
本作は一見すると“働く女性を応援する”内容に思えるかもしれない。しかしながら、実際にメッセージが向けられているのは、いわゆるキャリアウーマンの女性だけではない。あらゆる世代が、仕事だけでなく、生き方そのものへの“学び”が得られる優れた映画だった。以下からは大きなネタバレにならない範囲で、『マイ・インターン』の魅力を記していこう。
なお、本作は2019年10月5日よりフジテレビ系“土曜プレミアム”枠にて地上波初放送予定だ。観たことがないという方は、ぜひチェックしておいて欲しい。
新しい人材を入れることで、悪しき習慣はカンタンに解決できるかもしれない

本作で主人公となる人物は2人いる。ファッション通販サイトを運営している敏腕女社長と、定年後に妻と死に別れ“心にぽっかりと開いた穴”を埋めたいと考えている70歳の老紳士だ。
物語はそのロバート・デ・ニーロ演じる老紳士がシニア・インターン制度で採用されたことから始まるのだが、初めは女社長からは「あなたに任させられる仕事はないの」「頼みたいことがあればメールするから」と言われてしまう(当然メールはなかなか来ない)。おかげで老紳士はしばらく仕事もなく手持ちぶさたになってしまうのだが、彼は自主的に行動することで、女社長のみならず、社員たちの意識を少しずつ変えていくことになる。
例えば、劇中ではこのようなシチュエーションがある。会社の広々としたオフィスには、書類や紙袋などの不用品が乱雑に積み上げられてしまったデスクスペースがあり、男性社員が「見るのは精神衛生上よくない」とこぼしていたりもする。つまりこのデスクスペースは、従業員みんなが見て見ぬ振り、放りっぱなしにしていた“悪しき習慣”だ。そして老紳士は、誰よりも早く会社に来て、そのデスクスペースをきれいさっぱりと片付けて賞賛されることになる。
ここだけを切り取ると「それだけ?」と思われるかもしれないが、まさに“それだけ”なのが重要だ。会社という組織に根付いた悪しき習慣はなかなか治せないが、やってきた組織以外の誰かがちょっと行動を起こすだけであっさりと解決できてしまう……これは、“新しい人材を入れると良い変革が起こる”という、一般的な組織についての寓話(教訓的な例え話)とも言えるだろう。
また、この会社のオフィスには“喜ばしいことが起こると鳴らす鐘”が設置されている。ちょっと大げさにも思えるが、これは乱雑なままのデスクスペースとは真逆の“良い習慣”と言えるだろう。もちろん、老紳士がデスクスペースを片付けた時にもその鐘が鳴る。このシチュエーションだけで会社の“悪い習慣”と“良い習慣”の両方を、そして新しい人材を入れた時の会社の“変革”を描いているというのは見事なものだ。
年長者の理想の姿をみることができる

前述した“不用品が積まれたデスクスペースを片付ける”の他にも、老紳士は周りに様々なことを働きかけ、愛されるようになっていく。その行動が“年の功”からくる経験値や、進んで“学び取ろうとする意思”に裏打ちされていることも特筆すべきだろう。
例えば、老紳士が彼女にメールで謝っているという社員に「会って話したの?」と助言をしたり、女社長の運転士を務めた時には街をよく知ってるが故の近道を見つけたりするのだ。それぞれの言葉や行動に説得力があるのは、まさに年の功、その長い人生経験のたまものだろう。
そして老紳士は、楽しみながら新しいことに挑戦し、努力もしている。例えば、会社のシニア・インターンの応募方法が“自己紹介動画を撮り、YouTubeにアップすること”であると知ると9歳の孫にやり方を聞いたり、会社に残ってFacebookアカウントの作成に挑んだりもしている。ITに関わることだけでなく、女社長が「まばたきをしない人が苦手」と知れば鏡の前でナチュラルなまばたきの練習をしたりもするのだ。
さらに重要なのは、老紳士がただの1回も高圧的な態度を取らないことである。彼は誰かを見下さず、その人の良いところを見て褒め称え、そのうえ自分が至らないところがあれば改善のための努力をして、誰かに寄り添ってサポートに徹している。もちろん老紳士がシニア・インターンでやってきた新人という立場だからということもあるが、これはあらゆる組織やコミュニティにおいても、1つの年長者の理想の姿なのではないだろうか。
この老紳士の行動とやり方は、どれもが現実離れしたものではなく、“やろうと思えばできる”ものだ。もちろん映画と完全に同一なシチュエーションはまずあり得ないが、それぞれが“今までの経験”と“これからの学び”を基本としているため、現実の仕事での人間関係でも大いに活かせるところがあるだろう。そんな「自分もやってみよう」と思えるヒントは(劇中の老紳士のような)年配者になればなるほど、映画から見つけられるのかもしれない。
無理をしすぎている人への対応も考えられる

