【2022年最新版】Netflix(ネットフリックス)おすすめ映画40選を映画ライターが解説!
このページで紹介しているNetflixの最新おすすめ映画
シンプルかつ尖ったアイデアが面白いサスペンス映画6選!
ここからは、エンタメ性抜群のサスペンス映画を6作紹介しよう。どちらもシンプルにハラハラドキドキする作品を期待する方におすすめだ。
16:『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』(2021)※R16+
全米で大ヒットしたホラー映画『クワイエット・プレイス』(2018)の続編だ。キャラクターは前作と共通しているが、基本的に物語は独立しているので、今作から観ても問題なく楽しめるだろう。「恐るべき“何か”が音に反応する」というロジックが、面白さと恐怖の根源にあるバトル&サバイバルが魅力。残酷描写もほぼなく、主人公チームがお互いの信頼関係やそれぞれの強みを持って戦う家族なので、ファミリー層にもおすすめできる(さすがに小さい子には怖すぎると思うのでおすすめしないが)。
前作は「じわじわ」と怖がらせるホラーとしての側面を強く感じる内容だったが、今回はオープニングからド派手な見せ場があり、「その手があったか!」と思える斬新なアイディアも多数盛り込まれている。それでいて「一手判断を誤ると死ぬ」という緊張感も受け継がれており、サスペンス&アクション映画としての魅力が大きく増している。終盤の異なる場面を同時進行していく作劇は、考え抜かれた構成と見事な伏線回収のおかげもあって、ゾクゾクしながら盛り上がれるだろう。なお、劇中の少女を演じたミリセント・シモンズは、実際に聴覚障害を持っている俳優。彼女の視点になると「音が聞こえなくなる」演出が効果的に使われていることにも注目してほしい。
『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』(2021)の情報
監督:ジョン・クラシンスキー
出演:エミリー・ブラント、キリアン・マーフィ、ミリセント・シモンズ ほか
1時間37分
Netflixで『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』を観る
17:『エグゼクティブ・デシジョン』(1996)※R16+
『ダイ・ハード』(1988)や『スピード』(1994)などの昔懐かしの娯楽作、王道のパニックアクション映画の快作なのだが、ややマイナーで観たことがない方も多いと思うので、ここで紹介したい。内容はテロリスト集団にハイジャックされたジャンボ機内に潜入し、事態の解決を目指すというシンプルなもの。「機内の隙間を移動するかくれんぼ」というシチュエーションが根底にあり、一手間違えれば最悪の事態になる爆弾の解除に挑む様や、犯人に気づかれないようフライトアテンダントに協力を仰ぐなど、多種多様なアイディアが盛り込まれているのでとにかく面白い。
カート・ラッセル演じる主人公が戦闘とは無縁の米陸軍情報部顧問の博士であること、仲間もどこか頼りないことも良い意味で不安にさせられる。多数のアクション映画で「無敵」とも言える強さを見せるはずのスティーブン・セガールが「えっ!?」と驚いてしまう扱いを受けることも、むしろハラハラ感につながっていた。クライマックスでは大掛かりな見せ場もあり、最後まで観客に楽しんでもらおうという作り手の気概が存分に伝わるだろう。
『エグゼクティブ・デシジョン』(1996)の情報
監督:スチュアート・ベアード
出演:カート・ラッセル、ハル・ベリー、ジョン・レグイザモ ほか
2時間12分
18:『アイ・ケイム・バイ』(2022)※R16+
富裕層の家に侵入し、「参上(I CAME BY)」という落書きを残す犯罪行為を繰り返してきた青年が、ある家でとんでもないものを発見してしまう……という内容だ。ずっと反発をしてきた母親、結婚して子どもが生まれるため足を洗おうとする親友など、それぞれの切ない人間関係も見所。移民の若者が悩みを吐露するシーンや、親友が「黒人だから(白人よりも刑が重くなるので)捕まるとまずいんだ、わかるだろ」と言うなど、人種差別の問題も反映されていた。
