賃貸契約の「IT重説」の流れをプロが解説!実はメリットいっぱいな仕組みとは
インターネット時代の新常識になる?
「IT重説」という言葉を聞いたことがあるだろうか? 賃貸契約をよりスピーディに、手軽にしてくれる、インターネット時代の新しい契約手続きのカタチだ。この記事では数多くの賃貸契約の現場に立ち会ってきた“不動産契約のプロ”である宅建士監修のもと、「IT重説」とは何か? その手順や借りる人にとってのメリット、注意したい点などを解説していこう。
今回監修してくれたのは?
不動産業界歴14年の宅建士で、不動産仲介「ラシックエステート」の相馬さん。
お客さまからよく質問されることなど、実際に経験したやりとりをベースに解説をいただいた!
自宅にいながら賃貸契約時の説明が聞ける
「IT重説」のITはご存じ、Information Technology、情報技術のこと。重説は賃貸契約の際に不可欠な「重要事項説明」の略だ。つまり、インターネットを利用した重要事項説明という意味になる。
重要事項説明とは、賃料や解約、違約金、部屋を使用する上での条件など「特に大切なこと」を不動産会社から入居予定者に説明する機会であり、賃貸契約を結ぶ前に必ず実施しなければならないと法律で定められている。
また最近まで、宅地建物取引士の資格をもった人が必ず同席し、対面で説明しなければならないことになっていた。重要事項説明の詳細な解説については下記記事を参照して欲しい。
宅地建物取引士の対面による重要事項説明は長らく賃貸契約における原則となってきたが、2017年10月1日から対面でなく、オンラインでも実施可能となったのだ。これは国土交通省による全国的な施策で、IT活用を進めるための規制緩和と言えるもの。2013年から制度の検討を行い、2015年から実証実験を開始。2017年、正式に認可され、不動産会社各社による本格的な運用が始まった。
IT重説に必要な条件は?
もちろん、オンラインだからといって何でもアリ、というわけではなく、IT重説には以下のような決まり事が設けられている。
・事前に宅地建物取引士が記名捺印した重要事項説明書や添付書類を、入居予定者に送付していること。
・図面等の書類や説明を十分に認識でき、双方向でコミュニケーションがとれるネットワーク環境が、宅地建物取引士と入居予定者ともに整っていること。また、その状態を宅地建物取引士が事前に確認していること。
・宅地建物取引士は画面上で「宅地建物取引士証」を提示し、入居予定者がそれを視認できたことを確認すること。
要するに、説明は重要事項説明書が双方の手元にある状態で始めなければならず、かつ、その内容をお互いに確認しあえるネットワーク環境が整っていること、が条件となる。
また、説明を宅地建物士の資格をもった人が行わなければならない点、重要事項説明書および賃貸借契約書のやりとりは紙の書類と記名捺印でなくてはならず、PDFなど電子書類と電子印鑑による電子契約は現状認められない点(2020年10月現在、社会実証実験を経て検討中)については、従来の対面による重要事項説明と同様だ。
使用するPC機器やネットワーク環境の具体的な指定はなく、上記の条件を満たしていればスマホでもOK(ただし図面や説明書きを正しく判別できる画面サイズであることが条件)。一般的にはSkypeやzoomといったインターネット上のサービスを利用して実施される(不動産会社の指示に従う)。
なお、IT重説が認められたのは「賃貸契約」のみであり、住居の「売買契約」においては依然として宅地建物取引士が対面で重要事項説明を行わなければならない。
※売買のIT重説についても、社会実験は開始されています
■IT重説のポイント
・オンライン会議できる環境があればPCはもちろん、スマホでも利用できる。
・重要事項説明書と賃貸借契約書等の書類および記名捺印については、今まで通り、紙でやり取りする。
・重要事項の説明は宅地建物取引士の資格をもった人が行わなければならない。
IT重説の決まり事について、より詳しく知りたい方は下記のリンクを参照いただきたい。
・国土交通省「賃貸取引に係るITを活用した重要事項説明 実施マニュアル概要」
IT重説ならではのメリット
さて、重要事項説明がオンラインで行えると、入居予定者にとってどのようなメリットがあるだろうか?
