アニメ映画『きみと、波にのれたら』をもっと楽しむための作品を紹介!湯浅政明監督×吉田玲子脚本の“らしさ”とは?
映画『きみと、波にのれたら』が公開中

©2019「きみと、波にのれたら」製作委員会
現在、アニメーション映画『きみと、波にのれたら』が公開中だ。本作は海辺の町を舞台にした、大学生の女性と消防士の男性が紡ぐラブストーリー。思わず「リア充爆発しろ」と言いたくなるイチャイチャカップルの恋愛が描かれる一方、実は「愛する人の死からどう立ち直るか」という普遍的な尊いテーマが扱われた、万人の心の琴線に触れるであろう良作になっていた。
『きみと、波にのれたら』は原作やテレビアニメ版などはない完全オリジナル作品であり、予備知識なく劇場に行ってもOKと、とても間口の広い作品ではあるのだが、監督と脚本家それぞれの“作家性”を知っておくともっと奥深く楽しめる作品とも言えるだろう。ここでは、本作を深く理解するにあたり、合わせて観てほしい関連作品を紹介していく。
▽関連記事はこちらもチェック!
是枝裕和監督の『誰も知らない』は“なあなあ”の恐ろしさと“救い”を描いた映画だ【月イチ紹介名作映画】
湯浅政明監督の作家性を知ることができるアニメ映画厳選3選!
『きみと、波にのれたら』の監督は湯浅政明。名前に馴染みがないという方もいるかもしれないが、アニメーションファンからの熱烈な支持者が多い監督の1人だ。
その作家性は「観れば誰でもすぐにわかる」と断言できるほどに特徴的で、大胆に遠近感を強調した構図や、“揺れ”がある独特の線、“ドラッギー”や“アバンギャルド”と呼ばれるほどにダイナミックな表現など、アニメでしかできない気持ち良さや躍動感に満ちている。
1993年から始まる映画の『クレヨンしんちゃん』シリーズでも原画や設定デザインを手がけている他、数々のテレビアニメにも参加している湯浅氏だが、ここでは長編アニメーション作品に絞って紹介しよう。
『マインド・ゲーム』(2004年)
ロビン西という寡作な作家によるマンガのアニメ映画化作品で、その内容を一言で表すのであれば“破天荒”ということに尽きる。あらすじをザックリと書くと「冴えないフリーターの男がヤクザにお尻の穴から銃弾を撃たれて殺されて、神様に許しをもらって生き返るが、今度はクジラに呑み込まれてしまう」というもの。
わけがわからないと思われるかもしれないが、実際に観るとわけがわからない以上に凄まじい映像表現にただただ圧倒されるという、言語化が不可能な魅力のある快作(怪作とも言う)に仕上がっている。今田耕司、藤井隆、山口智充(DonDokoDon)、坂田利夫など、芸人が声優を務めたことでも当時話題になった。
はっきり大人向けの作品であり、終盤にはアニメでしか描けないであろうとんでもない“性行為”のシーンもあるので家族と観るにはおすすめできない。観る人をある程度選ぶ作品なのは間違いないが、他のアニメ映画にはない凄まじい体験をしてみたいという方はぜひ観てもらいたい。一部アニメファンから、今でもカルト的な人気を誇っているその理由を理解できるはずだ。クライマックスでのアクションの良い意味での“しつこさ”には驚き以上の感動があるはず。
『夜は短し歩けよ乙女』(2017年)
こちらは京都を舞台に大学生の“先輩”が“黒髪の乙女”の目になんとか留まろうと奮闘するラブストーリー作品だ。森見登美彦の原作小説は全4章で構成されており、それぞれ分けられた(季節ごと)物語になっていたが、こちらはエピソードが統合されたことにより“たった一夜の物語”になっている。
93分と言う上映時間で文字通りにその一夜を“駆け抜ける”かのようなスピード感があり、現実離れしたファンタジー要素も楽しく、原作と湯浅監督の大胆なアニメ表現が抜群の相性だった。お酒を飲む時に“首やお腹がぽっこりと膨らむ”だったり、“口より大きな角煮を食べる”といった良い意味で過剰な表現をただ眺めるだけでも楽しめるだろう。
そして、描かれているのは“人の縁”。人と人が出会ったことにより様々な出来事が起こり、それは奇跡といっても過言ではないということが高らかに謳い上げられている。そして人の縁はただ待っているだけでは繋がれていかない、好きな人と添い遂げるという目的に限らず、それを大切にして行動を起こしていくことも必要なのではないか、という現実でも役に立つ知見が得られる物語になっているのだ。
