ヒラギノ游ゴの2兆個の趣味を1つずつ 第6回【ビーダマン】

第6回のテーマはビーダマン
爆球連発していたあの頃

この連載では過去にも90年代にひとたびチャートを賑わせて姿を消した音楽や、週刊少年ジャンプの打ち切り漫画など懐古的なテーマを扱ってきたが、今回もそんな感じだ。ビーダマンだ。
ビーダマンというのは、タカラ(現タカラトミー)がかつて販売していたおもちゃだ。2~3頭身の手の平サイズのプラスチック製の人形のお腹からビー玉を発射する。空き缶なんかを的にして多く当てたほうが勝ち、みたいな遊びかたをしていた。

コロコロコミックではこのビーダマンを題材にした、いわゆるホビー漫画『爆球連発!!スーパービーダマン』が長期に渡って連載されていたので、記憶にある人もいるだろう。
ホビー漫画の特性上しょうがないことなのだが、小学生が異様に重たい過去を背負っておもちゃの大会に臨んでいたり、おもちゃの扱いがうまい小学生が異様に畏怖と尊敬を集めていたり、おもちゃを巡って大の大人が世界を巻き込む陰謀を企んだりする。
その他すべてのスケールがでかく、劇中で発射されるビー玉は基本的に波紋やチャクラ的なエネルギー波を纏っており死人が出かねない威力を誇るほか、ビーダマンの腕を競う大会では試合会場として西部劇の世界の大型セットやマグマが沸き立つ遺跡などが用意されている。
当時我々ビーダー(ビーダマンを愛する少年少女のこと)が大真面目に熱く感情移入していたこういった大げさな描写の数々は、迷シーンとしてインターネットミーム化して、今もワールドワイドウェブに息づいている。
……といったところが基本情報なのだけれど、大丈夫だろうか、置いてかれてない? 世代の人にとってはもうたまらない話をしているんだけれど、世代じゃない人にとっては「なんだそれ」でしかないと思う。なんだそれと思いながら引き続き読んでもらえたらうれしい。
なお、ビーダマンと一口に言っても大きく分けて、
・スーパービーダマン
・バトルビーダマン
・クラッシュビーダマン
・メタルビーダマン
・クロスファイトビーダマン
の5世代があるのだが、この記事では初代スーパービーダマンシリーズ初期のビーダマンについて書く。
ファイティングフェニックス

『爆球連発!!スーパービーダマン』主人公・戸坂玉悟(とさかたまご)の愛機。すべてはここから始まった。
玉悟はこのフェニックスの発射口を両手の指で締めつけ球の威力を上げる「締め撃ち」、さらにはその両手を体育座りのような姿勢になり膝で挟み、足の力まで使って締めあげる「キャノンショット」という得意技を引っさげ数々の激戦をくぐり抜けてきた。

そして最終的に玉悟はその締めつけのあまりフェニックスをブチ折って大破させてしまう。今思えばトンデモ展開なのだけれど、当時我々ビーダーは大真面目に読んで熱くなっていた。というか、ビーダマンが壊れた玉悟はまだましなほうで、そのときの対戦相手である最凶のビーダー・伊集院圧政(いじゅういんあつまさ)に至っては自分の指のほうがブチ折れていた。このシーンはビーダマン関連の中でも有名なものの1つで、「伊集院 指 折れとる」で画像検索するとそのコマがヒットするはずだ。我々ビーダーは大真面目に「伊集院のビーダマンに賭ける執念、敵ながら天晴」と思っていた。
ワイルドワイバーン

続いてワイルドワイバーン。ヤバいよな、あのワイルドワイバーンだよ?(この興奮についてきてほしい)
タマゴの相棒、「西の連射王」の通り名で知られる連射の名手・ガンマの愛機。
ある意味で主人公機のフェニックスより愛されている。というのも、ガンマは一人称が「ワイ」のウソくさい大阪弁を話すところから「これがワイのワイルドワイバーンや!」というセリフがネタ化して広まったからだ。しかもこんなセリフは原作に存在せず、ファンたちのイメージが一人歩きした末の産物。

