街歩きを楽しくする新たな視点!擁壁観察の方法を散策家・志歌寿ケイトさんに教わる

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擁壁観察で日常に新しい視点を取り入れよう!

街歩きをより楽しむためには、身近な場所を観察するのがおすすめ。
そこで今回はどこの街でも見かける「擁壁」の観察ポイントを、散策家・志歌寿ケイトさんに教えてもらった。

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そもそも擁壁って何?

擁壁と坂道の観察

擁壁と坂道

擁壁とは坂道などに出現する「石垣」や「壁」のことである。上の画像を見てピンと来たという方も多いだろう。

東京をはじめ、日本のたいていの都市には坂道がある。傾斜地を都市化するためには坂道を通すだけでなく、その両側を平坦な宅地にしなくてはならない。そこで土を押し留めて平らにするための石垣や壁、いわゆる「擁壁」が必須となるのだ。

坂の多い街は無数の擁壁に支えられた街でもある。

地下車庫を新たに造るとか安全性に問題がある等でない限り、家屋が建て変わってもその下の擁壁はなかなか取り壊されないようだ。したがって歴史のある街ほど、擁壁にも古い痕跡が残っていることが多い。石やコンクリートなどの身近な構造物は、下手をすると地域で一番古い構造物だったりもするのだ。

それではここから、散策家・志歌寿ケイトさんが擁壁を観察する時の視点を3つご紹介したい。なお、あくまで観察するだけであり、擁壁を壊したり汚したりしないようにくれぐれもご注意を!

擁壁観察をする時の3つの視点

擁壁観察をする時の視点1、「高低差」を味わう

急坂や階段の路地があるような街では、高い擁壁のダイナミックさを味わいたい。

「特に、こんな高さまでよく積み上げたものだという高い石積みの擁壁はまるで城壁のようでもあり、見事な職人技だと言えます。また、高低差が織りなす立体的な景観は街の良いアクセントにもなっていますね」(志歌寿ケイトさん)

高い石積みの擁壁観察

大迫力!高い石積みの擁壁

一方、小さな擁壁の段をいくつも重ねたような緩い傾斜地も、古い街であればさまざまな擁壁のタイプが観察できるチャンス。中にはレンガ積みだったり、タイルや陶器などを埋め込んで装飾していたりもする。

ちなみに横方向に目が通るように積まれた石積みを「布積み(整層積み)」とよぶ。

布積み

綺麗に横並び!「布積み」

斜めにジグザグに積まれた石積みを「谷積み(乱層積み)」とよぶ。

谷積み

ジグザグ模様が特徴的!「谷積み」

大きさの揃わない石で積まれた石積みを「乱積み」と呼ぶ。通常の石積みに使用される石を「間知石(けんちいし)」といい、奥に行くほど細くなる四角錐のような形状をしている。

また、都会ではほとんど見かけないが、丸っこく小さめの石で積まれた石積み「丸石積み」と呼ばれる。

丸石積み

なんだかかわいい!丸石積み

「丸石積みは、角張りやすい街の構造物の中でかわいらしい景観を生み出すのに一役買っています」(志歌寿ケイトさん)

擁壁観察をする時の視点2、「生命」を感じる

擁壁は全てが石やコンクリートで埋まっているわけではなく、壁の奥には土がある。よって、土に染み込む雨水を排水しなくては水の重みで崩壊しかねない。

その排水の役割をするのが「水抜き穴」である。石積みの場合は灰色のビニール管が多いと思うが、古い擁壁だと茶色い焼き物の管が使われていたり、あるいは本当にただ石に穴を穿ってあるだけだったりもする。

水抜き穴の観察

石に穴を穿ってある水抜き穴

もともと水が湧き出やすい地域だとこの水抜き穴から驚くほどの水量が排出され、さらにそういった穴には苔や雑草のちょっとした植生が生まれていることもある。

水抜き穴と植生の観察

水抜き穴と植生

さらに昆虫や小動物の住処となることもある。こうした光景を見ると、擁壁も元はといえば傾斜した「地面」であると認識させられる。

古いコンクリートや大谷石の石積みは特に細かな凹凸が多いため、そこに苔や雑草が生えやすい。これを拡大して写真に収めると、まるで石の中の小世界のようだ。

擁壁に生えた苔の観察

色鮮やかな苔

また、横から擁壁を見た時にぴょこぴょこと隙間から雑草が飛び出ている光景も、人工物から勝手に生えていると考えるとなんだか面白く、植物のたくましさを感じる。

擁壁から生えた雑草の観察

隙間から生えてたくましく花を咲かせる雑草

擁壁観察をする時の視点3、「模様」を切り取る

コンクリートやモルタルの擁壁には、時と共にさまざまな変化が生じる。

たとえば長年にわたって水が流れた跡、そこに生える苔や地衣類、小さなヒビや欠けとその補修跡、掲示物や再塗装の跡などである。また、元々コンクリートに含まれる砂利等も表面に顔を出していることがある。

これらを面的に切り取って捉えることで、偶然産まれた一枚の抽象画や模様として楽しむことができるのだ。

擁壁にできた模様の観察

偶然生まれた壁の模様

これは宅地の擁壁だけではなく、地下道や地下鉄の壁、小河川の護岸などでもそのように観察できる。

「雨の多い時期には苔や地衣類が鮮やかなグリーンの色彩を生み出すことがあり、また擁壁自体も雨に濡れるだけで普段と違った光の反射や色合いを見せてくれます。じめじめとした季節にこそ擁壁に注目していただきたいですね」(志歌寿ケイトさん)

擁壁観察はいつでも始められる!

よほど平坦でない限り、日本どころか世界の街に擁壁がある。そんな壁たちを見て「この壁が街を支えているんだな」と少しでも感じ取れるようになれたら、街歩きもより感慨深いものになることだろう。

ぜひちょっとした散歩や通勤通学の機会に、私達が暮らす都市の影の立役者である「擁壁」に意識を向けてみていただきたい。

教えてくれたのは?

志歌寿 ケイト(しかすけいと)

散策家、地図制作者。東京23区の商店街をすべて踏破。独自の散策会「東京散歩革命」を主催。散策ガイド・ルート作成のほか架空地図の制作、メディア出演、講師、GIS業務などの分野で活動中。

オフィシャルサイト:http://shikasukeito.blogspot.com/
Twitter:https://twitter.com/shikasukeito

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