異常事態がハッキリしているのに、登場人物がなかなか解決策に踏み込まなかったり、危険もある作戦に反対したりするといった展開が多いため、悪い意味でもどかしさを感じる方も多いだろう。だが、「格差の大きい社会に従属するしかなかった」者たちの苦しみを描いていることを踏まえれば納得できるとも言える。そもそも、住居に侵入して落書きをするなんてことは、側から見れば何も問題が変わるはずもないただの犯罪行為。「それしかできなかった」彼らの悲しみと憤りを、ぜひ考えてみてほしい。
『アイ・ケイム・バイ』(2022)の情報
監督:ババク・アンバリ
出演:ジョージ・マッケイ、ケリー・マクドナルド、ヒュー・ボネヴィル ほか
1時間51分
19:『残り火』(2022)※R16+
夫の浮気を目撃した妻と、その妻を殺そうと企む夫の心理戦を描く内容だ。「語り部」の刑事が憶測を織り交ぜつつことの顛末を話すのだが、まあその内容が凄まじく恐ろしい。息子のためにキャリアを諦めた上に、夫に浮気されてしまう妻は、本来であれば同情の対象になるはず。しかし、夫にとある狂気的な計画を持ちかけ、観客を心底ゾッとさせることになる……。
浮気をした夫の方が思いもしなかった運命に翻弄される様は、ほぼほぼブラックコメディのようだった。冒頭からショックなシーンがあり、どんでん返しの連続であるため、なるべくあらすじなどを見ないまま鑑賞した方がいいだろう。直接的な性描写や残酷なシーンもあるため完全に大人向け。良い意味で結婚が怖くなる映画を求める方におすすめだ。
『残り火』(2022)の情報
監督:バーバラ・ローテンボルグ
出演:ダール・サリム、ソニア・リクター、スス・ウィルキンス ほか
1時間45分
20:『モンタナの目撃者』(2021)※R16+
「森林消防隊員の女性が少年を守るため全力で戦う」「脅威となるのは未曾有の山火事と暗殺者コンビ」というシンプルな娯楽性を打ち出した映画だ。警察官とその妻といったサブキャラクターも意外な方向に話を転がしていき、「判断を一手間違えた方が死ぬ」危機に次ぐ危機と言えるスリリングなバトルも展開する。シンプルかつ奇抜な設定を最大限に生かしつつ、あらゆる方向のサスペンスの面白さが詰まっていることが何よりも嬉しい。
さらなる注目はアンジェリーナ・ジョリーがトラウマと罪悪感を抱えた女性を見事に演じ切っていること。少年と歳の離れた友達のような信頼関係を得ていく過程や、ここぞという時の身体を張ったアクションを期待しても裏切られないはずだ。なお、監督・脚本のテイラー・シェリダンは、Netflixオリジナル映画『最後の追跡』(2016)もアカデミー脚本賞にノミネートされるなど高い評価を得ているので、合わせて観てみるのもいいだろう。
『モンタナの目撃者』(2021)の情報
監督:テイラー・シェリダン
出演:アンジェリーナ・ジョリー、フィン・リトル、ジョン・バーンサル ほか
1時間39分
21:『崖っぷちの男』(2012)※R13+
ビルの窓から出て、へりに立って人々の注目を集める男に対し、交渉人として選ばれた女刑事が説得を試みるというサスペンスだ。「飛び降り自殺をしようとしている男の目的は何か?」というシンプルな設定でまず惹きつける上に、意外な展開が次々に繰り広げられるので全く退屈しない。ワンシチュエーションの中にサービスがたくさん詰まっている、まさに万人向けの作品だろう。
キャラクターそれぞれが個性的ですぐに思い入れができるし、特に主人公の境遇はとある社会問題も反映されていることもあって感情移入できる方は多いはず。それなりにツッコミどころもあるが、それも含めて勢いのある作劇を楽しむのがいいだろう。そして「何を言おうがネタバレになる」内容でもあるので、ほぼ何も知らないまま楽しんでいただきたい。
『崖っぷちの男』(2012)の情報
監督:アスガー・レス
出演:サム・ワーシントン、エリザベス・バンクス、ジェイミー・ベル ほか
1時間42分
家族で一緒に楽しめるオリジナルアニメ映画6選!
