新宿ゴールデン街の土地を買った人に話を聞いたらめちゃくちゃおもしろかった
新宿ゴールデン街の土地を買った人に話を聞いてきた
こんにちは。ヨッピーです。
突然ですが、みなさんは「新宿ゴールデン街」をご存じでしょうか?

あまり東京以外の方々には馴染みのない土地でしょうし、そもそも都内に住んでいる人でも「行ったことがない」という人は多いかと思います。

ゴールデン街は、新宿歌舞伎町のすぐそばという好立地のわりに古い町並みをいまだに残しており、3坪程度の、カウンターに数人陣取ればすぐ満席になるような小規模な飲み屋さんがひしめきあって乱立している地域でして、この昭和の雰囲気を色濃く残している街を愛する文化人も多いのです。

近年では外国人向けの観光ガイドブックに「穴場スポット」として掲載されることも多く、外国人観光客の数も急増中。もちろん日本人にも愛されており、この町に足繁く通う常連の人は周囲を探せば一人くらいはいるはず。

そんなゴールデン街ですが、僕の友人(大学生)が「ゴールデン街の土地を買った」と訳の分からないことを言い出したのでご紹介します! こちらがリトル田中です!

(ヨッピー)「おい。学生の分際で土地を買うなこの野郎! 何が『買っちゃいました』だ! 土地はセガサターンじゃねえんだぞ!」

(リトル田中)「まぁまぁ。でもそのおかげで今回おもしろいことがいろいろあったんですよ、ほんと」

(ヨッピー)「つまんなかったら殺す!」

ではさっそく取材!といきたいところですが、まずはゴールデン街がある一帯の南側を管理する三光商店街の管理事務所に撮影の申し込みをします。
なんでも、ゴールデン街を通る路地は全て私道であり私有地になるので、撮影する場合は法人個人を問わず、必ず申し込みをしなければいけないそうだ。



(ヨッピー)「10年だともうベテランの領域ですね!」

(お姉さん)「いやいや! とんでもない! この街で10年って言えば、まだまだヒヨッコですよ! 40年とか50年とかの大ベテランがこの街には居ますから……!」

(ヨッピー)「時間の進み方がちょっとおかしくないですか、それ」

ゴールデン街の土地について


(リトル田中)「そもそも、ゴールデン街って土地の権利が入り組みすぎてて訳が分からないんですよ。例えばこのゴールデン街の中を通ってる道路の権利者だけで106人いるんですね。そこにお店の権利を持ってる人も足すと、もう膨大な人数の権利者がこの狭い土地にひしめきあってるんで、どの土地が誰のものかパッと見だと全然分からないんですよ」

(ヨッピー)「なんでわかんないの? 不動産の登記簿見れば良いだけのことじゃん。アホなの? 大丈夫? ちゃんと義務教育終わってる? お酒の飲みすぎで脳みそが焼酎漬けみたいになった?」

(リトル田中)「言い過ぎですよ。それがね、登記簿もちゃんと更新されてなくて、持ち主として登記されてる人のところに行ったら『俺はそんな土地知らねえぞ!』ってなったりするんですよ。地主の人が亡くなってから相続登記がちゃんとされてなくて今の持ち主が分からなかったり。なので、本当の土地の権利を誰が持ってるのかを、借りてる人すら知らない、みたいなややこしい土地なんです。だから、土地を買おうと思ってもそもそも誰と交渉すれば良いのかすら分かんないんですよ」

(ヨッピー)「なるほど。それはおもしろい」

(リトル田中)「そんな中で、今回は20年前に夜逃げしてそのまま放置されてる空き店舗の本当の権利者を見つけ出すことに成功して、そのまま交渉して土地を譲ってもらった、って感じです」


(お姉さん)「いやほんと、あれは奇跡だったよね……!」

(ヨッピー)「奇跡て! そんなに?」

(お姉さん)「ええ。ゴールデン街の物件ってすごく人気があるので、空きが出てもすぐ埋まるのが普通なので、入居すること自体が難しいのに土地の権利まで取得できたっていうのはすごいことなんですよ」
ちなみに、その、リトル田中が買った土地については権利者が誰なのかが誰にも分からないまま、20年近くずっと放置されていて、「人が死んだ」とか「幽霊が出る」「悪霊がいる」といった都市伝説の対象にすらなっていたいわくつきの土地らしい。
そういう状況下の土地の取得に成功したことは、ここで10年働いてるお姉さんですら「奇跡」と言わしめてしまうような事例なんだそうだ。めったにあることではないらしい。


(ヨッピー)「くっせ! めちゃちゃ変な匂いがする!」

(リトル田中)「ちゃんときれいに改装してお店にしますんで!」

(ヨッピー)「これ、土地3坪しかないんだよね? いくらだったの?」

(リトル田中)「○○○○万円くらいです」

(ヨッピー)「マジで世の中って不公平なんだな……」

すごいなゴールデン街……!
意味不明すぎる……!


