ジョイントマットは効果が薄い?賃貸の防音対策と防音グッズを専門家に聞いた

アパートやマンションなどの集合住宅で暮らす中で、気になるのが「音の問題」。自分や家族が出す騒音で近隣から苦情がこないか、隣や上の階の住人の生活音が気になる…… など、双方向の悩みが発生する。
でも実は、騒音問題はちょっとした工夫で軽減・解決できるものもある。賃貸物件でも原状回復が可能な防音対策・グッズについて、株式会社ピアリビングの防音コーディネーター かぶちゃん(梶原 栄二さん)に教えてもらった。
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意外な音が騒音問題の原因に
「話し声が聞こえる」「子どもの足音が気になる」といった悩みは想像に難くないが、最近の賃貸物件では想像しているよりも多様な騒音問題が発生しているようだ。
最近ではオンラインゲームの音に悩む方が増えています。ヘッドホンとマイクが一緒になったヘッドセットを使う方が多く、ゲームの音自体は周りに聞こえないのですが、ボイスチャットやゲーム配信の話し声、キーボードや机を叩く音(台パン)を騒音と感じる方が多いです。
ゲームが盛り上がると、つい声も大きくなってしまいますよね。
また、本体から出る音が小さい電子楽器でも、騒音の問題が発生しているという。たとえば、電子ピアノの場合、鍵盤を叩くパタパタという音やペダルを踏んだ時の衝撃音が意外と大きい。鍵盤を叩く音は70dbぐらいの音量が出ることもあり、自分はヘッドホンをしているので聞こえないものの、隣の部屋や下の部屋によく聞こえている場合がある。
70dbというのは2m先で鳴いているセミの声や掃除機の音と同じぐらいの音量だ。断続的でも確かにうるさい。何かしらの対策が必要になるだろう。
さらに、騒音問題は時間帯にも関係する。オンラインでのリモート会議は日中に行うことが多いため、苦情になることが少なく、オンラインゲームやリモート飲み会は夜行われることが多いため、クレームにつながりやすい。
自分や家族が発する音を抑えたいケース、外的要因の音を軽減したいケース
騒音問題には、自分や家族が発する音に苦情が発生して困っているケースと、外的要因の音に悩まされているケースがある。
自分や家族が発する音が原因で悩んでいるケースでは、生活音が壁や床を伝って響いてしまい、苦情につながる人が多い。音の対策は、音源側で行うほうが効果的なので、比較的対策がしやすい。この記事を参考にぜひ防音に努めてほしい。
外的要因の音で悩んでいるケースでは、上の階や隣接する部屋からの生活音に不快感を覚えているほか、車や電車の通過音など建物の外からの音が原因となることも多い。グッズで軽減できる騒音もあるので、試してみてほしい。
その足音、上ではなく隣が原因かも。音が伝わる2つの仕組み
マンションやアパートなどの集合住宅の場合、上から聞こえる足音がうるさいからといって、真上の部屋の住人が原因とは限らない。実は斜め上の部屋や隣、下の階の住人が原因というケースもある。騒音は、音の種類だけでなく、音の伝わり方によって対策方法が変わる。
音が伝わる2つの仕組み
音が伝わる仕組みには、2種類ある。「空気伝播音」と「固体伝搬音」だ。

空気伝播音は、話し声や音楽、テレビの音など、空気を振動させて伝わる音のこと。空気伝播音は、空気が通るスキマを塞いだり、空気の振動を遮断する障害物を設置したりすることで対策できる。
固体伝搬音は、足音や洗濯機の振動、椅子を引く音や、ピアノやドラムなど床に設置する楽器など、床や壁の振動によって響く音のこと。固体伝播音は、空気よりも速く遠くに届き、振動が壁や床、天井を通って建物全体に広がるため、空気伝播音に比べて抑えることが難しい。
防音対策はどこから、何からはじめる?
