【解説】岩井俊二監督作品、映画『ラストレター』のあらすじと、映画を読み解く7つのポイント

公開日:2020年1月24日

公開中の映画『ラストレター』を、前ページに引き続き解説。

5:映像で語る映画ならではの“喪失感”とは

映画『ラストレター』場面カット
(C)2020「ラストレター」製作委員会

映画では、現在の未咲は一切姿を見せない。遺影でさえも、最近の写真がなく若い姿のままだ。他者の視点から、彼女の死ぬ前の精神状態や行動が、言葉で語られるのみである。

彼女の姿が過去にしか存在しないことは、前述した鏡史郎の「なかなか彼女(未咲)の幻から抜け出せなくて…」というセリフとも見事にリンクしている。これは映像で語る映画ならではの表現だ。これにより未咲が“不在”であることの喪失感が、より際立つようになっているのだから。

ちなみに、小説版では映画にはなかったシーン、異なる設定も多い。鏡史郎の妹は小説版でのみ登場し、映画で庵野秀明演じるマンガ家は小説版ではサイバーセキュリティーのエンジニアとなっており、夫婦ゲンカがさらに深刻なことになっていたりもする。さらに、小説版ではクライマックスに、やはり未咲が“不在”であることを残酷に示す事件も発生していた。

小説版では、ほぼほぼ鏡史郎の一人称で(時に裕里の視点に立ち)語られており、特に“小説家を辞めようと思っていた”彼の心境はより痛切に描写されている。映画と合わせて読むと、より物語を楽しむことができるだろう。

6:主題歌「カエルノウタ」の解釈とは

森七菜が歌い、作詞を岩井俊二が手がける主題歌「カエルノウタ」も、すれ違いの苦しさや、それでも届けたいという想いの詰まった、手紙を歌ったものとも解釈できる。

歌詞の「どうか気づいて くしゃくしゃに書き捨てたメッセージ」などからは手紙でも伝えきれない苦しい想いが現れているようだ。

また、「少年たちとカエルたち」というイソップ童話は、“自分たちにとって楽しいことでも相手にとっては迷惑だ”ということを諭している。歌い出しの「つぶてを水に放つ」「声も届かないこの場所で」などは、このイソップ童話を揶揄しており、それは悪意のある言葉に傷つけられてしまう、声なき声の代弁なのだろう。

それでも、歌詞はまるで返事を待つかのように「その光の隔てる先への先へと」「待ってるから」と希望を持つかのように終わっている。まさに、美しさと残酷さの両面を描くという岩井俊二の作家性が表れた歌詞だ。

7:『Love Letter』との共通点と、普遍的なテーマ

映画『ラストレター』ポスター
(C)2020「ラストレター」製作委員会

この『ラストレター』は岩井俊二監督が1995年に発表した、中山美穂主演の映画『Love Letter』に対しての、“シリーズのパート2”または、“セリフリブート”または、“アンサー映画”であるともされている。

岩井俊二監督がそう呼ぶように、『Love Letter』と『ラストレター』はとても共通点が多い。登場人物の死が前提にあり、物語の発端は「来るはずのない手紙が届く」ということ、切ないすれ違いが描かれ、重要人物を(中山美穂が)1人2役で演じていたり、風邪をひいているキャラがいたり、豊川悦二が出演していることも同じだ。

さらに重要なのは、どちらもやはり、“大切な人が不在の未来”を描いていることだろう。『Love Letter』で主人公が序盤に「やっぱり(死んだ)彼が(手紙を)書いているのよ。夢があるわ、そうしよう」と希望を口にしたり、「みんな忘れちゃうのね、死んだ人のことなんか」とグチをこぼす人物がいたり、有名な「お元気ですか」のセリフも、いずれも『ラストレター』と同じ、「あの人が生きていてくれたら…」という切ない“IF”を示し(それは叶わないが)、そして未来へ向けての希望へと転換していく。

愛する人の死は、誰しもが避けることのできない、普遍的なテーマだ。繰り返しになるが、亡くなった大切な人の過去の思い出をもって(その思い出を残した手紙が)、その人のいない未来でも歩み出す力を得るというというのは、ラブストーリーという枠に収まらない、尊い人間賛歌だ。

ぜひ、『Love Letter』を観たことがある人は『ラストレター』を、『ラストレター』を観た人は『Love Letter』を観て(観返して)みてほしい。岩井俊二監督のメッセージが、さらに強烈なまでに感じられるだろうから。

参考記事:「岩井俊二の世界」は続く 映画『ラストレター』公開記念&「SWITCH」発売記念特別ロングインタビュー
 

ヒナタカ

>インディーズ映画や4DX上映やマンガの実写映画化作品などを応援している雑食系映画ライター。過去には“シネマズPLUS”で、現在は“ねとらぼ”や“ハーバー・ビジネス・オンライン”などで映画記事を執筆。“映画レビューブログ”も運営中。『君の名は。』や『ハウルの動く城』などの解説記事が検索上位にあることが数少ない自慢。


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