育児をするならどの街? 家族で住む場所や環境の選び方を早稲田大学の佐藤将之先生に聞いてきた
子育て中の家族に優しい・うれしい住む街の選び方とは?
育児中の家族にとっては、とっても気になる自治体のサポート制度や周辺環境。せっかくなら “子育てを応援してくれる街”で、のびのびと子どもを育てたい。
早稲田大学人間環境科学部の准教授であり、建築計画研究・こども環境学の専門家である佐藤将之先生に、子育てファミリーの住む街選び、環境のチェック方法を教えてもらった。

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子育てを応援してくれる街に住む
子育てはもちろん、子育て以前の妊娠中からお母さんをサポートしてくれる制度も、年々手厚くなっている。
例えば全14回の妊婦健診の費用を全額負担、妊婦さんへのタクシー券プレゼント、出産祝い金、家事応援券など、その金額や種類は各自治体によって異なり、かなり個性的。このほかにも「3人目以降の児童手当が金額アップ」「中学生まで医療費が無料」など、チリも積もれば山となる補助もたくさんある。
「少子化が進む日本では、いかに子育て世代を呼び込むか、若いファミリーに引越して来てもらえるかが自治体の生き残りを左右するので、どこもサポートを充実させている」と佐藤さん。
選ぶ側もこれから住む場所がどんな補助を行っているかを細かくチェックして、部屋選びの参考にしよう。

家族で住む場所選びの3つのポイント
佐藤先生いわく子育てを応援してくれる街の中でも、特にチェックするポイントは3つだという。金銭面でのサポートも大事だが、人間関係、周辺環境も重要とのこと。
のびのびと子育て生活を送れるためにも、しっかり押さえて部屋探しをしよう。
①.遊び場の近くを選ぶ
佐藤先生によると、0歳~3歳の子どもと親が遊べる「子育てサロン」や「赤ちゃんひろば」などの子育て支援事業も2000年以降、急速に増え、孤独になりがちな新生児母への交流の場を各自治体が提供しているという。
子ども向けリトミックや絵本の読み聞かせなどのイベントや教室が開かれ、ママ友づくりはもちろん育児相談もできる施設がほとんどだ。
「もう少し子どもが大きくなったら、自然のなかで制限なく伸び伸びと遊べる冒険遊び場(プレイパーク)のような施設があれば、週末に親子の時間も充実するだろう」と佐藤先生。
これらの施設は基本的に無料なので、絶対に利用した方がお得。このような場所が近隣にあるかどうか、交通のアクセスが便利かどうかも選択の一つにしてもいいだろう。
これらの情報は全て各都道府県や自治体のHPに掲載されているので、候補の街を忘れずにチェックしたい。自治体によりサポートの内容が異なるので、今の家族の状況に合う内容を確認して、住む街を選べるのも賃貸生活の強みかもしれない。

②.都心部の広場・緑化に注目
子どもができると「緑が多いのびのびした環境で育てたい」と郊外の一軒家を求めて、都心から離れる人も多い。しかし都市部においても広々とした遊び場や緑を享受できる場は用意されている。
佐藤先生によると、建築基準法の総合設計制度により、高層建築物の足元には公開空地が求められているため、広場や庭園などちょっとした遊び場として解放されていることが多いという。
また都市部は屋上緑化や緑化対策も進んでいる。例えば東京の真ん中にある六本木ヒルズでも、毛利庭園やけやき通りなど緑化に力を入れ、緑被率(土地面積に対する緑地面積の割合)は27.9%と環境に配慮した建築物になっている。
このように都市部では、意図的に公開空地などが設けられ緑化されているため、想像以上に公園や遊び場などの緑も多いのだ。
またバスや電車などの公共交通機関が充実していること、子育て支援施設が歩いて行ける距離に整備されていることなど、都心部での子育ては意外にメリットが多い。

③.子どもを介して参加するコミュニティ
子どもが生まれると、夫婦2人の時とは違って子どもを介した地域コミュニティが生まれる。
前述した「子育て支援施設」もそうだが、保育園、幼稚園や小学校の親の会、子ども会の夏祭りやイベントなどのつながりから親も知り合いや友人が増える。
佐藤先生は「新興住宅地であっても、地域のまとまりがある地区なら新しくお祭りを企画したり子ども会が積極的だったり、その街ごとに活発に活動している」と話す。
「面倒に思う人もいるが、コミュニティがある方が地域ぐるみで子育てができ、助け合いの精神もあるので結果的に子育ては楽になる。東日本大地震で都市部の公共交通機関が麻痺した時も、親が帰宅できない家の子どもを、近隣の知人の家で保護したという話も多く聞く」と佐藤先生。
防犯の意味からも、子どもの顔を地域の人たちに覚えてもらうのは安全で安心なので、コミュニティには積極的に参加した方がいいだろう。もし引越し前にリサーチができるなら、地域のつながりやコミュニティも事前に調べておくことをお勧めする。

佐藤先生オススメの「子育てに優しい街」は?
東京都武蔵野市
文中にも紹介した通り、乳児と母が一緒に行けるひろば「0123吉祥寺」を、1992年に専門的な独立施設として開設したのが武蔵野市。小学生は一度帰宅せずとも、学校の敷地にそのまま居られる「あそべえ」があるので、学童保育に入れない家庭でも17時までは小学校の敷地にいることができる。
静岡県静岡市清水区(旧清水市)
公設のこどもクリエイティブタウン「まある」がある。この施設は、単純に子どもが自由に選択できる居場所としてではなく、子どもが企画や運営側にランクアップする仕組みが設けられていて、“まちづくり”“ビジネス感覚”“組織に参画する仕組み”など、子どもたちが活きる力を自治体で育もうとしている。
東京都世田谷区
区の補助を受けて動いているプレイパーク世田谷によるプレーパーク(冒険あそび場)が4箇所もあり、都心にいながらも煮炊きなど自然体験やダイナミックな遊びを体験することができる。そこに携わる大人の組織もあり、子どもの居場所づくりを通して大人もつながりができている。

教えてくれたのは?
佐藤将之 准教授
早稲田大学人間科学学術院准教授。1975年秋田生まれ。秋田高校、新潟大学工学部卒業、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了。江戸東京博物館委嘱子ども居場所づくりコーディネーター等を経て現職。2人の男児の父。
文=元井朋子
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