防音でなくても大丈夫! 3人の楽器職人の音を気にせず音を出せる環境の見つけ方

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楽器修理を仕事にする3人が紆余曲折を経てたどり着いたのは、朝から晩まで大好きな楽器のことだけを考えていられる夢の空間だった

難易度マックスだった理想の工房探し

仙川駅からほど近い静かな住宅街に佇む、ごく普通の一軒家。だが、ガラガラッと入り口のドアを開けると、世界は一変。

目に飛び込んできたのは、壁に、床にと部屋を埋め尽くすかのように置かれたギターとアンプの数々。一体どれくらいの数があるのか、ぱっと見ただけではもはや不明……。

3人が暮らす工房の一部

ギターやアンプなどの修理を手がける吉川晋平さん、石川哲也さん、小出拓哉さんの3人が工房兼住居としてこの物件に引越してきたのは2016年10月のこと。

広い駐車場に囲まれた一軒家の1階部分を借りていて、2階には大家さんが住んでいる。

玄関を入ってすぐの15畳ほどのスペースが工房だ。
ここは、お客さんから預かった楽器を修理する作業場であり、3人それぞれが趣味で集めているギターやアンプの展示スペースでもあり、修理した楽器を試し弾きする場でもある。

この物件に出合う前、もともと同じ楽器修理の専門学校卒で仲が良かった吉川さんと石川さんは、一緒に小さなプレハブを借りて、工房として使っていたそう。

自分達がネットオークションで購入した楽器も所狭しと並んでいる

「西永福で家賃4万7000円という奇跡の激安物件で、トイレとキッチンを含めて10畳ほどでした。音が漏れないように、自分たちで床・壁・天井に防音シートを貼って使っていました。音問題はなんとかなったのですが、いつの間にかギターや道具がどんどん増えてしまって……。物があふれて作業スペースがなくなってしまったので、契約更新を機に引っ越すことにしました」(吉川さん)

そのタイミングで、石川さんから「家賃を節約するために住居と工房を一緒にしたい」と申し出があり、広い物件への引越しを決意。

そして、せっかく広いところに引っ越すなら、2人よりも3人のほうが家賃を抑えられるということで、当時実家から職場のアンプ修理工房までの通勤時間の長さに悩んでいた後輩の小出さんをシェア工房仲間に誘った。

「ジャンク品」といわれる故障した楽器や機器を格安で手に入れ、自らの手で直すことも

3人でのシェア工房生活がスタート!?

こうして3人で新たな工房を探し始めたものの、理想の物件はなかなか見つからなかった。都心から遠くない場所にあり、周囲への音の干渉が少ない一軒家で、男性3人が入れて、工房として使えて、楽器を思いっきり弾けるという条件に加え、お客さんが来やすいように最寄り駅からの近さも重要。全ての条件がそろう物件を見つけるのは、明らかに難易度が高い。

「2ヵ月以上かけて、30軒近くは物件を見に行きました。でも、一軒家だとファミリーがライバルになってしまうので、こんな厳しい条件を挙げていたらそりゃあ落とされますよね。一つだけ、条件に合ったいい感じの物件があって保証会社との契約までは進んだのですが、最終段階で大家さんにやっぱりダメと断られてしまって……。もう見つからないんじゃないかと思いました」(石川さん)

そんな時、途方に暮れた3人の様子を見かねてか、物件探しでお世話になっていた管理会社の方が、「うちの下が空いているから、良ければ安く貸すよ」と声をかけてくれた。それが今の物件だ。当初の条件を全て満たしていて、駐車場に囲まれているため近隣の住戸まで距離があり、音も響きにくい。

しかも、以前はエアコン業者が入居していた物件のため、アース付きの三つ穴コンセントがたくさんある点も、エレキ楽器を弾く3人にとって好都合だった。

「大家さんはとても気さくな方で、壁に棚を打ち付けるのもOKだし、音を出すのも許可してくれています。演奏活動していることを伝えたら、『応援するから、いつか有名になってよ』って言ってくれて。結果的に、最高の物件が見つかりましたね」(石川さん)

お客さんの「より良い音を追求したい」という要望に応じて、請け負う内容は多岐にわたる

好きなことを好きなだけする念願の音楽三昧ライフ

この工房で、3人は朝から晩まで楽器と向き合う暮らしをしている。
仕事としてお客さんから預かった楽器を修理している以外の時も、ネットオークションで新たなジャンク楽器を発掘しては、音が出るまで修理する。いい音が出たら、3人で交互に演奏してみる。

「子どもの頃から時計やラジオなどの構造が気になって、何でも分解してしまう性質でした。壊れている楽器を見つけると、『本当はどんな音が出るんだろう?』ってすごく気になってしまうんです。だから、延々修理して、調整して、理想の音が出た瞬間がとにかく楽しい。『いい音だな〜』ってニヤニヤしながら、ずーっと弾いちゃいますね」(吉川さん)

無邪気な子どものように、全力で好きなことに夢中になっている3人。しかし、実は楽器修理の仕事を始める前は、それぞれ別々に、音楽とはまったく関係のない仕事に就いていた経験があるという。

休日も工房で自分たちの楽器をいじったり弾いたりして過ごしているそうだ

学校を卒業して就職してみたが何か違和感があった、音楽の仕事だけでは食べてはいけないと思ったけど、諦めきれず……など、今の職業を志した理由は三者三様だやっぱり、やりたくない仕事をずっと続けていくのはつまらないなと感じて。好きなことを仕事にしたいと思ったんです。

今は、サラリーマン時代の反動ですかね。正直、ギターの修理ってあんまり儲からないですけど、やりたいことを存分にできるから、毎日がにかく楽しいです」(吉川さん)

お気に入りのギターをいじりながら、3人の楽器トークはまだまだ続く。理想の工房を手に入れた3人の音楽ライフは、さらにディープになっていきそうだ。

●PROFILE
吉川晋平さん 31歳・男性
楽器修理工房「Yoshikawa Guitar Repair」
http://www.ygr-guitars.com

石川哲也さん 30歳・男性
楽器修理工房「Path」
http://www.path-guitarbassandfx.com/

小出拓哉さん 24歳・男性
会社員・楽器修理工房「tiny sounds」
twitter:@tsoundsrepair

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文=村上佳代
写真=阿部昌也

※「CHINTAI2017年4月6日号」の記事をWEB用に再編集し掲載しています。
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