【暮らし探訪】Uターン就職した男性に、地元の山形に住むことの良さを聞いてみた
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新卒で入社した東京の企業を20代半ばで退社し、現在は地元・山形県でマッシュルーム生産販売業に携わる長澤さん。このタイミングでの「Uターン」を決断した経緯を聞いてみた

プロフィール
氏名:長澤大輔さん
職業:(有)舟形マッシュルーム 専務取締役
http://www.f-mush.com/
出身地:山形県
生年月日:1988年10月15日
小学生のころの夢:強く優しい大人になること
小学生時代のマイブーム:レゴブロック、ポケモン
ルームデータ
所在地:山形県新庄市
家賃:8万4000円
間取り:2LDK(60㎡)
築年数:11年

いつか戻るのなら、決断は早い方がいい
案内された栽培舎の中は思いのほか、ひんやりとしていた。
「ハウスの中の温度は常に摂氏18度にしています。それがマッシュルームを育てるのに最適なんです」
山形にあるマッシュルーム農園と聞いて、大自然の中に畑が広がる牧歌的な風景を勝手に想像していたが、全く違った。山形新幹線・新庄駅から車で約30分、確かに周りの風景は牧歌的だが、広大な敷地に何十棟もの栽培舎が整然と並び、温度や湿度などが適切に管理された中でマッシュルームは育てられていた。建物内には長大な棚が何列も置かれ、コンポストと呼ぶ堆肥の上に膨大な数の白いキノコが顔を出す。その様子はまるでSF映画などに登場する近未来の植物工場のようだった。
長澤大輔さんは今から4年前、父親が作った会社「舟形マッシュルーム」で働くため、故郷である山形県最上郡舟形町へと帰ってきた。仙台にある国立大学を卒業し、東京で就職。親元を離れ、約7年経ってのUターンだ。しかし最初からそう決めていたわけではなかった。東京で働くことは自分自身で一度下した決断。自分で道を切り開き歩んでみようと思ったのだ。仕事は楽しかったし、充実した毎日を送っていたという。それでも帰郷を決断したのは?
「どうせ働くなら、地に足の付いた仕事がしたかった。その方が自分も、周りの人間も、皆がハッピーになると考えて決断しました」

始めて気付いた仕事のやりがいや楽しさ
舟形マッシュルームの従業員数は100人超。総人口5500人ほどの舟形町における一大産業である。父親が始めた事業を継続し発展させることで、地元経済が活性化し、雇用が生まれる。そして自分にしかできない仕事でもある。当時、東京での暮らしに満足しながらも、どこか後ろ髪を引かれるような思いがあったという。直接頼まれたことはなかったが、長男として父親の会社を継ぐことを家族から期待されていると感じていた。
いつか戻るのなら、その時期は早い方がいい。彼の決断に迷いはなかった。
「正直、この仕事を始める前までは、片田舎でマッシュルームを作ることが、狭い世界での営みに思えていました。ところが実際に携わってみると資材メーカーをはじめとするさまざまな取引業者との交流や、マッシュルームをおいしく調理してくれる人たちとの出会いなど、活動のフィールドが思いのほか広いことに気が付いたんです。菌類はちょっとした環境の違いが成長に大きく影響するため、上手に育てるには知識も要る。マッシュルームのことを知れば知るほど、その先に奥深い世界が広がっていました」
会社では営業などをひと通り経験した後、営業企画業務を担当。また資材を調達、管理する新法人を設立し、海外の業者と取引する機会が増えた。さらに収穫したマッシュルームを使った地産地消レストラン「マッシュルームスタンド舟形」もオープン。仕事のフィールドを広げたのは自身の努力による成果でもある。
横浜出身の妻を連れて、山形での暮らしがスタート
プライベートでは故郷に戻ってくるのとほぼ同時に、東京で出会った妻と結婚。職場から少し離れた所にあるマンションを借りたのは、交通アクセス、買い物などの利便性を考えてのこと。新幹線の駅がすぐ目の前にあり、出張などに出掛けるにも便利な場所だ。
また、いきなり見知らぬ土地に暮らす妻への配慮もあった。子宝にも恵まれ、現在、妻と2人の子どもと一緒に家族4人仲良く暮らしている。環境が変わったことに対して奥様は?
「彼からUターンの話を聞いた時には驚きましたが、いざ住んでみると暮らしやすかったです。私は横浜で生まれ育ったので冬に雪がたくさん積もったりするのが新鮮で、最初は楽しく思えました。今ではすっかり慣れてしまいましたけどね(笑)。近所の人たちが親切で、幼稚園で農作物を作る時間があるなど、子どもを育てるのにも良い環境だと思います」と、あくまで大らか。
肝の据わった奥様の存在があったからこそ、彼は仕事に邁進できたのだろう。

「計画的に思えるかもしれませんが、それまでの人生とは何もかもが変わり、仕事も夫婦生活も子育ても、全て手探りの状態でスタートしました。正直、ここでの暮らしが全くイメージできていなかった。それでも生活の拠点を作らねば、ということで、現在の住まいを借りたんです。過去を振り返ると、仕事もプライベートも今ならもっと上手くできるのに、と当時の認識不足が悔やまれることもあります。ただ新しいフィールドでのチャレンジは、昨年より今年、昨日より今日、と着実に自分自身が成長するのを実感することができました」
現在、マッシュルーム栽培においてはオランダが先進国であり、日本はその技術や機械設備から学んでいる状態とのこと。しかし工夫の余地は残されており、日本の風土にあった、もっと最適な方法があると彼は確信している。
将来のビジョンも明確だ。1年後、堆肥や発酵についてより詳しくなり、会社の業績を伸ばすこと。5年後、会社の代表に就くこと。10年後、自社で新しいマッシュルーム栽培法を確立し、世界に発信すること。
長澤さんの仕事に対する情熱は果てしない。
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文=田端邦彦
写真=阿部昌也
※「CHINTAI2017年10月号」の記事をWEB用に再編集し掲載しています
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