同じスタッフが結集しているテレビアニメ『四畳半神話大系』とリンクしている要素もあるので、そちらを合わせて観るのもいいだろう。
『夜明け告げるルーのうた』(2017年)
こちらは両親の離婚がきっかけで漁港に引越してきた中学生の男の子が、天真爛漫な海の生き物の女の子と出会うという内容だ。舞台や主人公2人の関係性には『崖の上のポニョ』を思わせるところもあるが、やはり湯浅監督らしい大胆な表現が満載で、オリジナリティを存分に感じさせる作品に仕上がっている。
海が“ところてん”のよう立方体に切り取られたり、初期のディズニーアニメ作品を思わせる滑らかなダンスシーンなど、アニメでしかなし得ない気持ちよさが満載だ。一部の表現は『きみと、波にのれたら』にも受け継がれている。
物語では、少年少女たちの成長物語、親子愛、男女愛、伝承からもたらされる諫言、地域振興などの多数の要素が並行して描かれているのだが、それらを破綻なくまとめあげた脚本の構成力にも唸らされる。そして訴えられているのは「好き!」という気持ちを素直に表現するということ。これも奇しくも『崖の上のポニョ』と共通しているのだが、本作ではその「好き!」と言うことが思春期の少年の鬱積した気持ちと“対”になっているというのもミソ。子供はもちろん、大人こそがハッと気づかされることがあるだろう。
脚本家・吉田玲子の凄さを知れるアニメ映画厳選3選!
『きみと、波にのれたら』の脚本を、吉田玲子が務めているということも重要だ。吉田氏はテレビアニメの脚本を多数手がけており、そのほとんどが高い評価を受けている実力派。上記の『夜明け告げるルーのうた』でも湯浅監督と共同脚本を務めており、“何気ないセリフが後から伏線として意味を成すようになる”ことや、“様々なシーンが有機的に絡む構成になっている”など、総じて吉田氏が手がけた脚本の完成度には並々ならぬものがある。
ここでは、特におすすめの吉田玲子脚本のアニメ映画を3本に厳選して紹介しよう。
『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』(2000年)
“東映アニメフェア”の1つとして劇場公開された作品で、その面白さと完成度の高さが大人のアニメファンの間でも大いに話題となっていた本作。そのあらすじは「ネットで生まれた新種のデジモンがサイバー空間のデータを食い荒らすようになり、世界中のコンピュータが誤作動しはじめてしまう」というものだ。サイバー空間でのみでのダイナミックなバトルが次々に展開し、40分という短い上映時間を最大限に生かした作劇など、とにかく濃密にアニメーションの面白さが詰まった内容となっている。
監督は『バケモノの子』や『未来のミライ』の細田守で、本作は大ヒット作『サマーウォーズ』のストーリーラインの原型となったことでも有名だ。ネット上の脅威に対して登場人物が一丸となって戦うということが両者で一致しており、アニメとしての表現にも似通っているところがある。細田守監督作品が好きな人にも絶対に観て欲しい1本だ。
『映画 聲の形』(2016年)
こちらは、小学生の男の子が聴覚障がいを持つ同級生の女の子をいじめてしまうことから始まる物語。そこから描かれるのは(いじめの)加害者であることの罪だ。この男の子はやがていじめられる側に回り、否応なくいじめていた女の子の気持ちを察することになる。そして男の子は、高校生になるまでそのいじめをしていた“加害者”であったという罪を背負って、やがて自殺をも考えてしまう。
この物語の根底には「(いじめの)加害者になったことの苦しみ」がある。悲しいことに、そのいじめられた女の子もまた「自分のせいで人間関係が壊れてしまった」加害者であると思い込んでいるのだ。そこから、どのように救いを得るのか、「自分は生きていてもいい」と自己肯定ができるようになるのか……辛い過去を通じて、優しいメッセージに導くドラマが胸に迫る。
大今良時による原作マンガを映画内の時間で上手くまとめあげた上、映画オリジナルの描写にも感動でき、繰り返し観ることでさらなる気づきも得られるなど、吉田玲子脚本の真髄が表れた傑作だ。なお、吉田氏と本作で監督を務めた山田尚子は『映画 けいおん』や『たまこラブストーリー』でもタッグを組んでおり、こちらも評価の高い作品となっている。
『若おかみは小学生!』(2018年)
