東京都の太陽光パネル設置義務は賃貸も対象! 実現したら賃貸物件はどう変わる?

東京都の太陽光パネル設置義務は賃貸も対象! 実現したら賃貸物件はどう変わる?

公開日:2022年9月5日

「東京都の太陽光パネル設置義務化」について調査

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今回チョイスしたのは、東京都の条例として現在審議されている「東京都内の新築建物を対象にした、太陽光発電パネル設置の義務化」。この条例が施行された場合の、賃貸住宅市場への影響や入居者のメリット・デメリットについて調べた。

東京都の新築賃貸物件には太陽光パネル設置を義務化!?

太陽光パネル①

2022年5月24日、東京都は賃貸物件を含む都内の新築建物に対して太陽光発電パネル設置を義務化する方針を発表した。5月25日~6月24日の間、同内容を含む環境確保条例の改正案に対し、パブリックコメントを募集。寄せられた都民や事業者の意見を参考に、さらなる審議を重ねている。

太陽光発電パネル設置の義務化は、都が目標とする「2030年までの温室効果ガス排出量の半減(2000年比)」を達成するための施策。有識者などで構成される都環境審議会が提案した。

義務を課せられるのは新築の建物のみで、延べ床面積が2000㎡以上の建物なら「建築主(工事請負契約の発注者)」。それ以下の建物は「住宅メーカー」で、年間の供給建物が計2万㎡以上の大手が対象となる。都によると、後者は約50社を見込んでおり、年間に販売される新築物件の約半数となる2万3000戸ほどが対象と想定されている。

ただ、住宅メーカーがパネル設置を推進しても建築主が拒否するケースも想定されるため、義務としてメーカー側に課すのは年間に手がける総戸数の85%以上を目安とするという。なお、取り組みが不十分な場合、指導や勧告、事業者名の公表などペナルティも検討されている。

もし、この都条例が成立すれば2022年秋頃以降に太陽光パネル設置が本格化する見通し。施行に際して補助金や税制優遇が設けられるかもしれないが、いずれにせよ建築時のコストはかさむので、賃貸住宅市場に影響を与える可能性がある。

太陽光発電パネルを設置するメリット・デメリット

太陽光パネル②

太陽光発電パネル設置の義務化ついて調べる前に、まずはそのメリット・デメリットについておさらいしておく。

太陽光発電パネル設置のメリットは主に3つ。

  1. 「自家発電による光熱費の削減」…オール電化の物件なら、よりその効果を得られる。
  2. 「電気の売却益」…所定の手続きをすれば余剰電力を電力会社に売れる。
  3. 「非常電源としての活用」…災害などで停電した際に電気を使えるのは心強いだろう。

デメリットも3つ。

  1. 「導入費用」…太陽光パネルの設置は少なくない費用が必要となる。
  2. 「発電量が外部環境によって左右されること」…天候や住環境によっては光があまり当たらず、十分な発電ができない。
  3. 「住宅トラブルのリスク」…設置方角が悪い場合、パネルの反射光によってご近所迷惑となるケースもある。

上記以外にもメリットとデメリットはあるが、少なからず一長一短があることを覚えておこう。

太陽光パネルの設置が義務されると、賃貸市場はどうなる?

太陽光パネル③さくら事務所創業者の長嶋修さん
▲個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」の創業者である長嶋修さん

さて太陽光パネル設置の義務化が施行されると、不動産業界や賃貸住宅市場にどのような影響を与えるのだろうか? 

不動産コンサルティング会社「さくら事務所」の創業者であり、「第三者性を堅持した不動産コンサルタント」として活躍する長嶋修さんに話を聞いた。

まず不動産業界全体で考えると、ほとんど影響はないと思います。都内の大手メーカーが施工する建物だけとなると全体との数%程度。対象となる範囲が狭いので、業界に大きな変化は生まれないでしょう。

賃貸住宅市場でも同様だ。対象業者は少なく、太陽光パネル設置に関するコスト増で“消費の冷え込み”があったとしてもごくわずか。大手メーカーに建築を依頼したい建築主にとって経済的な負荷がかかる程度で、市場全体を左右するほどの影響はないという

都条例が成立する可能性は50%程度

太陽光パネル④

そのため、太陽光発電パネル設置の設置に疑問的な声も少なくない。パネルの寿命は20〜30年程度で、現状では環境負荷を劇的に軽減するほどの性能もない。さらに長嶋さんは「対象となる人や業者は少ないですが、基本的に義務化による利点はあまりない」と話す。

義務化されたら日当たりがあまり良くない人も設置せざるを得ず、設置費用も6〜10戸の一般的な住宅で150〜200万円ほどかかる。補助金や税制優遇が拡充されれば、元々太陽光パネルを設置したかった人はうれしいでしょうが、それ以外の人にはデメリットの方が多いと思います。

太陽光発電パネルは節電や災害対策には有効だが、設置を義務化されると話は別。不動産業界的には不利な条例であり、義務化が成立するかは「業界全体の反応を見る限り、五分五分だ」と長嶋さんは予測する。

ただし、これはあくまで短期的な見通し。世界に追従して日本も脱炭素社会に向けて住宅・建築物の省エネ対策を促進しており、社会的に「住宅の省エネ化」が追求されている。太陽光パネルの設置も同じ文脈の中にあり、今回の条例は成立しなかったとしても、太陽光パネル付きの賃貸物件は今後増えていくという

太陽光パネルの設置が義務されたら、賃貸ユーザーは損をする?