もう1人の主人公であるアン・ハサウェイ演じる女社長が、仕事もプライベートも順風満帆に“見える”ということも、この『マイ・インターン』の重要なポイントだ。25人で始めた企業は約1年半で200人を超える規模まで成長し、自分に代わり子育てと家事をしてくれる優しい夫と、可愛い娘にも恵まれ、充実した毎日……のはずなのだが、実は彼女は忙しすぎて“周りのことが見えてなかった”ことが徐々に明らかになってくるのだ。
具体的にどのようなことが見えていなかったのか……についてはネタバレになるので本編を観て欲しいのだが、女社長の弱点が“自信とプライドがありすぎたこと”にあるということは告げておこう。例えば、彼女は部下から「外部からCEOを入れてはどうか」と問われるのだが、彼女はその提案をすぐには受け取ることができない。それには会社が急成長しすぎたため仕事が追いついていないというもっともな理由があるのだが、彼女は「自分が育てた会社を誰かに渡すようで納得できない」という意識をどうしても捨てきれないのだ。
その他にも、女社長は仕事の端々でミスをしてしまったり、部下のことをないがしろにしてしまったり、家族との時間がなかなか取れなかったりしている。ママ友からランチ会について話して「忙しいでしょうからワカモーレは市販のもので良いわよ」と言われても「(18人分を)自分で作るわ」と答えていたりする。明らかに個人ができることの限界を超えているのに……。
そんな風に、“限界を超えても頑張ろうとしている人”に、周りはどうすれば良いのか?その頑張りすぎている本人も自信やプライドよりも大切なことがあるのではないか?ということも、この『マイ・インターン』を観れば学べるだろう。
そして、しっかりした人物に見えていた女社長は、終盤である“弱さ”を露わにする。その姿に、ハッと気づかされるだろう。雲の上にいるようなすごい人物であったり、一見して悩みがなさそうに見えても、実は必要以上に無理をしていたり、とてつもない不安や孤独を抱えているのかもしれないなどと……ここにも現実の会社や組織で役に立つ、“誰かのために何かをしてあげる”ためのヒントがある。
コミュニケーションの適切な距離感も知れる(日本語で「サヨナラ」と言った理由とは?)

この『マイ・インターン』では、コミュニケーションにおける“距離感”も揶揄しているところがある。例えば、女社長は老紳士の運転する車の後部座席で豪快ないびきをかいて居眠りをしてしまい、彼女は「うるさくなかった?」と聞くのだが、老紳士はこれに「気づかなかった」と嘘を言ったため、彼女は「信じたふりをするわ」と返したりするのだ。
この前に、女社長は「車の後部座席が落ち着くの」と老紳士に告げていたため、彼は無理に起こしたり前座席に移動させたりはしない。いびきをかいたとしても、車内は2人だけの空間であり他の誰かに迷惑をかけないし、本人も自覚しているし、自分が我慢すればいいだけだから、うるさかったとわざわざ指摘する必要もない。そんな老紳士の気持ちを汲み取って、女社長は「信じたふりをするわ」と言ったのだろう。これからも付き合っていく同僚および友人として、これは“これで良い”な適切な距離感だと言える。
その反面、 ちょっと距離感を間違えてしまった”と思しきシーンもある。それは、老紳士が唐突に日本語で「サヨナラ」と別れの言葉を告げることだ。劇中でそう言った理由は明かされなかったが、おそらく彼は女社長がランチに寿司を食べていたことに気づき、日本の文化に関心があるかもしれないと推測したのだろう。女社長が彼に「なんというか、目ざとすぎる(too observant)」という気持ちも抱いていたこともさもありなん、老紳士は観察眼というか気配り上手が“いきすぎ”なところもあるのかもしれない。
もちろん、この「サヨナラ」の別れの言葉が悪いというわけではない。「サヨナラ」は後でふたりがもう一度交わすのだが、それがそのまま関係性が“より良くなった”ことを示していているかのようで、なんとも幸福な気持ちにさせてくれるのだ。それは「“ちょっとくらいのいきすぎ(やりすぎ)”であれば、指摘したり説教をしたりするほどでもない、軽く受け止めてしまえば良い」という、やはりコミュニケーションの距離感への教訓とも言えるだろう。
ジェネレーションギャップも良い人間関係へと昇華できる

