気鋭のアニメ・映像クリエイターの野良いぬさんが引きこもる9畳の広々すっきりワンルームを訪問!
海外アニメで至福の時間♪ 野良いぬさんのお部屋にお邪魔してきた!

野良いぬさんのお部屋に潜入!
アニメ映像制作やイベントのVJ、アーティストのPVなど幅広く手がける、気鋭のアーティスト・野良いぬさん。自ら「大きな引きこもり部屋」と称する9畳のワンルームにお邪魔して、モチベーションの保ち方から仕事終わりの癒しのアニメの話まで、根こそぎ聞いてきた。
プロフィール
名前:野良いぬさん(@norainu03019)
職業:映像・イラスト・アニメクリエイター
年齢:20代
ルームデータ
居住地:東京都
居住人数:1人
間取り:ワンルーム(9畳)
家賃:65,000円
築年数:35年
クリエイターに優しい不動産会社で探した大型家具が入る部屋
10代の頃からアニメ・映像クリエイターとして活動していた野良さん。制作だけなら地方でも問題なかったが、ライブ活動も本格化し、いよいよ東京への上京を決心したのが約3年前。
「初めての一人暮らしが不安だったことと経済的な理由から、SNSで知り合い10年来付き合いのあった友人とルームシェアすることにしました」(野良さん)
当初は2人とも部屋にこもって制作することだけを考え、立川駅から自転車で20分、2LDKで家賃7万7,000円という部屋を選んだ。独立性の高いレイアウトで、お互いの生活を邪魔せずに快適なシェア生活だったそう。
「でも打ち合わせやライブのリハなど、意外に都心に出る機会が多くて、その立地では無理だと気づきました。次は便利な場所で一人暮らしをしようと探したのが今の部屋」と野良さん。
憧れの高円寺周辺も探してみたが、これという物件は見つからず、知人からオススメされたのが、今住んでいる街。クリエイターに優しいという不動産屋さんを紹介してもらい、部屋はすんなりと決まった。
「部屋選びの条件は、巨大な制作用デスクとベッドが入ること。そして雑多なものまですっぽり入る収納の大きさでした」(野良さん)
野良さんはすべての制作活動を部屋で行うため、機材も多くPC本体もかなりの大きさ。それらを配置するデスクは、小柄な野良さんが座ると子どもが座っているように見えるほど大きい。ちなみに大きめのベッドは「実家の母が上京してきた時に一緒に寝るため」と、親孝行な一面ものぞかせた。

小柄な野良さんが座るとより大きく見えるデスク。長い制作時間にも耐えられるチェアもお気に入り

母と一緒に寝るための大きめベッド。枕元にはファンから贈られたホームシアターも置いてある
ファンの笑顔とサポートをモチベーションに!
テレビアニメのオープニングやイベントのVJ、アーティストのPVなども手がける野良さん。「私でよければ…」という謙虚な仕事のスタンスで、呼ばれればどこにでも赴き、ライブやイベントでも活動してきた。
「自分には学歴もないし、映像制作も独学。今からOLになれと言われても絶対に無理だから、この道で生きるしかないと覚悟を決めてしがみついている。だから何が求められているのか、何を喜んでもらえるのかを必死で考え、それを提供することが生命線だと思っています」と、作り手としての真剣さ・貪欲さを垣間見せた。
制作デスクの前には日本各地のイベント会場で撮ったファンとのスナップがピン留めしてあり、お気に入りのテレビボードの横にはファンからの贈り物をあえて山積みにしてある。

「ファンの笑顔は裏切れない」と制作に力が入るという野良さん。デスクの前はファンとのスナップショットが飾られている
贈り物にしては実用的なものばかりなので理由を尋ねると、欲しいものリストを公開してそれを送ってもらうことが多いのだとか。
「おねだりみたいで恥ずかしいのですが、ファンの方から必要なものを教えてほしいと言われたことがきっかけでこうなりました。これだと絶対に無駄にならず、私も“このお陰で生活できる”と感謝の気持ちがモチベーションになる」と野良さん。
ファンの笑顔やプレゼントを見るたびに「恥ずかしい作品は作れない」「期待に応えたい」とスイッチが入る。だからこそ常に目に付く場所に置く。ふわふわと綿あめのような雰囲気の野良さんの、プロのクリエイターとしての気概を見たような気がした。