不動産会社に出向く手間と時間を省ける
まず、現地に出向く手間と時間がかからない。これが一番のメリットだ。従来の方法では、部屋探しから入居までに、内見と重要事項説明および賃貸借契約書の締結で、少なくとも2回は現地に行く必要があった(同日に行うことも可能)。物件や不動産会社が今暮らしている住まいの近くなら問題ないが、遠く離れた地域への転居の場合は、入居予定者にとって負担となっていたのが現実だ。
それがIT重説の場合は、内見の1回+鍵渡しだけで済む。最近は360度パノラマ写真による賃貸物件紹介が充実しているから、「内見もしないでOK」と割り切れるなら、一度も現地や不動産会社に足を運ぶことなく、契約締結できることになる。これは実家から別の地域に出てくる新入学生や新社会人、地方に赴任する人、海外赴任から戻ってくる人たちにとって、決して小さくないメリットだろう。現地を往復する時間的制約だけでなく、交通費の節約にもつながる。
説明時のやり取りを記録に残しやすい
不動産会社とのやり取りを録画などの手法できちんと記録に残せることもメリットのひとつ。重要事項は記載内容が専門的かつ大量であるため、読み慣れている人でないと文面だけで内容を正確に理解することは難しい。口頭での説明や質疑応答を経て理解するのが、ごく一般的だ。
そうした細かなやり取りを記録に残しておくことで、入居してから何らかのトラブルがあった際、問題解決に役立つことは想像に難くないだろう。対面式の場合も承諾を得た上で録音することはできたが、実際には「心象が悪くなりそう」などの理由で遠慮していた人が多かったはず。画面越しであれば伝えやすい、という人もいるのでは?
感染症のリスクを下げる!
また新型コロナウイルス感染症が心配されている昨今の状況下では、実際に対面しないことで感染拡大のリスクを抑えられる……というメリットもある。IT重説の制度自体は2017年に本格始動したものだが、ここにきて利用価値がさらに高まっている状況だ。
一方でデメリットといえば、「オンライン会議に必要な機器、ネットワーク環境を用意しなければならないこと」くらいだ。この点についてはWi-Fi環境やスマホが普及した現在では大きなデメリットにならないかもしれない。
ただし、重要事項説明にはどうしてもある程度の時間がかかるため、通信料金には注意する必要がある。スマホの場合はデータ量無制限のプランを利用している人でない限り、Wi-Fi環境下で通信した方が無難だろう。
IT重説の流れ
最後に、IT重説の一般的な流れを説明しよう。
①書類一式が入居予定者に送られてくる
書類の内容は重要事項説明書、賃貸借契約書など。各書類に宅地建物取引士による記名捺印されていることを確認しておこう。気になる内容を事前にチェックしておくと、重説時のやり取りがスムーズ。
②不動産会社と接続テストを行う
不動産会社と入居予定者、双方の通信環境に問題がないか、事前に確認。
③IT重説を行う
宅地建物取引士が証明書を提示し、IT重説を開始。入居予定者側に本人確認の証明書提示が求められることもある。所要時間は一般的に30〜60分程度だ。
④契約者から不動産会社に書類を返送する
契約内容に問題がなければ、各書類に記名捺印して書類を返送。
⑤入居
不動産会社から入居者に鍵の引き渡しが行われ、入居。
IT重説の利用状況は?
IT重説の利用件数は、平成29年10月〜平成31年1月までの調査段階で2万5千件強。こちらも2年以上前の数字なので、現在はより利用件数が伸びているはず。この時点で利用した多くの人が「説明がわかりやすかった」「理解状況を伝えやすかった」「質問しやすかった」と答えており、導入後の評判は上々というところだ。
・国土交通省「IT重説実施直後のアンケート結果」
ただ、不動産賃貸契約全体におけるIT重説の利用率はまだ一部であり、重説をオンラインで行うか、従来どおり対面で行うかの判断も不動産会社に委ねられている。入居予定者がIT重説を希望したとしても、必ずしも希望に応じてくれるとは限らない。だが、近い将来には書類のやり取り、書類への記名捺印まで電子化されることが予想されるなど、IT化の流れはますます加速している。IT重説が当たり前になる日もそう遠くないだろう。
写真=AdobeStock
監修=ラシックエステート
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