作中での活躍としては、ガンマの得意技である連射機能に特化しているほか、片手で撃てるよう専用グリップが付属していた。
スタッグスフィンクス

玉悟・ガンマのチームメイトにしてアラブの石油王の倅、サラ―の愛機。
『爆球連発!!スーパービーダマン』は何もかもスケールがでかいので、お金持ちキャラのサラ―も大企業の御曹司どころではなく石油王の倅だ。
これは非常に優れたおもちゃで、首のあたりにある目盛りを回すとストレート・右曲がり・左曲がり・バックスピンと球の弾道を変えられる変化球特化モデルだ。ただし実際の競技使用においては特にこの機能が活かされることはないし、変化球に注力したせいか弾の威力も弱い。


ちなみに、スーパービーダマンシリーズの中でも実は細かく世代が分かれており、ここまでの3体はすべて「OSシリーズ」だ。
そもそも当初ビーダマンはゲーム会社ハドソンの名作・ボンバーマンを象ったものとしてリリース。
その後引き続きボンバーマン型でありつつも外付けパーツでカスタムできるようになった「スーパーボンバーマンシリーズ」が登場。その後に登場したのがファイティングフェニックスに始まるオリジナルデザインモデルの「OSシリーズ」。ここから人気に火がついたように思う。

ライトイーグル&レフトレオン

最後に変わり種を。右手と左手に1体ずつ持つ二刀流スタイルのビーダマンだ。
系譜としてはOSシリーズの次世代、「PIシリーズ」の1機。PIシリーズはOSシリーズと比べてより複雑な機構が組み込めるようになった次世代モデル。
ちなみにこの2体を分解して、パーツを左右半々にして合体することで「ブラストグリフォン」という両手撃ち形態になる。持ち味が完全に失われるのだが、こういう仕掛けに我々ビーダーは胸を熱くしたものだった。


そしてこの機体の使い手が他ならぬ日本一かっこいい男こと「風のビリー」だ。
本名・風間美利(よしのり)。本名の音読みからビリ―を自称し、西部劇のガンマン風のファッションに身を包んだ信じられないくらい痛い小学生なのだが、とにかく一挙手一投足一言一句がクールで全ビーダーが憧れた。筆者も6年生になればビリーみたいにかっこよくなれると信じていた。
遊びは文化
今回紹介したものはビーダマンの歴史のうちほんの序章の一部分でしかない。その後、OS、PIとシリーズを重ねていく中で機構が複雑化し、子供向け玩具としてはやや組み立ての難易度が高くなったことから、ネジの代わりとなる「Rリベット」という独自開発のパーツによって組み立てが簡略化された「Rシリーズ」が登場した。残念ながらブームの収束に伴いRシリーズ以降は短命に終わるのだが、Rリベット自体はその後の世代にも引き継がれていく。反省と改良を繰り返し前進してきたスーパービーダマンシリーズは、1995年にスタートして2001年で終息を迎える。
そして冒頭でも触れたように、このスーパービーダマンシリーズ終了後もビーダマンはゲーム性自体を大きく改変し、新たなシリーズを続々と打ち出していった。
例えば次世代の「バトルビーダマン」は、スーパービーダマンシリーズのゲーム性における短所であった「ガチンコ感のなさ」を打破すべく開発された新シリーズだ。どういうことかというと、スーパービーダマンは的を撃ちあってその数を競う形で勝負がおこなわれるため、どうしても直接ぶつかりあうベイブレードなどに対してやや迫力の面で見劣りする。そこで、ビーダマン本体に的をつけ、それを向かい合って撃ち合う競技形式を採用したのがバトルビーダマン。ちゃんとPDCAを回して製品をアップデートしているのだ。その後もタカラは、その時々で時代の感覚を模索しながら、新しい世代の遊びかたのフォーマットごと、新たなビーダマンを子供たちの手元に届けてきた。
「遊びは文化」とはかつてのタカラのキャッチコピーだが、まさに上記のような開発チームの情熱がこの文化を育んできた。どんな趣味にもその趣味にまつわる道具の開発者がいて、彼女ら彼らの情熱や知性によって大きくジャンルが左右される。おもちゃのように道具そのものが主体である趣味ならなおさらだ。「作った人がいる」ことを時折思い出して、敬意を払って趣味を大事に楽しみたいと思う。
イラスト=町田メロメ
Twitter:@qumolilon
HP:https://qumolilon.jimdo.com/
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