ファンからもらった生活必需品の数々。これのサポートがなければ生きていかれないと話す
中学時代の「引きこもり生活」がクリエイター生活の第一歩に!
中学時代、父を亡くしたことをきっかけに友人とうまく付き合えなくなった。そこから学校を休みがちになり、家で絵を描いたりSNSに没頭する日々を過ごしたという。
煮詰まって心が折れそうになったとき、大好なアーティスト・石風呂さんの『嫌いな人』という曲に合わせてアニメを自主制作してみようと思い立った。「学校が大嫌い」だった自分の心情と、歌詞が丸かぶりしていて深く心に刺さったからだ。

母が一人暮らしの記念にとくれた大型のパグの絵。実家で飼っていたパグに会えない寂しさをこの絵で紛らわす
できあがった作品をSNSに掲載すると、それを見た人から声がかかり、アニメ制作の話を持ちかけられた。その結果、今の自分がある。まさにプロの道へと導いてくれた作品になった。
「今、引きこもっている人からすると勇気付けられるエピソードですね」と言うと、
「自分では引きこもって正解だったとは思っていません。実際、学校でしか学べないことはあったし、もっと勉強しておけばよかったこともある。引きこもってやりたいことがあるなら、それに対して本気で誠実に向き合わないと何者にもなれないと思う」と思いの外厳しい顔で答えた。
今の自分があるのは、とにかく「周囲の人に恵まれたから。それしかない」と語気を強めた野良さん。その人たちの気持ちに応えたいという思いが、独りよがりにならない作品づくり、求められるものを作るという姿勢につながっている。

デスク前に飾られたマリア像を象った水入れ。写真に撮って映像にコラージュすることもある
インテリアのポイントは、「引きこもるためのベストな部屋」づくり!
山のような資料とキャラクターグッズに溢れた、典型的なクリエイターの部屋を想像していたが、野良さんの部屋は全体的にものが少なくすっきりとした印象だ。部屋づくりのイメージを聞くと、
「中学の頃に引きこもっていた部屋をふた回り大きくした感じ。当時は6畳だったけど、今はキッチンやバストイレも含めて、大きな引きこもり部屋にした」のだという。
「モノが周囲にたまってくるとイライラするタイプ。それでも締切前、納品前は部屋が散らかり、“きちんと生活できていない自分”が悲しくなって精神状態は最悪になる」(野良さん)

クリエイターらしからぬすっきりした室内は、大容量の収納に助けられている
それでも仕事がひと区切りすれば、その混沌を整理して片付け、すっきりした部屋のソファでアニメを見ながらお菓子を食べる至福の時間を過ごす。この一瞬のために、一人暮らしにしては大きなサイズのソファやテレビボードを購入した。

ソファに座ってお菓子とアニメを楽しんでいる瞬間が一番幸せと話す野良さん
カフェなど他人がいる場所での制作はしないと公言する野良さんが、映像制作を行うのはこの部屋でだけ。クリエイティビティの源もやる気スイッチも、締切前の地獄も修羅場もすべてこの「大きな引きこもり部屋」の中での話。だからこそ部屋への思い入れも強く、最高の環境を整えるのは当然のなりゆきだ。
「制作は基本的に夜中で、明け方に寝て昼に起きる生活。何者にも邪魔されず、人に心配もかけずに制作に集中できる、それが一人暮らしの一番のメリットですね」と笑った。

締切前などは徹夜で作業をすることも決して珍しくない
「脳裏に引っかかる」作品づくりのテーマは海外アニメで培った感覚
仕事終わりの一番大切な至福の時間に観るのは、お気に入りの海外アニメ。
「ポップに楽しめて、ブラックジョークも効いていて、さり気なくグロなシーンもある海外アニメは幼い頃から大好き。ケーブルテレビを契約して常に見られる環境を整えています」と野良さん。

大好きなフィンとジェイクのぬいぐるみも飾られている
一筋縄ではいかない海外アニメで育った感性は、「ただ可愛いだけじゃない作品。人の脳裏に何か引っかかる、サラリと流せない作品づくりをしたい」という野良さんの制作テーマにつながっている。
「将来の夢は海外アニメに関わること」と羨ましいほど大きく伸びやかな夢を語ってくれた野良さん。海外でも人の脳や心に「小さな引っかかり」を作ってくれることだろう。
文=元井朋子
写真=編集部