この作品はSNSと中心とした口コミにより“盛り返した”ことでも話題を集めていた。1週目は不入りで上映回数が激減してしまったものの、絶賛に次ぐ絶賛のためにアニメや映画ファンが続々と劇場を足を運び、大きなスクリーンを確保する劇場も続出、一部のシネコンでは再上映が行われるなど異例とも言える伸びのある興行を記録したのだ。それもそのはず、『茄子 アンダルシアの夏』でもロードレースを躍動感いっぱいに表現した高坂希太郎監督による、細部まで丁寧に描かれたアニメーションとしての魅力もさることながら、『きみと、波にのれたら』と同じく“愛する人の死と向き合う”という普遍的なテーマを真摯に扱った、大人こそが感涙できる傑作だったのだ。
主人公の少女は冒頭で両親を亡くしてしまい、旅館で見習いのように仕事を始めることになり、幽霊の男子・女子とも友達になったりもする。可愛らしいキャラクターを誰もが好きになれるだろうし、“仕事”を寓話的に描いた物語は大人のほうが気づかされることも多いだろう。
各エピソードはそれぞれ単体で面白い上に、それぞれが有機的に結びつく脚本の構築力には脱帽するしかない。令丈ヒロ子原作の児童向け小説とは全く違う、衝撃的なクライマックスに圧倒され、そして落涙する方はきっと多いだろう。子供向けだろうと侮ることなく、絶対に観て欲しい1本だ。
まとめ:『きみと、波にのれたら』を観て欲しい最大の理由
湯浅政明監督の作品はいずれも高い評価を得ており、実際に『マインド・ゲーム』は第8回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞、『夜は短し歩けよ乙女』は第41回日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞、『夜明け告げるルーのうた』は2017年度アヌシー国際アニメーション映画祭にてクリスタル賞(グランプリ)、そして『きみと、波にのれたら』は上海国際映画祭にて金爵賞最優秀アニメーション賞と、権威ある賞を続々と受賞している。
映画初監督作品である『マインド・ゲーム』はその作家性を全開にした、アニメファンのコア層に響く作品だったが、その後の湯浅監督による映画作品は徐々に“多くの人に観てもらえるよう”にシフトして行っているように思える。
『きみと、波にのれたら』は湯浅監督自身が「自分の作品はもっと観られても良かったが、なかなか知られる機会がなかった」「だからみんなに観てもらえる糸口をつかむ作品にしたい」「今まで想定していなかった観客を意識して作っている」などと明言しており、はっきりともっと広く多くの人に観てもらいたいという意図が作品に込められている。
若い男女のラブストーリーとなり、片寄涼太や川栄李奈といった若手の旬のボイスキャストを起用したのも、女性もターゲットにしたためだろう。
カルト的な人気を誇る湯浅監督作品だが、『きみと、波にのれたら』は湯浅作品に触れるはじめの一歩としてもとても良い選択になるはずだ。湯浅作品のアバンギャルドな作風はやや抑えられ、吉田玲子による脚本は論理的かつわかりやすく構築されており、全ての“努力をしている人”に向けた優しいメッセージも大きな感動を呼ぶなど、湯浅監督の狙い通りの、掛け値なしに誰にでもオススメできる内容になっているのだから。上映期間は決して長くないだろうが、ぜひ劇場に足を運んでもらいたい。
そして、湯浅監督の最新作『犬王』の製作が決定している。能楽師・犬王の実話をもとにした古川日出男の小説『平家物語 犬王の巻』をミュージカルアニメ映画化するという触れ込みで、キャラクター原案を(過去にも湯浅監督がアニメ化している)マンガ『ピンポン』の松本大洋、脚本をドラマ『アンナチュラル』の野木亜紀子が担当するという、盤石の体制となっている。この『犬王』は2021年公開予定、さらなる湯浅監督の進化に期待したい。
文=ヒナタカ
インディーズ映画や4DX上映やマンガの実写映画化作品などを応援している雑食系映画ライター。“シネマズPLUS”や“All About”などで記事を執筆している他、“カゲヒナタの映画レビューブログ”も運営中。『君の名は。』や『ハウルの動く城』などの解説記事が検索上位にあることが数少ない自慢。
Twitter @HinatakaJeF
全国の人気駅から賃貸物件を探す
札幌駅 大阪駅 京都駅 渋谷駅 釧路駅 帯広駅 津田沼駅 神戸駅 姫路駅 静岡駅
全国の人気沿線から賃貸物件を探す
ゆりかもめ 京急大師線 仙石線 大阪環状線 東武野田線 阪急今津線 相模線 西武多摩川線 東海道本線 内房線