次に紹介するのは、家族で楽しめるアニメ映画2作。どちらもワクワクする冒険が描かれながら、現実的な問題にも踏み込んでいる誠実な作品だ。
22:『アポロ10号 1/2: 宇宙時代のアドベンチャー』(2022)※13+
舞台は1960年代のテキサス州ヒューストン。宇宙開発が進むその地で、月面探査を夢見て秘密の特訓を行う、田舎の平凡な少年の思い出を描いた作品だ。同じくリチャード・リンクレイター監督作『ウェイキング・ライフ』(2001)と『スキャナー・ダークリー』(2006)と同様に、実写映像をもとにアニメーションを創造する「ロトスコープ」という技法が用いられている。実写とアニメーションの中間のような独特の映像表現が面白く、それが子ども時代の豊かな思い出の「輝き」としての説得力を持たせている。
話題の中心にあるのはアポロ11号が月面着陸を達成するという歴史的な偉業ではあるが、基本的には当時の子どもたちの日常を綴る、良い意味でミニマムな物語だ。自由に遊べる楽しさがある一方、有害な化学物質が問題視されていなかったり、体罰が当たり前に行われたりていたり、イタズラ電話が全盛期だったりする「危うさ」込みの思い出の描写の数々は、日本人であっても「そうだったかも」と感じられるほどにリアルに映るだろう。当時のアメリカのカルチャーの面白さを堪能したい方、子どもたちの生活を体験してノスタルジーに浸りたい方におすすめだ。
『アポロ10号 1/2: 宇宙時代のアドベンチャー』(2022)の情報
監督・脚本:リチャード・リンクレイター
出演:ジャック・ブラック、ビル・ワイズ、リー・エディ ほか
1時間38分
Netflixで『アポロ10号 1/2: 宇宙時代のアドベンチャー』を観る
23:『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』(2020)※13+
2018年に放送され絶大な人気を誇ったテレビアニメシリーズ(こちらもNetflixで配信中)の映画版であり、「最後の物語」が綴られた事実上の完結編だ。もちろん関連作品を観てキャラクターに思い入れができていた方がより感情移入ができるが、今回は冒頭で簡単な説明がなされているため、「主人公の少女は元兵士で、大切な人を失った経験があり、今は手紙の代筆の仕事をしている」という基本設定だけ知っておけば、今作から観ても問題なく楽しめるだろう。
世界的にそのクオリティの高さで知られるスタジオ・京都アニメーションが作り出した、美しくエモーショナルな表現の数々は、眼福という言葉がふさわしい。2時間20分という長めの上映時間をたっぷりと使い、登場人物の感情の揺れ動きが繊細に、時にダイナミックに伝わってくることが最大の見所だ。また、劇中で主人公は手紙の代筆の仕事をしているが、次の世代で興隆する「電話」の存在も示されている。手紙と電話のどちらのより良いのかと単純に比較するのではなく「それぞれで伝えられる感情がある」と、その素晴らしさを説く物語としての説得力も存分にあった。
『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』(2020)の情報
監督:石立太一
出演:石川由依、浪川大輔 ほか
2時間 20分
Netflixで『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』を観る
24:『クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』(2021)※7+
ご存知、国民的アニメ『クレヨンしんちゃん』の劇場版。「大人が泣ける名作」として有名な『嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』(2001)と『嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』(2002)の2作に匹敵する高評価を得た作品だ。物語は、全寮制の超エリート校の私立学園に1週間の体験入学をしたしんのすけたちが、お尻に奇妙な噛み跡をつけられ「おバカ」になってしまう怪事件を解決するというもので、「与えられたヒントから本当に犯人を推理できる」ミステリーとしての完成度が高い内容になっている。
劇中の学園の「ポイント制度」は容赦のない分断と差別につながっており、管理社会を風刺したディストピアSFの様相を呈している。さらには「友情」や「青春」や「多様性」を見事に絡めた脚本、子どもに心から観てほしいと願える教育的な価値、全ての青春を通った大人が感涙するメッセージが素晴らしい。クライマックスでは、これまでの全ての伏線が集約された、もう号泣ものの感動が待ち受けていた。格差や分断などさまざまな問題が現実にはびこる今だからこそ胸に響く、正真正銘の大傑作だ。また、Netflixでは『クレヨンしんちゃん』の劇場版シリーズが全て見放題であり、個人的には『ヘンダーランドの大冒険』(1996)と『電撃!ブタのヒヅメ大作戦』(1998)も、家族で大いに楽しめる作品として推しておきたい。
『クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』(2021)の情報
監督:高橋 渉
出演:小林由美子、ならはしみき、森川智之、こおろぎさとみ ほか
1時間 44分
Netflixで『クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』を観る
25:『バブル』(2022)※13+
Netflixiオリジナルのブラックコメディ映画『ザ・バブル』とタイトルが混同しやすいが、今回紹介する『バブル』は日本のアニメ映画であり、劇場公開よりも先に配信がスタートする珍しい1本だ。舞台は重力が壊れ荒廃した東京で、家族を失った若者たちが目まぐるしくビルや足場を飛び移りゴールを目指す「パルクール」でバトルをするSFアクション青春劇となっている。監督は『進撃の巨人』や『甲鉄城のカバネリ』など同様にダイナミックなアクション描写が絶賛を浴びている荒木哲郎であり、荘厳かつ爽快感のある音楽とシンクロする、美しく躍動感たっぷりのアニメの快楽を浴びまくれる、贅沢な映画体験ができた。
コミュニケーションが苦手な少年が謎の少女に助けられ、その2人の出会いが世界を大きく揺るがす真実を解き明かすきっかけになるという、王道のボーイ・ミーツ・ガールかつ「セカイ系」の物語。『魔法少女まどか☆マギカ』の虚淵玄が共同脚本を手がけており、「世界が一変した」からこそ打ち出されるメッセージは、コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻が起こった今の世にダイレクトに響くだろう。『DEATH NOTE』の漫画家・小畑健が原案を手がけたキャラクターデザインはかわいらしさとカッコよさが同居しており、志尊淳と広瀬アリスや、シンガーソングライターのりりあ。の声の演技も役にとてもマッチしていた。「アニメの気持ちよさ」を期待する人は大満足できる一本だろう。
『バブル』(2022)の情報
監督:荒木哲郎
出演:志尊淳、りりあ。、宮野真守 ほか
1時間41分
26:『ジェイコブと海の怪物』(2022)※7+
凄腕のハンターと、船に乗り込んだ孤児の少女が、巨大な海の怪物がいる世界で大冒険を繰り広げる内容だ。Netflixオリジナルのアニメ映画は『クロース』(2019)『フェイフェイと月の冒険』(2020)『ミッチェル家とマシンの反乱』(2021)などアカデミー賞ノミネートの常連になるほど評価の高い作品が続々と誕生しているが、今回も躍動感のあるアクションや豊かな海の表現などが圧巻だった。かわいいとカッコいいが同居したキャラクターの活躍に大人も童心に帰って楽しめるだろう。
ただ敵と戦うだけではなく、脅威となる敵との交流、ひいては世界を平和へと導く方法が示唆されている様は、『ヒックとドラゴン』(2010)(同じくNetflixで配信中)にも近い。「ヒーローだって間違えるのかも」と言ったセリフや、これまでの「慣習」を変えることを訴える物語から、現実の世界にある問題も考えることもできるはずだ。
『ジェイコブと海の怪物』(2022)の情報
監督:クリス・ウィリアムズ
出演:カール・アーバン、ザリス=エンジェル・ヘイター、ジャレッド・ハリス ほか
1時間59分
27:『雨を告げる漂流団地』(2022)※13+
『ペンギン・ハイウェイ』(2018)『泣きたい私は猫をかぶる』(2020)など、かわいいキャラクターやアニメのクオリティで高い評価を得ているスタジオコロリドの最新作だ。内容は、小学生の少年少女が不思議な現象に巻き込まれ、気づくと団地ごと海の上にいたため、なんとか帰る方法を探すというもの。まるで漫画の『漂流教室』のような設定だが、どちらかと言えば劇場版『ドラえもん』や映画『学校の怪談』シリーズのような、子どもたちだけのひと夏の冒険を慈しむように描く内容となっている。
とは言え、楽しいばかりの内容ではなく、食料を得るためのサバイバル描写がしっかりとあったり、胃が痛くなりそうなギスギスした空気が描かれたりするなど、甘やかさないシビアな作劇もされている。だが、そうして傷つけあってしまったり、それを経て共にピンチを乗り越えるなどして、かけがえのない信頼と友情が彼らの中に育まれていく、正統派なジュブナイル冒険物語になっていた。なお、配信と同時に劇場公開(2022年9月16日~)も行われており、そちらで観ればより物語に没入できるだろう。
『雨を告げる漂流団地』(2022)の情報
監督:石田 祐康
出演:田村睦心、瀬戸麻沙美、山下大輝 ほか
2時間00分
社会問題を背景としたドラマ映画7選!
