西武拝島線・拝島駅を歩く。~始発・終着駅探訪~
毎日座って通勤できる“始発駅”の魅力に迫る
一般的な会社員は、平日は毎日電車に乗って通勤している。
考えるだけで気が重くなる朝の満員電車に、ストレスを感じている人は多いことだろう。
そんな日々から、ストレスを取り除く方法。
幾つかの選択肢が挙げられるが、毎日座って通勤をすることができれば、どんなに楽になるだろうか。
最寄り駅が始発駅であれば、その願いは叶えることができる。
首都圏には多くの始発駅があるが、知名度が高い駅は少なく、その駅の周りはどのような街なのか知られていないことが多い。
一体どんな駅で、どんな街並みが広がっているのか。
今回は西武拝島線の始発駅のひとつ「拝島駅」を実際に見に行ってみた。
西武拝島線の始発駅「拝島駅」ってどんな街?

拝島駅は、東京のほとんど真ん中に位置する駅だ。普段西武新宿線を使っている人は、「拝島行き」という文字を見たことがあるかもしれないが、実際に駅を降りたことがある方は少ないだろう。拝島駅は東京都昭島市と福生市にまたがり、JR青梅線・五日市線・八高線の3路線、そして西武拝島線が乗り入れしている。
この西武拝島線は決してポピュラーな路線ではないが、終日にわたり西武新宿線との直通運転を行っている。それに加え2018年3月より、夕方・夜間に有料座席指定列車「拝島ライナー」が運行を開始するなどと、日に日に使い勝手が良くなっているという。

拝島から西武新宿までは、直通の準急に乗れば59分。拝島ライナーであれば47分で到着するそうだ。
この時間だけを見ると「ちょっと遠いかも」と思うかもしれないが、座って終点まで寝てしまえば億劫に感じることは多くはないだろう。

コンコースの奥には大きな窓が設置されており、拝島の街の一部を見渡すことができる。

駅前はどんな街並みが広がっているのだろうか。覗いてみると……。

「なにもない」がそこにはあった。
ロータリーを見る限りでは、「なにもない」という言葉が一番当てはまるだろう。終着駅らしい「なにもなさ」である。
とはいえ、まだ外を歩いてはいない。実際に歩いてみることで何か発見を得ることが出来るかもしれない。
そう期待を込めて駅の階段を降りてみると、ちょっと賑わっているとは言いにくい商店街がそこにはあった。

これはまずい。
連載第一回目なのにもかかわらず、ひたすらなにもない街を紹介することになってしまいそうだ。このままだと、連載にならずに打ち切りの可能性だってある。
「なにもない街」から「なにか」を探さないとまずい。
そんな気持ちで商店街を歩き回っていると、ひときわ目立っていたものがあった。

この商店街には自販機が幾つも置いてあったのだが、どれもなぜか都心の相場に比べて飲み物がとても安いように思えた。
要するに、この辺りの物価はとても安いということが分かる。調べてみると都心では9~10万円するような新築マンションも、この近くでは4~5万円ほどで借りれるようだ。
とはいえ、物価が安いこと以外にはまだなにも見つかってはいない。駅の周囲を歩いて他の「なにか」を探さなくては。

踏切なのに閉鎖されている。なぜだろう。踏切は人が線路を安全に渡るためにあるものなのにもかかわらず、封鎖されているとは何事だろうか。
そのワケは、ネットで調べてみると簡単にわかった。
昔、この踏切は日本一長い踏切だったという。全長は127mあったらしく、鉄道マニアの間では名のしれた存在だったようだ。しかし、拝島駅の新駅舎が作られ、自由通路が開業したことにより、この踏切は閉鎖されたとのことだった。新駅舎が出来る前は、駅の北と南をつなぐ重要な道であったのだろう。

「せっかくならば街の観光名所の一つとして、踏切を無理に閉鎖しなくても良かったのに」。
そんなことを考えながら、また拝島の街を歩いていくことにした。
見た感じ拝島の街は基本的に、東京郊外の住宅街という感じだ。このような街並みは中央線だと三鷹、京王線だと府中、小田急線だと成城学園前を過ぎると多く見られる。ちょっとした畑があったり、中々立派な家が立ち並んでいたり、駐車場が広いコンビニがあったりするのだ。
そしてそういう街には当然のようにイトーヨーカドーがあるし、場所によっては大きなイオンだってある。拝島には医療ドラマで使われるような大きな病院も存在する。