劇中ではわかりやすくジェネレーションギャップも描かれているのだが、それがデメリットではなく、職場の良い人間関係に作用しているというのも、この『マイ・インターン』の素敵なところだ。
例えば、ラフな格好がOKという社風の中でも、老紳士は常にスーツ姿で出社し、ハンカチを常に携帯するなど持ち物にも気を遣っている。その身だしなみの上品さこそが彼への好印象を増しているとも言えるうえ、そのハンカチについてのある提言は、若手社員の価値観を揺るがしたりもするのだ。
さらに、前述したように彼はYouTubeやFacebookなどの現代の(若者の)文化を進んで学び、若手社員は「メールでなく会って謝っては?」という老紳士の助言を素直に聞いたりもする。総じて、ジェネレーションギャップがあったとしても、それは困ったり仕事の邪魔になるものではなく、“新しい選択肢”としての広がりをみせているのだ。
それは同時に、年長者と若者がお互いにお互いを尊重し合い、また何かの方法や価値観を強制しないということでもある。両者は「こっちの方法のほうがいいかもしれないと助言はするが、無理強いはしない」というバランスで接しているのだ。ここにもまた、“年の離れた人とどう接すればいいのか”という、普遍的な悩みを解決するためのヒントがある。
余談だが、劇中ではその年長者と若者が共同である作戦を敢行……というよりも、まるで『オーシャンズ11』のように犯罪行為(!)に挑むことにもなる。とは言え決してインモラルではない、ユーモアに溢れたシーンであるのでドキドキしつつもほっこりと笑顔になれることだろう。この時に老紳士と若手社員たちがどのような連携プレーをするかにも注目だ。
【まとめとおまけ】ロバート・デ・ニーロ出演の映画『ジョーカー』も要チェック!
総じて、『マイ・インターン』は、新しい人材を入れた時の会社の変革、年の功と学ぼうとする姿勢、限界を超えても頑張ろうとしている人への接し方、コミュニケーションにおける適切な距離感、ジェネレーションギャップの捉え方など、会社という組織における、たくさんの“学び”が得られる作品だ。
一見すると地味な話に思えるかもしれないが、全てのセリフや行動が後の展開に呼応する脚本は練りに練られており、音楽も編集もこだわり抜かれているため、ひと時足りとも退屈することはない。しかも、前述したように『オーシャンズ11』のようなハラハラドキドキも備えているというのだから、万人にオススメできる娯楽映画としても申し分のない出来栄えと言っていいだろう。
最後に、この『マイ・インターン』で主演を務めたアン・ハサウェイとロバート・デ・ニーロの、他の出演作品との“ギャップ”も面白いということにも触れておこう。
というのも、アン・ハサウェイは2003年の『プラダを着た悪魔』では理不尽な使いっぱしりばかりさせられる新入社員に扮していたりするからだ。その12年後に彼女はこの『マイ・インターン』で社長に大出世した……と思いきや、さらにその1年後の2016年の『シンクロナイズド・モンスター』では職も失い彼氏にも捨てられたダメ女になっていたりもする。仕事に向き合う女性という点では同じでも、幅の広い役をアン・ハサウェイは見事にこなしているのだ。
また、『マイ・インターン』ではキュートで親しみやすい老紳士を演じたロバート・デ・ニーロだが、過去には“キレると怖い”役もたくさん演じていた。もちろん『レナードの朝』のような穏やかな性格の主人公に扮したこともあるのだが、『マイ・インターン』の公開当時には映画ファンから「いつかキレそうで怖い」「ロバート・デ・ニーロなのに良い人なのが落ち着かない」という不名誉(?)な声も上がっていたようだ。

そんなロバート・デ・ニーロが出演する映画が、2019年10月4日より公開される。そのタイトルは『ジョーカー』、言わずと知れたアメリカンコミックのヒーローのバットマンの、永遠のライバルであるジョーカーを主人公にした作品だ。実はこの『ジョーカー』の脚本・監督を務めたトッド・フィリップスは、ロバート・デ・ニーロ主演作の『タクシードライバー』と『キング・オブ・コメディ』に大きな影響を受けていると明言しているのだ。
その『ジョーカー』でロバート・デ・ニーロがいかなる演技を見せるのか……?おそらく、こちらも『マイ・インターン』の可愛いおじいちゃんとは良い意味で大きくギャップがある役なのだろう。名優の最新作を堪能するという意味でも、『ジョーカー』を楽しみにしたい。

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