【解説】『スペシャルアクターズ』は『カメラを止めるな!』を超えたか!?魅力をネタバレなしで全力紹介!

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『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督最新作『スペシャルアクターズ』が上映開始!

スペシャルアクターズ場面カット

(C)松竹ブロードキャスティング

2019年10月18日より、『カメラを止めるな!』(以下『カメ止め』)の上田慎一郎監督の第2弾『スペシャルアクターズ』が全国の映画館で上映されている。

『カメ止め』はほぼ無名の役者とスタッフたちによる作品ながら、SNSを中心とした絶賛に次ぐ絶賛の口コミで話題を集め、わずか2館から始まった上映劇場はやがて300館を突破、インディペンデント映画としては極めて異例の興行収入31億円を突破する大ヒットを記録した。昨年の日本映画界の話題を席巻した、社会現象と呼べる盛り上がりを覚えている方はきっと多いことだろう。

そのうえで、『スペシャルアクターズ』を観る際に知ってほしいことがある。それは『カメ止め』と同様に「できれば予備知識がないままに観て欲しい」「子供から大人まで万人が楽しめるエンターテインメントである」いうことだ。

『カメ止め』は作品としての圧倒的な面白さはもちろん、「ネタバレなしでは何も言えないからとにかく観て!」と内容に触れないままオススメする声が多く、その口コミがまた口コミを呼び大ヒットのきっかけになった。当然、この『スペシャルアクターズ』にも『カメ止め』と同様の“ネタバレ厳禁”の要素がバッチリと入っており、誰もがグイグイと惹きつけられるエンタメ性と、観客の予想を軽く超えてくる“まさか”の展開と涙腺が決壊するほどの感動も兼ね備えている。そのため、今回も口を酸っぱくしてまで「ネタバレを踏まずに早く観に行ってくれ!」と訴えたいのだ。

なお、『スペシャルアクターズ』の試写会での評判は実際に上々であり、筆者個人としても『カメ止め』に決して引けを取らない傑作であったと感じている。知っておくことは、ここまででも十分だ。以下の劇場情報を調べて、足を運べば良い。

<『スペシャルアクターズ』上映劇場>

以下からは、ネタバレに触れない範囲で『スペシャルアクターズ』の内容と魅力を解説していこう。

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“演じることを使った何でも屋”がカルト宗教団体をやっつける?スパイ映画さながらのワクワクとダメ人間の成長物語も!

まずは本作のあらすじを簡単に紹介しよう。なお、『カメ止め』は「あらすじも予告編も見てはいけない!」とまで言われていたが、今回の『スペシャルアクターズ』ではそれらは全くネタバレに該当する部分ではないと断言できるので、安心して読んでみて欲しい。

主人公は売れない役者でありオーディションでは落選の連続、しかも緊張すると気絶してしまうという心の病を抱えていた。彼は数年ぶりに再会した弟から俳優事務所に誘われるが、その実態は“演じることを使った何でも屋”であった。やがて、「宗教団体を装った詐欺グループから旅館を守って欲しい」と頼む女子高生が現れ、主人公はその計画の要の役に選ばれてしまうのだが……。

本作がまずエンターテインメントとして楽しく観られる理由は、その“演じることを使った何でも屋”という設定にある。役者が活躍するのは通常であれば映画・ドラマ・舞台であるが、この『スペシャルアクターズ』では“日常の中での演技”によって、まるで探偵のように様々な依頼を請け負うことになるのだ。

次々に舞い込む依頼の数々はバリエーション豊かで、やがてチームは“カルト宗教団体に乗り込んで壊滅させる”という大きな目標に向けて結託することになる。それは“潜入ミッション”でもあるため、まるで『007』や『ミッション・インポッシブル』シリーズのような“スパイもの”の面白さまで備わっているのだ。ひょうひょうとした性格の弟との“バディ感”も楽しく、二転三転する展開は飽きさせず、音楽も実に軽妙。全ての要素がエンタメとして昇華されているので、誰もがワクワクしながら観続けることができるだろう。

加えて、本作は“ダメ人間の成長物語”でもある。主人公は役者として芽が出ないばかりか、そもそも“緊張すると気絶してしまう”という致命的な欠点も抱えている。彼が役者として最終的に何を得るのか、そして心の病とどのように向き合うのか……ということも大きな見どころであり、その過程と決着には確かな感動があるのだ。

同時に、それは夢を叶えようとしている全ての人に通じるエールでもあった。劇中の精神科医の言葉を聞いて、そしてあの感動と興奮のクライマックスで、勇気付けられる人は多いだろう。

スペシャルアクターズ場面カット

(C)松竹ブロードキャスティング

1500人の応募者が殺到!“物語をみんなで作る”という過程を経て完成していた!

