ヒラギノ游ゴの2兆個の趣味を1つずつ 第2回【スキマ音楽】

第2回目の趣味は、スキマ音楽
前回は筆者の趣味の中でもメインどころの1つであるスニーカーについて書いた。続いて今回もメインどころの趣味である「音楽」について。
ただ、この連載には一応「部屋にあるものを紹介する」っていう趣旨があるので、今回は筆者のCDラックの一角にフォーカスしていく。
例えばこんな感じだ。





5組の画像が並んだところで、もうだいたい今回の趣旨をわかってもらえたんじゃないだろうか。筆者のCDラックには”こういう”もので構成された一角がある。
音楽ライターとして仕事をするようになってから、新曲はレーベルやメディアを通してデータでもらえることが多くなったうえ、Spotifyが上陸してからは加速度的に新譜を購入する機会が減った。
わざわざ買うものはSpotifyにない古いものが中心になっていき、その中で「短冊CD」こと8cmCDを買い集めること自体が楽しくなってきたりした結果、やたらと一昔前のものが増えていった。
今回挙げるアーティストたちは、その後ヒットチャートに定着せず表舞台を去った者や、後世への影響を論じられることが少ない者など、いずれも充分に批評されてきていないように思う。けれど、彼らはいつかのヒットチャートに確かに存在していた。
Mr.Childrenにとってのback numberやASIAN KUNG-FU GENERATIONにとってのKANA-BOON、BUMP OF CHICKENにとっての米津玄師のようにわかりやすいフォロワーはいなくとも、間違いなく彼らの存在があってこそ今の日本の音楽がある。
上記のような、後の音楽シーンで充分に顧みられたとは言いにくかったり、ヒットチャートに定着せずに活動を終えた作り手による音楽を暫定的にスキマ音楽と称している。
世に知られていない過去の”踊れる”音楽を掘り起こして再評価する行為、また掘り起こされた音楽自体を「レアグルーヴ」と呼ぶ流れがあるが、それとある意味似ていてある意味真逆の作法だ。レアどころか世に知れわたっていたベタな音楽を掘り起こして再評価する。
今回は90〜00年代初頭のヒットチャートで活躍したアーティストを中心として、いくつかライトに振り返っていく。語りたいことは山ほどあるのだけれど、網羅的な批評はまた別の機会に。
三木道三『Lifetime Respect』

先に挙げた5つの例に勝るとも劣らないスキマ音楽の代表格が「一生一緒にいてくれや」でおなじみ、三木道三『Lifetime Respect』だろう。
ちなみに今はDOZAN11(ドーザンイレブン)という名前で活動しているらしい。なんで?
この曲について語るべきことは、なんと言ってもジャンルについてだ。
この曲はレゲエだ。そして、それをほとんどの人が認知せずに聴いていたであろうことが、考察する上で非常におもしろい。
『Lifetime Respect』は日本のレゲエ楽曲として初のオリコン1位を記録したとても意義深いエポックではあるものの、このヒットはFIRE BALLなどをはじめとするいわゆるジャパレゲ勢がヒットチャートに殴り込む狼煙にはならなかった。この曲に惹かれた人々が「こういうのレゲエっていうのか!」と蒙を啓かれて、他の国産レゲエに流入していく導線をもっと整備できていたら、日本のレゲエシーンが日本語ラップ並の規模を持っていたのかもしれない。そういう並行世界を想像するとわくわくする。
ちなみにレゲエの要素を持った邦楽ヒットソングは他にもあって、有名どころで言えば織田裕二の歌う『踊る大捜査線』シリーズ不動のEDテーマ『Love Somebody』や、小室哲哉プロデュース・ダウンタウン浜田雅功が歌う『WOW WAR TONIGHT 〜時には起こせよムーヴメント』(厳密には「ジャングル」というレゲエを祖とするジャンル)などがある。
175R「ハッピーライフ」

『Lifetime Respect』と違い、ジャンルごと脚光を浴びることに成功したのがこの175Rじゃないだろうか。
今の未成年は「175R」の読み方もわからないだろう(いい機会だから自分で調べてみてほしい。たぶん調べたうえで「なんで?」ってなると思う)。
かつて青春パンクというムーブメントがあった。175RをはじめとしてFLOW、ロードオブメジャー、ガガガSP、CHARCOAL FILTER、MONGOL800のほか、また毛色は違うがGOING STEADYや銀杏BOYZもその一角に数えられることがある。
メロコア(メロディックハードコア)が基盤にありつつ、コードやフレージングは爽やかで青臭く、夢や希望を等身大でポジティブな言葉を使い歌う。そんな感じのジャンルだ。
よりハードなサウンド・スタンスを志向し、テレビ露出を頑なに拒否し硬派を貫くメロコア勢とは違い、175Rは青春パンク勢の中でも積極的にメディア露出をし、ポップミュージックシーンに打って出ていた。
後世への影響について言えば、今活躍しているWANIMAなどを見ていると、時を経てメロコアと青春パンクが合流したような印象があって、時代の流れが確かに感じられてぐっとくる。
HALCALI『ハルカリノオカワリ』

ラッパー2人組、HALCALI(ハルカリ)。
わざわざ女性のラッパーを「フィメールラッパー」と称する必要があるか、というのがようやく言われはじめている昨今だけれど、彼女らが現役だったころはフィメールラッパーという言葉自体が今以上に国内で定着していなかったように思う。
PUFFYを彷彿とさせるようなゆるいスタンスと抑揚を抑えた発声で確かな存在感を持っていた。毎回ほぼ一言も発さなかったけど、KinKi Kids司会の『堂本兄弟』のレギュラーメンバーでもあったのが記憶にある人もいるだろう。
彼女らのことはよく覚えていなくても、森ガールブームが落ち着き始めた頃に流れていたE hyphen world galleryのCM曲『今日の私はキゲンがいい』を覚えている人は少なくないだろう。森ガールって自分で書いてて懐かしくて泣きそうになった。
代えのきかない味を持ったグループだったけれど、2013年ごろから活動が止まり、HALCAが栄養士の資格を得てケータリングプランナーとして、YUCALIが音楽活動のほか写真家、ダンス講師、タレントとしてセカンドキャリアを始めた(2016年の小沢健二のツアーにコーラスとして参加している)。
Hysteric Blue『グロウアップ』