(ヨッピー)「しかし、20年間ずっと動かなかった土地を良く買えたね」

(リトル田中)「それがですね、探してみたら都内のおばあちゃんが権利を持ってるところまでは確認が取れたんですけど、おばあちゃんはもう施設に入っちゃってて、今は甥っ子さんが管理してるんですね。で、その甥っ子さんも最初は渋ってたんですが、僕のおじいちゃんの名前を出したら反応したんですよ」
※リトル田中は直木賞、谷崎潤一郎賞などを受賞した小説家・田中小実昌(こみまさ)の孫でもある

(リトル田中)「その甥っ子さんが僕のおじいちゃんのファンだったらしくて、それで意気投合してトントン拍子に話が進みました」

(ヨッピー)「なにその運命の出会い的なやつ。でもさ、その土地を買う時のお金はどうしたのよ?」

(リトル田中)「それもおじいちゃんの遺産です」

(ヨッピー)「世の中舐めてるなこの野郎」

(リトル田中)「でも、僕のおじいちゃんもゴールデン街が好きで頻繁に飲み歩いてたんですよ。そういう記録も残ってますし。その大好きなゴールデン街で、自分の孫が自分の遺産で店を開くって、天国のおじいちゃんも喜ぶと思いません?」

(ヨッピー)「まぁそうかも知れないけど……」

(リトル田中)「そもそも、僕がゴールデン街が好きになってハマったのは、おじいちゃんの足跡を追いかける意味もあったんですよ。おじいちゃんのことを知っている人がここには多くて」

じいちゃんの代から思いがけず孫の代にまで受け継がれることになったゴールデン街のお店。
ひょっとしたらリトル田中が買ったお店にもおじいちゃんが来ていたかも知れない。
ちなみに前述の通り権利者が入り組みすぎている関係から、ゴールデン街では再開発の話が上がってはそのうち立ち消えになるそうだ。こういう独特の、特殊な成り立ちが昭和の風景を今に残す要因になっていることは間違いない。
名物ママに話を聞こう

そんなわけでゴールデン街の土地事情についてひと通り聞いたところで、今度はゴールデン街の老舗「しの」の名物ママに話を聞きにやって参りました!
この日は金曜日ということもあってか、8席くらいしかなさそうに見える店内に倍くらいの人数が居る。立って飲んでる人も多い。

(ヨッピー)「ちなみにママはこの道何年ですか?」

(ママ)「43年だね」

(ヨッピー)「ベテランすぎる」

(ママ)「もともとね、このへんには闇市があったんだよ。で、そのあとに当時青線って呼ばれてた売春宿がいっぱいできててね。当時は1階が飲み屋で、2階が売春宿っていう形態が多かったんだけど、風営法が施行されて徐々にそういうのがなくなっていったんだよね。今では1階も2階も両方飲み屋が入ってるところが多いね」

(ヨッピー)「なるほど。ママはなんでここで働きだしたんですか?」

(ママ)「このへんでしょっちゅう飲んでたんだよ。んで、そのままズルズル働くことになったんだよね。飲んだくれの成れの果てだよ。広告代理店にも努めたし、エレベーターガールもしたし、映画会社にも努めたけどどれもすぐ辞めちゃって。2年もたないんだよね。その私がここはもう43年になるわけでさ。天職だよね」


(ヨッピー)「やっぱりお酒が好きだから合ったんですかね?」

(ママ)「まぁそれもあるけど、結局ね、飽きっぽいんだよ私は。でもさ、ここだと毎日毎日違う人達と顔突き合わせて飲むわけじゃない。そりゃあ飽きないし楽しいよね」

(ヨッピー)「なるほど。まぁ普通の居酒屋だとこんな感じにお客さん同士で話したりお店の人と飲んだりすることないですもんね」

(ママ)「そうそう。客も店の人間もフラットな感じでね。それがゴールデン街の良いところだよ」


(ヨッピー)「なんか、ゴールデン街ってちょっと敷居が高いじゃないですか。初心者の人が気をつける点とかってあるんですかね」

(ママ)「KYにはならないことだね!」
ママが言うには、ゴールデン街には一見さんお断りの店も多かったそうだが、今では大抵のお店がご新規の人も迎え入れてくれるらしい。ただしお店それぞれに大事にしている空気感があるので、それを壊さないように、という配慮はお客の方にも求められるそうだ。

結局一時間くらいお邪魔していたのですが、ママが笑いながら楽しそうにお客さんに接していて、この笑顔をツマミにお酒を飲むからおいしいんだろうな、と思った。お酒が食べ物がどうの、というより「そこに居る人」を求めてゴールデン街に通う人が多いんだろうと思う。そういう意味ではゴールデン街は、「寂しがり屋の街」と言えるのかも知れない。

文・写真=ヨッピー+ノオト
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