自分や家族が発する音と外部から聞こえる音に対して、どのような対策ができるのだろうか。具体例を教えてもらった。
下の部屋に響く、空気伝播音・固体伝搬音を抑えたい場合
階下に音を響かせないためには、防音性の高いカーペットを敷くことが最も効果的だ。人間やペットの足音、家具や家電、楽器の音を響きにくくするだけでなく、人の声などもある程度は抑えられる。「カーペットは汚れが心配」という人は、フローリング調の防音マットがおすすめ。
参考商品:防音タイルカーペット 静床ライト|防音専門ピアリビング
さらに、カーペットの下に防音・防振マットを組み合わせることで、足音や振動をより抑えることができる。
参考商品:足音マット|防音専門ピアリビング
小さな子どもがいる家庭の防音対策としてよく使われる「ジョイントマット」は、EVA樹脂やポリエチレンが素材になっていることが多い。素材を膨らませて厚みを出しているため、密度が低く、防音効果としてはあまり高くない。
「防音カーペットや防音マットの購入はハードルが高い」と感じるのであれば、普通のカーペットとマットなど異素材の床材を組み合わせてみるといい。その際は、複数の層が重なり、できるだけ繊維がたくさん含まれている材質のものを選ぼう。
家具を入れた後に床の防音対策をするのは大変なので、小さなお子さまがいるご家庭は、入居の段階で防音マットを設置される方が多いです。
また、裸足で歩かずにスリッパを履くことも足音の対策になる。
隣の部屋に響く空気伝播音・固体伝搬音を抑えたい場合
隣の部屋に音を響かせないための対策として最初にできることは、隣室に面した壁にタンスや本棚などの家具を配置することだ。家具が防音壁の役割を果たしてくれる。また、洋服や本が詰まっているほど音は漏れにくくなる。
とはいえ、昨今はミニマリストの方が増え、あまり家具をお持ちでない方が多いんです。使える家具がない場合、防音対策をより強化したい場合は、防音壁の設置を検討してみてください。
厚さ5cmほどの「ワンタッチ防音壁」と呼ばれる防音グッズなら、退去の際に原状回復が可能。隣防音壁は、隣室に面する壁全面に設置することが理想だが、半分ぐらいの面積でもある程度の効果を感じる方も多いそう。また、追加で設置することも可能なので、まずは半分だけ設置する方もいるという。
上からの空気伝播音・固体伝搬音を抑えたい場合
上の階に住む住人の生活音に悩んでいる場合は、残念ながら防音グッズによる問題解決方法がほとんどない。防音対策は、音源に近いほど効果が出やすいからだ。上の階からの騒音で悩んでいる方は、管理会社や大家さんに相談しよう。
外部からの空気伝播音・固体伝搬音を抑えたい場合
住宅の外を通過する自動車の音や電車の音、あるいは通行人の話し声が気になる人は、カーテンで対策してみよう。外部からの音はほとんどの場合、窓から入ってくる。防音カーテンを導入しなくても、生地の分厚いカーテンにしたり、カーテンを二重にしたりするだけでも随分と環境は変わってくる。
防音カーテン以上の効果を求める場合は、窓を塞ぐという方法もある。「窓用ワンタッチ防音ボード」という、原状回復可能で、カンタンに本格的な窓の防音対策ができる商品もある。
音別の防音対策

ここからは、自分や家族が発する音別の防音対策を紹介する。
テレビ・ラジオの音、声(空気伝播音)
空気伝播音の代表は声だ。話し声だけでなく、テレビやオンライン会議の音などもここに含まれる。これらを抑えたい場合は、家具や防音壁を使って音を遮断する。また窓を伝って隣の部屋に(あるいは隣の部屋から)声が響くこともあるので、厚手のカーテンや防音カーテンも役に立つ。
足音(固体伝播音)
足音は固体伝播音なので、足が床にぶつかった際の衝撃を吸収させることが最も有効な手段になる。スリッパを履いたり、複数の層がある密度の高いカーペットやマットを組み合わせたり、防音カーペットや防音マットなど取り入れて、音を発生しにくくしよう。
ドアの開け締め(固体伝播音)
ドアの開閉音も固体伝播音だ。「バタン!」と勢いよく閉めない、ドアが壁にあたるところにフェルトや戸当たり防止テープを取り付けるなどの対策をするだけで、かなりの防音になる。100円ショップで売られているグッズでも、充分効果を発揮する。
楽器や音響機器(固体伝播音と空気伝播音)