ここからは、社会問題を背景としたドラマ映画7作を紹介。いずれもお堅いだけの内容ではなく、十分なエンターテインメント性もある映画だ。
28:『その瞳に映るのは』(2022)※R16+
舞台は1945年3月、ドイツ軍に占領されナチスの支配下となったデンマークのコペンハーゲン。イギリス空軍の戦闘機が子どもたちのいる学校を誤爆してしまった実話を元とした作品だ。凄惨な死体を見たことで声を出せなくなった少年や、HIPO(予備警察)に入ったことで思い悩む青年、ユダヤ人迫害などの不条理に納得できずにいるシスターなど、複数の人物の視点が交錯する群像劇となっている。
オープニングは結婚式に向かう女性たちが一瞬で蜂の巣になってしまうという、とてもショッキングなもの。爆撃シーンのリアリティも半端なものではなく、人々が瓦礫の下敷きになったり、子どもが泣き叫んでいたりする様子からは、現実のロシアによるウクライナ侵攻も強く連想させる。その凄惨な状況の中でも、登場人物が「できることがある」と最善を模索する様からは、現実の大きな悲劇に対する抵抗や、1人1人の善行そのものの意義を感じられるかもしれない。
『その瞳に映るのは』(2022)の情報
監督:オーレ・ボールネダル
出演:バートラム・ビスゴ・エネヴォルドセン、エスター・バーチ、エラ・ヨセフィーネ・ルンド・ニルソン ほか
1時間39分
29:『サンドラの小さな家』(2020)※R16+
舞台はアイルランドのダブリン。住まいを失った母親と子どもたちが周囲の人々と助け合いながらも、自分たちの手で小さな家を建てる姿を描いたドラマだ。邦題のイメージでほんわかと癒される映画と連想されるかもしれないが、劇中での状況は過酷そのもの。主人公は、DVを繰り返す夫から幼い娘を連れて逃げ出したものの、公営住宅は長い順番待ちで、ホテルでの仮住まい生活から抜け出せなくなってしまう。
オープニングのとあるやりとりからすでに涙腺が緩むし、厳しい現実が次々に襲う様は辛く苦しいが、子どもたちはとにかくかわいらしく、だからこそ家族の幸せを心から願えるだろう。安易な夢物語やハッピーエンドに頼らない作劇は誠実であり、予想だにしない感動も待ち受ける物語に仕上がっていた。原題の「Herself」が意味することも、最後まで見届ければわかることだろう。
『サンドラの小さな家』(2020)の情報
監督:フィリダ・ロイド
出演:クレア・ダン、ハリエット・ウォルター、コンリース・ヒル ほか
1時間37分
30:『薬の神じゃない!』(2018)※13+
2014年に中国で起こった「ジェネリック薬の密輸販売」という実際の事件を描いた作品だ。表向きは犯罪行為ではあるのだが、この事件は中国医薬業界の改革のきっかけになったといわれている。上海で小さな薬屋を営んでいた主人公は、店の家賃も払えず、妻にも見放され、人生のどん底から初めはカネ目的で薬の密輸に手を染めてしまう。その後にポールダンサー、牧師、不良少年など超クセが強いメンバーと共に事業を進めていく様が、エンタメとして大いに楽しめるだろう。
どうしようもないダメ人間だったはずの主人公と、寄せ集めのチームが、次第に「義賊」のように、正義感を持って理不尽な状況に立ち向かっていくドラマには確かな感動がある。アメリカ映画『ダラス・バイヤーズクラブ』(2013)とは「未承認の薬を世に行き渡らせる実話」という共通点があるため、そちらが好きな方もきっと気に入るだろう。新しい治療法をめぐり人々が混乱と対立をしていく様も綴られているため、コロナ禍の今こそ学べることもあるはずだ。
『薬の神じゃない!』(2018)の情報
監督:ウェン・ムーイエ
出演:シュー・ジェン、ジョウ・イーウェイ、エリック・ワン ほか
1時間56分
31:『イン・ザ・ハイツ』(2021)※13+
