中銀カプセルタワービルで暮らす男性に、憧れのデザイナーズ物件の探し方と魅力を聞いた
好きの中で暮らす! ウクライナ出身の若手建築家が一目ぼれした物件に住むまで
最近は空間や内装にこだわったデザイナーズ物件も増えてきた。しかし、著名な建築家が手がけた有名物件などは唯一無二の存在。こうしたデザイナーズ物件に住みたい場合はどのように探せばよいのだろうか?
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今回は、46年前に銀座に建てられた「中銀カプセルタワービル」に暮らすテンシャンさんのお宅を訪問。ウクライナ出身であり若手建築家でもある彼は、この歴史的デザイナーズ物件に住むことを熱望して来日。彼のユニーク且つ情熱にあふれたお部屋探しの方法を紹介しよう。

プロフィール
名前:テンシャンさん
性別:男性
年齢:26歳
職業:学生・建築家
物件データ
所在地:東京都中央区
家賃:60,000~70,000円
間取り:1R
築年数:46年
中銀カプセルタワービルの紹介ページはこちら

きっかけは、授業で見た黒川紀章建築
四角い箱をランダムに積み上げたような奇抜なデザインの「中銀カプセルタワービル」。建築家・黒川紀章氏の代表作として知られる歴史的デザイナーズ物件で、築後半世紀近く経った今もなお、日本のみならず世界各国から入居希望者が殺到。140個あるカプセルの一室に住み始めて約半年というウクライナ出身の若手建築家・テンシャンさんも、この物件に住むことを熱望していた一人だ。
「大学の授業で初めて中銀カプセルタワービルを知った時、驚きました。中央に建つタワーにカプセルが1個ずつくっついて、しかも取り替えることで生まれ変わっていくというコンセプトがとてもおもしろいと思いました」(テンシャンさん)

長文の手紙で伝えた「住みたい気持ち」
かねてより日本文化に興味を持っていたテンシャンさんは大学卒業後、日本への留学を決意。そこで研究テーマとして選んだのが、ひと目見て以来ファンになった「中銀カプセルタワービル」だった。研究するからには、実際にこの物件に住みたい。かくしてテンシャンさんはリサーチを開始。しかし、はるか遠く離れたウクライナで、一体どのようにして物件の情報を集めたのだろうか?
「独学で日本語を勉強していたので、日本のウェブサイトで調べました。翻訳するのにかなり時間がかかりましたが……。いろいろ調べるうちにFace bookで中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクトのページを見つけて、『ここの物件に住みたいです』という内容のメッセージを送りました」(テンシャンさん)
不慣れな日本語で、自己紹介と中銀カプセルタワービルへの想いを綴ったテンシャンさん。腕を上下に広げるジェスチャーをして「ものすごーく長文でした」と苦笑いを見せる。熱意が届いたのか、すぐにプロジェクトの代表を務める前田達之さんから「日本に来たら連絡して」という返信が来た。

住むだけではなく、リノベーションプランにまで携わることに
そして来日。最初の1ヵ月半は、民泊サービスで見つけた大学近くの部屋で過ごしたという。この間、改めて前田さんにコンタクトを取る一方、テンシャンさんは別の行動も起こしていた。
「ネットで中銀カプセルタワービルのリノベーションプランを募集するプロジェクトを知って、僕のプランを提出しました」(テンシャンさん)
テンシャンさんが提出したのは、ミニマリズムを追求した和モダンな空間にリノベーションするアイディア。そのプランはなんと採用、実現に向けて動き出すことに。中銀カプセルタワービルに深く関わることになったこともあり、前田さんが所有するカプセルを貸し出してくれることになった。ついに、念願だった黒川紀章が生み出した空間に住むことが決まったのだ。

住みたい気持ちがあれば夢は叶う!
あこがれの物件について情報を集め、関係する人に直接コンタクトを取り、積極的にアクションを起こしていく。テンシャンさんはこの物件に住むまでの経緯をさらりと話してくれたが、その情熱と行動力は並々ならぬもの。日本で他の物件に住むことは考えなかったのかと聞いてみると、「中銀カプセルタワービル以外はまったく考えていなかった」とのこと。
「この空間は10㎡と小さいです。でも、僕は大学で過ごす時間が長いので面積は重要ではありません。古い建物ですが、この空間には未来が詰まっていると思います。保存・再生プロジェクトに関わりながら、この空間を体感できるのがとてもうれしいです」(テンシャンさん)

歴史的デザイナーズ物件をその身で体感した彼が今後どんな建築を手掛けていくのか、今から楽しみだ。
文=村上佳代
写真=奥村暢欣
※「CHINTAI2018年7月号」の記事をWEB用に再編集し掲載しています