太陽光パネル⑤

賃貸ユーザーにとって気になるのは、太陽光パネル付き物件の経済的負担。都の試算だと「太陽光パネルの設置費用は自家消費や売電によって10年程度で元がとれる」というが、それまでのマイナス額を入居者も負担する可能性はあるのだろうか?

長嶋さんに尋ねると「太陽光パネル設置が義務化されたとした場合でも、太陽光パネルの設置費用を家賃に上乗せすることはない」という。

日本では住宅の環境性能を評価する制度が浸透しておらず、その価値を物件価格に加味していません。そうなると当然、太陽光発電パネルを設置したからといって家賃を上げるのは難しいでしょう。

経済的な負担だけでなく、太陽光発電パネルの設置は入居者へのデメリットはない。それどころか、節電効果など太陽光発電パネルによる恩恵を入居者は受けられる

もちろん、太陽光発電パネルの電気をどのように差配するかは大家さん次第。蓄電したり、共用部の電力に回したりする可能性もあるが、その場合でも管理費が安くなったり災害発生時に皆で使用できたりとメリットを得られるかもしれない

発電した電力の使用に特別な手続きをする必要もないし、太陽光パネルの設置は入居者にとっては良いこと尽くめとなりそうだ。

今後は環境性能がお部屋探しの基準と一つとなる

太陽光パネル⑥

今後は太陽光パネル付き賃貸物件が住宅の選択肢として一般化していくと考えられているが、長嶋さんは「今すぐ住宅の省エネ性能をお部屋探しの基準の一つにすべき」と助言する。

毎月お金がかかるのは家賃だけではありません。水道光熱費は生活する上で必ずかかりますが、省エネ性能が高いと公共料金を安く抑えられる。将来的なお部屋探しの条件でなく、家賃と同様にこだわるべきお部屋探しの条件なのです。

しかし、現在は太陽光発電パネルも普及していないし、気密性や断熱性を見比べることはできない。どのように省エネ性能が高い物件を探せば良いのか……その答えは「電気をあまり使わなくて済み、水道やガスの使用料金が安い部屋」だと言う長嶋さん。具体的には、下記がチェックポイントは下記の通りだ。

省エネ性能の高い物件を探すポイント

マンションの中部屋
外気に触れている面積が少ないので室温が上下にしにくく、エアコンを使う機会が減る。

鉄筋コンクリート造の物件
機密性が高いので、木造より外気の影響を受けにくい。朝夜の寒暖差も少なく、エアコンの電気代を節約しやすい。

都市ガスの物件
都市ガスの方がプロパンガスより料金がリーズナブルな傾向にある

水道料金が安い自治体
実は水道料金は自治体によって異なる。事前にリサーチして安いエリアを選べば、毎月の支払いを抑えられる。

水道光熱費がいくらかかりそうか事前に試算し、家賃と合わせて生活全体のランニングコストを考慮するのが、現代の賢いお部屋探し。太陽光パネルの有無でなく、いかに自分たちが省エネの恩恵を受けられるかで部屋を選ぶと良いだろう。

太陽光発電パネル設置など住宅の省エネ化は賃貸ユーザーにうれしいトレンド

太陽光パネル

長期的に増えていく太陽光発電パネル付き物件。いち早く普及することを期待したいが、長嶋さんは「2025年から急速に普及が進むかもしれない」と推測する。

国土交通省が主導で、2025年には「建築物の省エネ基準への適合」が義務化されます。これは全国の新築の建物すべてが対象。不動産業界全体に大きな影響を与え、住宅の省エネ性能を高める動きが起きるはず。太陽光パネル付き物件の普及も、このタイミングから加速していくと思います。

住宅の省エネ化は社会的な課題でなく、私たちの生活を良くしてくれるトレンド。太陽光パネル設置の義務化が成立することで、より省エネ化が進むことを期待したい。

さくら事務所

個人向けの総合不動産コンサルティングサービス企業。「人と不動産のより幸せな関係を追求し、豊かで美しい社会を次世代に手渡すこと」を目的とし、不動産コンサルタントの長嶋修が設立。中立な立場から、利害にとらわれない住宅診断やマンション管理組合向けコンサルティングなど、さまざまな不動産サービスを提供している。

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長嶋 修公式YouTubeアカウント

取材・文=綱島剛(DOCUMENT)

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