楽器や音響機器で奏でられる音の多くは空気伝播音だが、電子ピアノや電子ドラムのように床に接地する楽器を叩く音などは固体伝播音となりうる。楽器の下にマットやカーペットを敷くことで叩く音やペダルの音の対策になる。
洗濯機、冷蔵庫の振動(固体伝播音)
大型家電の振動音は、床や壁に伝わる固体伝播音だ。音源である家電の下にマットを敷くことで音や振動を抑えられる。洗濯機や冷蔵庫は脚に取り付けるゴムを各メーカーが販売しているので調べてみよう。
掃除機(固体伝播音と空気伝播音)
静音タイプの掃除機やロボット掃除機が普及したことで、空気伝播音による騒音は非常に少なくなった。固体伝播音は掃除機をフローリングの目地に対して垂直方向に動かすことで大きくなるので、フローリングの目地に沿って掃除機を動かすことで発生量を抑えられる。それでもまだ音が気になるようであれば、カーペットを敷くことで固体伝播音は抑えられる。
ペットが出す音(固体伝播音と空気伝播音)
鳴き声は空気伝播音、足音などは固体伝播音だ。ペットの鳴き声と聞くと犬や猫の鳴き声をイメージする人が多いが、コロナ禍以降に苦情が増えているのが、インコやオウムなど鳥の鳴き声だという。厚手のカーテンで窓の防音対策をしたり、室内に障害物となる家具を設置したりすることで防音しよう。
また、うさぎなどの比較的に鳴き声を発しないペットでも、足音やケージを蹴る音などは意外と大きく、固体伝播音となって他の部屋に響いている。ケージの下にマットを敷くなどの対策をしよう。
外部からの音を防ぎたい場合(固体伝播音と空気伝播音)
人の声、遠くから響いてくる電車や踏切、車の音は空気伝播音だが、建物のすぐ側を走る電車の音は固体伝播音となっていることもある。
特に地下鉄の真上の住宅には、振動が固体伝播音として伝わることもある。空気伝播音は厚手のカーテンや防音カーテンなどで遮断できるが、外部からの固体伝播音を防ぐことは難しい。
騒音に悩みにくい賃貸物件選びのヒント

自分が出す音は制御しやすいが、外部要因による騒音は制御しにくいことがわかった。では、静かに暮らしたいという人はどのような物件を選ぶといいのだろうか。物件選びのヒントを教えてもらった。
お部屋の位置
・最上階や角部屋:隣接する部屋が少ないほうが、音が伝わりづらい
・高層階:階数が高いほど外の音が聞こえにくくなる。ただし、ビルに挟まれた物件だと、音が反響して上まで届くため外から声が聞こえることがある
内廊下の物件は、廊下自体での音の反響や玄関ドアからの音漏れに注意が必要です。外廊下は、外部からの騒音や廊下を通る人の音に注意が必要です。
自分や家族が出す音が不安という方は、1階や下が駐車場になっているお部屋がオススメです。
避けたほうがよいエリアや立地
・救急車を受け入れる病院が近くにある物件:サイレンが頻繁に響く可能性がある
・幹線道路沿い:車の走行音や振動、特に地下鉄が走っている場合は注意が必要。また、幹線道路の近くは抜け道を通過していく車が多いため騒音が発生しやすい
・線路沿い:電車や踏切の音は、想像以上にストレスになる可能性があります。また、駅の近くだとアナウンスや電車の発車メロディもストレスになる
・繁華街:飲食店やカラオケ店などからの騒音、特に深夜帯の騒音に注意が必要
・工場や倉庫:機械音や作業音、トラックの出入りなどが騒音源となる可能性がある
音が伝わりやすい部屋かどうかチェックする方法
騒音に悩みたくない方は、曜日や時間を変えて内見をすると良い。平日と週末との違い、日中と夕方の違いを比較すると、その部屋での暮らしが立体的に浮かび上がるようになる。
また、内見時は案内をしてくれる不動産会社の担当者に少し席を外してもらうなどして、一人でじっくり周辺環境に耳を澄ませてみよう。それまで気づかなかった音が聞こえるかもしれない。
賃貸物件でも防音対策はカンタンにできる!早めの対策を
防音コーディネーター かぶちゃん(梶原 栄二さん)の話を聞くと、身近にあるアイテムや少しの工夫でカンタンに対策ができることがわかった。梶原さんは「騒音に関する問題は、できるだけ発生前に対処してほしい」と話す。
人は環境の変化があった直後ほど、敏感になります。周囲の音が気になるのも、騒音に関する苦情が最も発生しやすいのも、入居直後。
快適な生活を送るためには、入居前後での対策が最も有効です。ぜひお早めの対策をご検討ください。
一度気になるとストレスになりやすい音の問題。適切な対策で快適な暮らしを手に入れよう。
取材協力=株式会社ピアリビング
文=大川祥子