トニー賞4冠とグラミー賞最優秀ミュージカルアルバム賞を受賞した、同名のブロードウェイ・ミュージカルの映画化作品だ。主人公は変化が著しいニューヨークの片隅に取り残された、ワシントン・ハイツという街に住む4人の若者たち。それぞれ厳しい現実に直面しながらも夢を追い、真夏の大停電の夜に大きく運命が動き出す様を追う、アメリカの移民問題がつぶさに反映された物語となっている。
最大の魅力は、まるでインド映画のような歌とダンスの豪華絢爛さ。多様性に富んだ人々が一堂に介して夢と希望を高らかに歌う、コロナ禍で失われた光景を「これでもか」と浴びれる内容で、実写映画版『アラジン』(2019)にも近い多幸感にも満ちているので、そちらが好きな方にもおすすめだ。なお、原作および音楽を手がけたリン=マニュエル・ミランダは、第94回アカデミー賞で監督作『tick, tick…BOOM! チック、チック…ブーン!』(2021)が2部門ノミネート、音楽を担当した『ミラベルと魔法だらけの家』が長編アニメーション賞を受賞するなど、現代ミュージカルを代表する作り手となっている。
『イン・ザ・ハイツ』(2021)の情報
監督:ジョン・M・チュウ
出演:アンソニー・ラモス、コーリー・ホーキンズ、レスリー・グレイス ほか
2時間 22分
32:『MINAMATA-ミナマタ-』(2020)※R16+
実在の写真家のユージン・スミスが、熊本に訪れ水俣病を撮影・記録する様を追ったドラマだ。ジョニー・デップは熱望の末に主演と製作を務めており、作品からも、現代まで続く問題への強い関心と憤りを感じさせる。水銀に冒された人々、激化する抗議運動、それらを押さえ込もうとする工場側の圧力など、市民と企業との対立がリアルに描かれていた。
酒浸りで素行が良いとは言えないが、芯には熱いものを持っている主人公を演じたジョニー・デップをはじめ、日本人キャストも真田広之や浅野忠信など豪華で、達者な英語を話す國村隼とのシーンは一触即発の空気に満ちていた。ロケはセルビアやモンテネグロで行われたそうだが、そうとは思えないほどの「70年代の日本」を再現した風景も見所だ。水俣病はもちろん、ユージン・スミスというその人を知る意味でも観てほしい一本だ。
『MINAMATA-ミナマタ-』(2020)の情報
監督:アンドルー・レヴィタス
出演:ジョニー・デップ、美波、岩瀬晶子、真田広之、浅野忠信、國村隼 ほか
1時間54分
33:『キーパー ある兵士の奇跡』(2018)※R16+
実在のサッカー選手であるバート・トラウトマンを主人公とした伝記映画だ。捕虜であった彼はイギリスの収容所でサッカーのゴールキーパーとして活躍し、終戦後は監督の娘と結婚するなど、順調に人生を歩んでいく。しかし、ある時ユダヤ人が多く住む街で苛烈な非難を浴びることになる。なぜなら、彼は元ナチス兵士であり、人類の歴史上もっとも悪逆とも言われる集団に属していたという事実があったからだ。
サッカーそのものを描く内容と言うよりも、物語の本質は「どのように己の過去の罪と向き合っていくか」「どのように世間に自分の意思を訴えていくか」ということ。劇中のシーンはSNSの誹謗中傷をも思い起こさせ、だからこそ過剰な言葉の攻撃をしていないだろうかなどと、日々の言動を改めるきっかけも生まれるだろう。主人公を精神的に追い詰めるシビアな展開も多いが、それも作品に必要なものだ。
『キーパー ある兵士の奇跡』(2018)の情報
監督:マルクス・H・ローゼンミュラー
出演:デヴィッド・クロス、フレイア・メイヴァー、ジョン・ヘンショウ ほか
1時間58分
34:『ミアとホワイトライオン 奇跡の1300日』(2018)※13+
少女とホワイトライオンとの友情を描く物語だ。目玉となっているのは、実際に3年を超える年月をかけて、本物のホワイトライオンを撮影して作り上げたこと。物語冒頭で赤ちゃんだったホワイトライオンは1年で大型犬並に大きくなり、一緒に住むことが困難になっていく様がリアルに綴られている。物語はフィクションだが、実際の動物と人間の成長を見守るような半ドキュメンタリー的な魅力もあるのだ。