『スペシャルアクターズ』は企画の成り立ちも実に興味深い。そもそもが“作家主義”ד俳優発掘”を揚げている“松竹ブロードキャスティングオリジナル映画プロジェクト”の第7弾として発案されたものであり、その応募者はプロジェクト史上最多となる1500人を超え、ワークショップを経て個性豊かな15人が選出されたのだそうだ(同プロジェクトは過去にも同じく無名の役者を起用しながらも高い評価を得た『滝を見に行く』や『恋人たち』などを生み出している)。

上田監督いわく、『カメ止め』以前から“日常の中でドラマを作って商売をしている人たち”を描くという構想は存在していたものの、本格的に内容が決まっていったのは役者たち全員が参加した“企画会議”だったそうだ。“詐欺”や“カルト集団”という作品のキーとなる言葉が登場したのもこの段階であり、つまり『スペシャルアクターズ』は“物語をみんなで作る”という過程を経て完成しているのだ。

役者と演じているキャラがシンクロ!ある意味で“半分ドキュメンタリー”な作品だ!

上田慎一郎監督が手がけた『スペシャルアクターズ』の脚本は15人の役者たちそれぞれに“当て書き”がされているということ、つまり演じる役者を先に決めてから脚本を書くという段階も踏んでいる(そして役者たちに意見を聞いて内容を調整していった)ことも特筆すべきだろう。

例えば、売れない役者である実質的な主人公を演じた大澤数人(若く見えるが実年齢は35歳)は、自身も役者を10年間も続けているのに、まだ3本くらいしか出演した経験がなく、最近まで親にも自分が役者をやっていることを内緒にしていたのだとか。言うまでもなくその本人の実像が『スペシャルアクターズ』で演じるキャラクターとシンクロしており、それがあってこその脚本になっているのだ。

しかも上田慎一郎監督は、オーディションにおいても役者の“不器用さ”や“素の印象”を引き出そうとしていたようだ。具体的には、3分以上の自己紹介をやってもらうと1分を過ぎた頃から話すことがなくなってくるため、その時の“言葉が出てこない感じ”や、“答えを必死で考えている感じ”を掴もうと考えていたのだとか。主演の大澤数人は案の定、自己紹介の後半で「寒いですね…雪が降ってますね…」などとしかしゃべることができず、その“必死さ”をも映画の中で表現することが上田監督の目的でもあったようだ。

そのような大澤数人が「いきなり長編映画の主役に抜擢される」ということ、凄まじいまでのプレッシャーと緊張にさらされていることは、果たして映画の中の物語なのか、もしくは大澤数人本人の奮闘なのか、その境界が良い意味でわからなくなってくる(というよりもほぼ同一のものだ)。ある意味で、これは大澤数人という役者の“半分ドキュメンタリー”でもあるのだろう。

その他の役者たちも、言うまでもなく全員ほぼ無名だ。しかしながら、観終わってみると(観ている間も)「この役にはこの人しか考えられない」ほどのハマりっぷり、そして熱演を見せている。しかも、彼らが劇中で演じているのは前述したように“何でも屋”な俳優事務所に在籍している役者(またはカルト宗教団体)なのだ。その二重三重の“入れ子構造”と言える構造、役者たち全員が“現実とフィクションが入り混じったかのような特殊な世界(映画)”にいるような、奇妙かつ面白い感覚が『スペシャルアクターズ』にはある。

スペシャルアクターズ場面カット

(C)松竹ブロードキャスティング

『カメ止め』と同じ魅力はこれだ!上田慎一郎監督も気絶しそうなほどのプレッシャーに!?

前述したように、無名の役者たちが『スペシャルアクターズ』のためにワークショップで集まり、それぞれの役者に当て書きをして、それぞれが演じているキャラが役者たちの実像に重なり、“みんなで映画を作り上げる”過程を得ていて、まさに“半分ドキュメンタリー”な面白さがある……というのは、前作『カメ止め』と同様だ。

役者が無名であることを逆手にとって、それがキャラクターの説得力につながり、その奮闘を心から応援できるということもまた、『カメ止め』に引き続き作品の大きな魅力になっていることも言うまでもない。

さらに上田慎一郎監督自身、『カメ止め』の成功があったため大きなプレッシャーにさらされてしまい、この『スペシャルアクターズ』の台本の初稿が上がったのはクランクインの1ヶ月前というギリギリまで追い込まれていたそうだ。

しかも、“主人公は緊張すると気絶する役者”という設定はその後の2稿目でやっと追加されたもので、それは上田監督が実際にスランプに陥っており、本当に気絶しそうな日々を送っていたからこそ生まれたアイデアだったのだとか。そのため、『スペシャルアクターズ』は上田監督本人のドキュメンタリーでもあると言っても過言ではないかもしれない。

次のページでは、この作品ならではの宣伝方法、そして、映画を観る前にさらに知っておきたい豆知識をピックアップ!

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