4月まで余っている賃貸物件は「やばい物件」? 不動産のプロ・長谷川高氏に実情を聞いた
4月まで余っている賃貸物件は「やばい物件」なのか?
賃貸業界、引越し業界は2月と3月が忙しい。4月からの新生活に向け、引越しが集中するからだ。とりわけ今シーズンは、そのピークに物件の供給が追い付いておらず「引越し難民」が続出したようだ。
であるならば、いっそのこと超繁忙期の引越しを見送り、4月以降の今、引っ越す方がいいのではないか? とりあえずはマンスリーマンションなどを仮住まいとし、新生活が始まってから腰を据えてじっくり部屋を探すのもアリなんじゃないだろうか?

しかし、懸念される点も。それは……
2月3月で借り手がつかなかった家って、“余り物”なんじゃないの?
ということ。3月までに「いい賃貸物件」は全て借り尽くされ、余っているのは立地や設備に何らかの負を抱えた、イマイチな物件ばかりなのでは?

リアルな実情を探るべく、不動産投資コンサルタントで『家を借りたくなったら』(WAVE出版)などの著書を持つ長谷川高氏に話を聞いた。

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このページの目次
4月以降の賃貸市場は「焼け野原」?
編集部 まず、そもそも「いい賃貸物件」の定義からハッキリさせておきたいのですが、「好立地かつ人気の条件を満たしていて、かつ家賃が適正」という認識で問題ないでしょうか?
長谷川 はい、それでよろしいかと思います
編集部 そんな「いい賃貸物件」は、賃貸需要がピークに達する2月3月で全て成約してしまうんじゃないでしょうか? 現にこの時期の部屋探しって、魅力的な部屋はすぐ埋まってしまいますよね
長谷川 確かに、2月3月は午前中に内見したばかりの家が夕方には決まってしまうなど、“早い者勝ち”なところはありますね。この時期は引越しのピークであると同時に、空室自体も最も多くなるため、借り手からすると「選びやすい」のは事実だと思います

編集部 じゃあ、4月以降はやっぱり不利なのですね……
長谷川 いえ、結論から言うと不利ではないと思います。むしろ、4月以降の方が有利に働く点もたくさんありますよ。まず、そもそもご認識いただきたいのは、賃貸物件というのは「常に余っている」ということです
編集部 「いい賃貸物件」も余っているんでしょうか?
長谷川 「いい賃貸物件」も余っています。最近、全国的に空き家や空室が増えているという話を聞いたことはないですか?
編集部 聞きますね。でも、それは地方や一部の都市に限った話かと
長谷川 今は東京の都心部を含め、どのエリアも供給がだぶついています。それを表す一つの指標となるのが「家賃」です。ここ数年、株価が高騰し、不動産の価格も急上昇していますよね。でも、これが賃貸住宅の家賃となると、どのエリアもほとんど上がっていない。駅周辺が開発され、目覚ましい発展を遂げているようなエリアだったり、吉祥寺や三軒茶屋といった人気エリアでさえ、家賃は据え置きです。要は賃貸住宅が余っていて、需給のバランスが崩れているため上げたくても上げられないんですね
編集部 ということは、借り手にとっては時期を問わず、常に有利な状況であると?
長谷川 有利でしょうね。特に、20㎡前後の単身者向け物件は供給過多になっていますので、より借りやすくなっていると思います

価格交渉するなら断然「初期費用」
編集部 でも家賃は据え置きで、下がっているわけではないんですよね。余っているからっておトクに借りるというのは難しいですよね……?
長谷川 オーナーって家賃は下げたくないんです。それは最後の手段。新しい入居者だけに便宜を図ると現在の入居者さんとの間に不公平が生じますので、他の部屋も下げざるを得ない。これだけ情報が可視化されていると、隠し通すことはできませんしね。だから、家賃ではなく、たとえば「ペット可」にするなど、まずは条件面で譲歩したり、家賃は据え置きのまま内装を現代風にリフォームして付加価値をつけるわけです。あとは、家賃は下げずに「初期費用」を軽くしてお得感を出すのは常套手段の一つですね