かわいいホワイトライオンと少女のふれあいを描くだけでなく、追われながらも目的地を目指すロードムービーの要素も備えており、まさに子どもから大人まで楽しめるエンターテインメントになっていることが何よりの美点。加えて、囲いの中で野生動物をハンティングする「缶詰狩り」の問題を訴えるという、社会派の面を備えていた。終盤では「よく本物のホワイトライオンとこんな画が撮れたな!」と驚けるアクションシーンもあるので、ぜひ楽しみにしてほしい。
『ミアとホワイトライオン 奇跡の1300日』(2018)の情報
監督:ジル・ド・メストル
出演:ダニア・ドゥ・ヴィリエ、メラニー・ロラン、ラングレー・カークウッド ほか
1時間38分
Netflixで『ミアとホワイトライオン 奇跡の1300日』を観る
強烈なインパクトのある&一風変わった見応え抜群の日本映画6選
ここで紹介するのは、見応えのある優れた日本映画6作。いずれも暗めの作風であるため、ある程度の好き嫌いは分かれるだろうが、ダウナーな雰囲気そのものを好む方には大プッシュでおすすめしたい。
35:『累-かさね-』(2018)※13+
同名コミックの映画化作品であり、「キスをすると顔が入れ替わる不思議な口紅」をめぐった女性2人の愛憎入り混じる関係を描いたサスペンスドラマ。土屋太鳳と芳根京子がW主演を務めており、それぞれが劣等感や嫉妬といった負の感情を溢れさせる女性を熱演している。一触即発の空気に満ちていながら、それぞれの心理に何重もの深読みができる、スリリングかつ奥深い内容となっていた。
劇中で大きな要素となっているのは「演劇」。劇中では「ニセモノが本物を超える」という印象的なセリフがあり、まさに演技をもって相手を凌駕するようなカタルシスが待ち受けている。全14巻にもおよぶ原作からの再構築も見事で、特に中盤で告げられたある事実と、クライマックスと対比となる物語構造には鳥肌総立ちになるような感動があった。美術や音楽も洗練されているので、隅々まで味わい尽くすように観てほしい一本だ。
『累-かさね-』(2018)の情報
監督:佐藤祐市
出演:土屋太鳳、芳根京子、横山裕 ほか
1時間51分
36:『星の子』(2020)※7+
同名小説を原作とした、いわゆる「宗教2世」の中学3年生の少女の心情を丹念に綴ったドラマだ。発端となるのは、両親が娘を救うために「宇宙のエネルギーを宿した水」を買ったこと。「娘への愛情」のために”あやしい宗教”にのめり込んだ事実そのものも辛いが、綺麗な一戸建てに住んでいたはずなのに、どんどん住まいと食事が貧しくなっていく(しかしその宗教から買った物は家の中に大量に置かれている)様も観ていて苦しいものがあった。さらに、主人公は憧れの数学教師から、とてもひどい言葉を投げつけられてしまう。その時の芦田愛菜の絶望そのものを体現した表情を、忘れることができない。
「信じること」の難しさを極めて現実的かつ多角的に描いていて、だからこそ誰かの悩みに真摯に寄り添うためのヒントが得られるかもしれない、素晴らしい作品だ。
『星の子』(2020)の情報
監督:大森立嗣
出演:芦田愛菜、岡田将生、大友康平 ほか
1時間50分
37:『屍人荘の殺人』(2019)※13+
国内主要ミステリーランキングで4冠を達成した同名小説の映画化作品で、大学生が密室での殺人事件の謎を解く王道の推理ものであると同時に、「ネタバレ厳禁」かつ「ネタバレを踏みやすい」作品。というのも、いちばんの特徴そのものが、予告編では巧みに隠されているサプライズであり、かつ作品を観た人がいちばん語りたくなることでもあるのだ。まだ何も知らないという方は、まずは観ていただきたいと願うばかりだ。