ゆえに、利便性は問題なさそうだ。ほとんどのものはこの街で揃えることができるし、1時間電車に乗れば都心に向かうことだってできるし、街を出たくなかったらネット通販を頼めば良いだろう。とはいえ、それはこの街ならではの特色ではない。東京郊外の街であれば、割とどこもそうである。
せっかくこの街を探るのならば、この街ならではの楽しみ方を見つけたい。いや、そうでないとこの記事が成り立たない。

ということで、話を初めに戻そう。
冒頭で説明したとおり、拝島駅には昭島市と福生市という2つの市がまたがっている。とはいえ、拝島駅の「拝島」は昭島市の地名ということもあり、拝島駅は昭島市の駅というイメージが両市民に浸透しているようだ。実際に拝島駅を降りると北口・南口どちらも昭島市であるし、現在の駅舎になる前は駅所在地は昭島市のみとなっていたという。
ということは拝島駅を知るにあたり、私たちは昭島市のことも知る必要があるのだ。では昭島市と言われ、皆さんは何を思い浮かべるだろうか。
「知らない、聞いたことない。あ、サマーランドがある場所?」
これは昭島市についてのよくある回答の一つらしいのだが、サマーランドは“あきる野市”にあるもので、“昭島市”にはない。名前は似ているし23区から見ると方向は一緒だが、似て非なる市なのである。
それでは昭島市には一体何があるのか。特徴の一つとして挙げられるのが、水が美味しいことだ。昭島市は東京都の区市町村の中で唯一、都の水道局の水を使っていない激レアな街らしい。
地下水(深層地下水)のみを水源としているため、ミネラルウォーター並の美味しい水道水を飲むことができる。その上、水道の料金は東京都内で最も安い。

それが理由か分からないが、この街を歩いているとなぜか水に関係することと巡り合うことが多かった。

取材前日に雨が降っていたため水は濁っていたが、夏はホタルを見ることができるほど綺麗だという玉川上水。街を横断するように流れている。

わざわざ箱根や熱海に行かなくても、拝島に住んでいれば温泉を楽しめる。飲食店や仮眠スペースなどもあるため、ちょっとした旅行気分になることもできるだろう。

また、写真のような広い公園が街に点在しており、どこも子供連れや犬の散歩をしている住民の憩い場として機能していた。
総じてまとめると昭島市は「利便性もあるうえ、水が綺麗な自然豊かな街」であることがわかる。都内有数の暮らしやすい街として挙げても良いだろう。
なおJR昭島駅の近くは、拝島駅とは異なり大きなショッピングモールや飲食店、量販店などが多く並んでいる。拝島駅から徒歩で行ける距離なので、休みの日などは昭島駅近くに向かうのも良いかもしれない。

そして、拝島駅に面するもう一つの市、福生市はちょっと特殊な街だ。
在日アメリカ空軍横田基地が市域の約3分の1を占めており、市の全体に“アメリカ”らしい街並みが広がっている。
拝島駅から徒歩15分くらいで行ける国道16号線沿いには、ハンバーガーショップやピザ屋、ヴィンテージ家具屋や古着屋などが軒を連ねていた。
ここでは割愛するが、福生は村上龍の小説「限りなく透明に近いブルー」の舞台であったり、その昔リリー・フランキー氏が描いた壁画が残っていたり、布袋寅泰が上京時に暮らしていたりと、カルチャーとしての文化も根強い。それらはやはり、米軍・横田基地の影響を抜きにして語れないだろう。

空を見上げるとジャンボジェット機が飛んでいたり、駅周辺には米軍ハウスと呼ばれる米軍関係者のための家が並んでいたりなど、東京都心では見られないような景色を見ることができる。
もし拝島駅近辺を散歩する機会があったならば、余裕があれば福生の街を見に行ってみるのも良いかもしれない。


拝島駅を降りた直後は「この街には魅力がない」と思った。いや、拝島駅近辺に住む方には申し訳ないが「正直、この街からは何も生まれないかもしれない」とまで思ってしまった。
しかし、歩けば歩くだけこの街ならではの魅力が見つかった。時間が許すならば隅々まで探索をしてみたいと思うほど。
自然が豊かで中心部は栄えているが、少し駅から離れると寂れた雰囲気を醸し出す昭島市。米国の文化を残しつつも、独特の文化を構築し続ける福生市。その2つの街に囲まれた「拝島駅」は、ちょうどよく住みやすい街なのかもしれない。
そして今回はたまたま「拝島駅」近辺を歩いたわけであるが、都内近郊の始発・終着駅はそれぞれの街に魅力がたくさんあるのだろう。連載が続くのであれば、これからも色々な始発・終着駅を見に行きたいと思う。本当に「なにもない」駅なんて、この世にないのだから。
文・カメラ=編集部
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