かつて『学校の怪談』という子供向けの実写ホラー映画が毎年夏休みに上映されていて、そのアニメ版のオープニング曲だったのがこれだ。伸びやかな声で歌われる「教えてよ まだ知らない話」というサビが記憶にないだろうか。他にも代表曲として『春~spring~』がある(「こういう夢ならもう一度逢ーいたーいー」)。
90年代後半は、YUKIがヴォーカルを務めたJUDY AND MARYをはじめとして、Hysteric Blueのほかthe brilliant green、ルーマニアモンテビデオなど、女性ヴォーカルのバンドの活躍が印象深い。
しかし、Hysteric Blueは2003年に活動休止を発表。ほどなくして元メンバーが起こした醜悪な事件が判明し収監され、バンドは解散となった(事件の内容はかなりショッキングなものなので、詳しく調べるなら充分に気をつけてほしい)。
ちなみにこの『学校の怪談』のエンディング曲に使われていたカスケードの『SexySexy』という曲は、子供番組に似つかわしくないセクシャルな内容で、「不埒な夜に心も濡れた」という歌詞を聴いて当時小学生の筆者は「心”も”っていうことは体は濡れていること前提……雨かな……?」と思っていた。
この頃はカスケードのほかにも、ヴィジュアル系バンドが夕方の子供向けアニメ主題歌を担当することが非常に多かった。PENICILLIN(『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん』『金田一少年の事件簿』)、BAISER(『ゴクドーくん漫遊記』)、FAIRY FORE(『FF:U 〜ファイナルファンタジー:アンリミテッド〜』)など。
FIELD OF VIEW

最後にさらに少し時代を遡って、二昔くらい前のものを。後の世で批評的に充分顧みられている印象の薄いアーティストとして、いわゆるビーイング系は欠かせないだろう。
ビーイングはB’z、大黒摩季、倉木麻衣、GARNET CROW、小松未歩などを要する音楽レーベル。写真のFIELD OF VIEW(現:the FIELD OF VIEW)のほか、WANDS、DEEN、ZYYG、BAADといった、90年代のヒットチャートを席巻したビーイング傘下のバンドが総称で俗にビーイング系と呼ばれる。
ときはバブル崩壊直後、でもCDセールスは元気だった頃。小室ファミリー全盛期のほんの少し前の時期にあたる。
傾向としては、長戸大幸プロデュース、織田哲郎・栗林誠一郎らの作曲による大衆に刺さる縦ノリのバンドサウンド、というくらいで、音楽ジャンルとして語るのは難しいのだけれど、全体に言えることとしては、とにかくべらぼうに耳に残るフックがある。当時ビーイングはCMやテレビ番組とのタイアップをひっきりなしに仕掛けており、耳にする機会の絶対数が多かったという側面はもちろんあるのだが、
「と・つ・ぜ・ん・のー」
「DAN DAN 心惹かーれーてーく」
「もーおっとつーよくー君を抱きしめたーなーらー」
「ぜったいにーだーれもー」
「きみがすきだーとー叫びーたい」
字面を読んで、メロディを伴って歌詞が再生されたんじゃないだろうか?
曲が記憶にありさえすればいつだって、歌詞と曲が同時に思い出せる圧倒的なポップネス。もっともっと畏怖を持って語られるべき存在だと思う。
これらのバンドに関しては「後の世で顧みられていない」というのは厳密じゃない気もしていて、後の世のアーティストたちがその影響下にいることを自覚すらできていないほど根深くシーンにエッセンスが浸透していると言ったほうがより正確かもしれない。
サウンドにしろ言葉選びにしろ、洗練よりはいなたくても印象に残るものを優先する姿勢。さらに、世界的にはバンド形態が廃れつつある今なお脈々と国内シーンに根付く縦ノリのギターロックサウンドなどがそうだ。
ゼロゼロ年代の破片をあつめて

今回紹介したスキマ音楽は、90年代~00年代初頭に一定のヒットを記録したものを中心に、あくまでごくごく一部に絞ったものだ。Twitterでアーティスト名をリアルタイム検索すれば、最後にツイートされた日は何ヶ月も前かもしれない。そして高確率で、そのツイートをしているのはヒラギノ游ゴだ。でも、これらの音楽の中にもまだまだ語られるべきものがたくさんある。
直近で筆者は、一昔前までいかない”0.5昔前”を集めはじめている。
girl next door、Hilcrhyme、HIGH and MIGHTY COLOR、mihimaru GT、D-51、Aqua Timez、School Food Punishment、ニルギリスなど、よりゼロゼロ年代の終盤にフォーカスしている、といえばわかりやすいだろうか。この辺についてもまた語る機会が得られたらうれしい。
今回紹介したような音楽は、しばしば音楽史や音楽批評においてなかったことにされたり、早足で通り過ぎていかれがちなように思う。けれど、筆者は「批評性のないものなんかない」という立場をとっている。なんにだって語る価値はある。何1つ取りこぼしたくない。風化させてしまうにはあまりにももったいないので、まずは思い出話から、ここに挙げた音楽たちの記憶を言葉にして交わしあってほしい。
イラスト=町田メロメ
Twitter:@qumolilon
HP:https://qumolilon.jimdo.com/
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