編集部 確かに、敷金や礼金って、全体的にひと昔前より軽くなっている気がします
長谷川 負担は減ってきています。家賃に比べれば、オーナーも受け入れやすいですから。そのため、もし価格交渉をするなら「初期費用から」がセオリーです。部屋探しの需要が落ち着く4月以降は、さらに交渉がしやすいはずですよ
編集部 先ほどおっしゃっていた「4月以降に部屋探しをするメリット」の一つですね
長谷川 そうです。実際、4月に入ると賃貸物件の問い合わせって、わかりやすく激減するんです。そのため、4月以降に来てくれたお客さんに対しては、交渉に応じてでも逃したくないという心理が働く。また、不動産屋も繁忙期を過ぎて物理的に手が空いていますから、一人ひとりに対して手厚く対応してくれる可能性は高いと思います
編集部 あまりがめつく価格交渉すると、入居審査に影響が出たりしませんかね?
長谷川 そんなことはありません。もちろん、言い方や態度に気を配り、常識的な範囲内での要求に止めていただくことが大前提ですが、「初期費用がもう少し安ければ借りたい」という正直な気持ちは素直に伝えたほうがいいと思います。不動産屋さんって、昔は鬼瓦みたいな顔した怖いおじさんがいるイメージでしたけど、今は部屋を初めて借りる世代に近い感覚を持った若いスタッフも多いので、気軽に相談してみるといいでしょう

何かを我慢すれば、驚くほど激安の物件に出合える
編集部 他に、最近の賃貸市場で変化していることってありますか?
長谷川 先ほど申し上げたように全体的な家賃相場は据え置きなのですが、一部でちょっとびっくりするくらい激安の物件が登場してきているのは感じますね。5万円以下、3万円以下の物件に特化した不動産サイトもあるくらいですから。
編集部 それって、どんな物件ですか?
長谷川 ものすごく古いとか、ものすごく狭いとか、ものすごく不便な場所にあるとか、そういう感じですね。これだけ物件が余っていると、一つでも大きなマイナスポイントを抱えていると借り手は非常につきづらいのです。そういう場合は、もう値段で勝負するしかない
編集部 では、逆にそのマイナスを我慢できれば、あり得ないほどの安価で借りることもできると
長谷川 そうですね。大きなマイナスをも我慢できるならば

不動産会社は「どこも同じ」ではない? なるべく多く巡ってみよう!
編集部 最後に、この4月から部屋探しをする人にアドバイスをいただけますか?
長谷川 4月以降はせっかく部屋探しのライバルも少ないわけですから、じっくりと腰を据えて探してほしいですね。焦らず、複数の不動産屋さん、いろんな賃貸物件を吟味してみることです
編集部 でも、今はネットで物件情報が共有されているから、どの不動産会社に行っても同じって聞いたことがあるんですが?
長谷川 よく不動産屋さんは「どこ行っても同じ情報だよ」って言いますよね。でも、あれはウソ。確かに物件情報は共有されていますが、自社で扱っているものは来店してくれたお客さんに紹介することが多いです。それで成約すれば、オーナーと借り手、両方から手数料がもらえるわけですから
編集部 なるほど! 確かにそれならたくさん巡ったほうがよさそうです
長谷川 1日あれば、不動産屋さん3軒くらい回れますよね。この時期は向こうも多少おっとりしているので、対応もより丁寧だと思います。「いい賃貸物件」はすぐなくなってしまうとか、そういう概念にとらわれず、納得するまで素敵なお部屋を探してみてください
4月以降の部屋探しは……「アリ」
というわけで、専門家の見解をまとめると
4月以降も「いい賃貸物件」は見つかる。むしろ、じっくり腰を据えて探せるし、不動産会社の対応も丁寧だし、価格交渉もしやすい
という意外な利点が見えてきた。というか、利点しかなかった。3月までに引越しできず絶望しているあなたにこそ、ぜひ妥協することなく「いい賃貸物件」を見つけてほしいと思う。
取材・文=榎並紀行(やじろべえ)