そのネタバレ厳禁ポイントが突出している作品ではあるが、謎のヒントが散りばめられた正統派のミステリーとしてもしっかり面白い内容である。雰囲気はややポップで、ヘタレ気味な神木隆之介、気が強すぎる浜辺美波をはじめとしたクセの強いキャラクターの掛け合いも大いに楽しめるはず。ラストも良くも悪くも「ええっ!?」と驚けるもので、極端な賛否両論を呼んだことも納得だが、それも含めて作品の価値といえるだろう。
『屍人荘の殺人』(2019)の情報
監督:木村 ひさし
出演:神木隆之介、浜辺美波、中村倫也 ほか
2時間00分
38:『スパイの妻 劇場版』(2021)※R16+
舞台は太平洋戦争開戦を控えた1940年代の神戸。何不自由なく幸せに暮らしていた妻が、夫が恐ろしい国家機密の公表を画策していることに気づくことから始まるサスペンスだ。確かな信念を持つ一方で得体の知れない気味の悪さも同居している高橋一生、善良な妻を装いながらも徐々に憔悴していく蒼井優、非人間的なまでの冷酷さを漂わせる東出昌大と、実力派の俳優たちが織りなす演技合戦も見所となっている。
意外な結末に向けて二転三転する展開はエンターテインメントとして存分に面白く、多数のホラー映画で国内外で高い評価を得る黒沢清監督の「闇」を感じさせる演出も冴え渡っている。第94回アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞した『ドライブ・マイ・カー』(2021)の監督の濱口竜介が共同脚本を務めており、その「何気ない会話でもスリリング」な持ち味がグイグイと興味を引くことも間違いない。
『スパイの妻 劇場版』(2021)の情報
監督:黒沢清
出演:蒼井優、高橋一生、坂東龍汰 ほか
1時間56分
39:『人数の町』(2020)※13+
借金取りに追われていた青年が、簡単な労働と引き換えに衣食住が保証された奇妙な町に住み始めるというSFサスペンスであり、その場所の異常性をじわじわと、しかしはっきりと見せていくというのが基本のプロット。その町は監獄というわけではなく、住人には行動の自由が与えられており、町の見た目は無機質ではあるが清潔さも保たれているように見える。にも関わらず(だからこそ)、その場所はやはり不気味でグロテスクなものに映るのだ。
その不気味さの原因は、住人たちが管理されたコミュニティに「特に何も考えずに」耽溺しているからだろう。劇中で行われる「投票」の様子は、現代で無意識に人々が操られる社会風刺になっており、だからこそ中村倫也演じる青年が疑問を持つ様に感情移入できる。『世にも奇妙な物語』のような不可思議であると同時に恐怖を感じる物語を期待する方におすすめだ。G(全年齢)指定ではあるが、多少の性的な話題があるのでご注意を。
『人数の町』(2020)の情報
監督:荒木伸二
出演:中村倫也、石橋静河、立花恵理 ほか
1時間51分
40:『恋する寄生虫』(2021)※13+
極度の潔癖症で孤独に生きる青年が、視線恐怖症で不登校になった少女の面倒をみることから始まるラブストーリーだ。こちらも『世にも奇妙な物語』のようなファンタジーがかった設定が根底にあり、CMやミュージックビデオを手がけてきた柿本ケンサク監督ならではの凝りに凝った映像表現も見所となっている。哲学的な思索も含め好みははっきりと分かれるだろうが、さまざまな理由で「社会からの疎外感」を得た経験のある方には、きっと共感できることがあるはずだ。
不器用さの中に優しさが見える林遣都と、彼を傍若無人に振り回すようで繊細さを感じる小松菜奈が、本当にお似合いのカップルに見えてくる。さらなる見所は「恋をする理由」についての問答と、それがあってこその美しく完璧なラストシーンだろう。原案の小説とも異なるラストでありながら、物語を振り返れば「こうなる」ことが大納得できる、映像作品としての魅力が極まった至福の光景が目の前に広がっていた。
『恋する寄生虫』(2021)の情報
監督:柿本ケンサク
出演:林遣都、小松菜奈、井浦新 ほか
1時間39分
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