【弁護士監修】退去費用を徹底解説!賃貸契約の注意点とトラブル回避のポイント

賃貸物件を退去する際、「想像以上に高額な請求を受けた」「納得のいかない費用を求められた」といったトラブルが起こる場合がある。
この記事では、退去費用の内訳や知っておくべき法的な知識、費用を抑える具体的な方法を弁護士の監修で解説。トラブルを防ぎ、無駄な出費を避けるために役立つ情報を知っておこう。
このページの目次
退去費用のポイント!「原状回復」とは
賃貸物件を退去するときには、いくつかの費用をまとめて「退去費用」として請求される。その際、覚えておきたいのが「原状回復」だ。
賃借人が負担する原状回復は、「居住中に発生した損耗等のうち、経年変化や通常損耗 を除いた、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗等の修繕」です。
参考:国土交通省住宅局参事官(マンション・賃貸住宅担当)、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会「これでわかる!賃貸住宅を退去する時の原状回復のポイント」
つまり、退去費用として請求される内訳に含まれる「原状回復費」とは、入居中に発生した部屋・設備の汚れや傷を、クリーニング・修繕(=原状回復)するために必要な費用のこと。国土交通省によれば、次のように図と併せて説明されている。
賃貸住宅の価値(建物価値)の考え方

上の図を実際のケースに照らすと、以下のようになる。
①グレードアップにあたるケース
退去時に「使用できるが古いエアコン」を最新機種に交換する場合や「このまま使用しても問題のないクロスを色つきのものに変更する」などの場合は、設備のグレードアップとみなされるため、大家さん(貸主)の負担となる。
なお、入居者が大家さんに無断で設備のグレードアップを行うのはNG。退去時に原状回復の費用が発生するため注意しよう。
②経年劣化・通常損耗にあたるケース
クロスを交換すると新築時の状況(上の図でいうところの100%)にまで回復される。経年劣化や通常損耗の原状回復費用は、すでに入居者が入居期間中の賃料として支払っていると考えられるため、大家さんの負担となる。
大家さんの負担となる経年劣化は、
・法人税法
・法人税法施行令
・減価償却資産の耐用年数等に関する省令
などを参考に、通常の使用であれば「退去時に通常どの程度の価値が減価しているか」を検討することになります。
③入居者の負担となるケース
壁のクロスを落書きで汚してしまった場合は、通常損耗を超える部分については、当然その壁のクロスの張替え費用は入居者(借主)が負担することになる。ちなみに、そのクロスと併せて、汚れていない天井やほかの壁のクロスを交換する費用は、大家さんの負担となる。
入居者が通常負担する原状回復費とは、(故意・過失、善管注意義務違反など)通常の使用を超えるような使用によって損耗・毀損した部分の復旧に限定されるということだ。
入居者が負担する「原状回復費」は、退去時までの間に通常の範囲で生じた「経年劣化」や「通常損耗」を考慮したうえで、その程度に回復するまでに必要な費用となります。
賃貸退去時に発生する退去費用、その中身は?
そのうえで、退去費用として請求される金額の具体的な内訳は大きく分けて2つある。
退去費用の内訳(1)原状回復費
賃貸物件に住む借主には、「善管注意義務」という責任がある。これは、物件を適切に使い、傷つけたり汚したりしないように気をつけること。この義務は民法第400条に基づいており、これを怠ると、原状回復のための修繕費用として退去時に支払いが発生することがある。
よく誤解されることとして、「クリーニング費用」がある。通常の清掃を実施していない場合(例えばガスコンロに汚れがこびりついているなど)は、クリーニングも原状回復費用の一部とみなされる。
クリーニング費用のうち、入居者の負担となるのは、通常の清掃を実施していない場合に限られます。ただし、契約において、通常の清掃を実施しているか否かにかかわらずクリーニング費用を入居者が負担するという特約が定められていることがあります。
退去費用の内訳(2)あらかじめ特約で定められている費用
契約書で「特約」などの形で定められている場合も費用が発生する。上記の説明の通り、クリーニング費用は「原状回復費用」の範囲であれば入居者の負担となる。しかし、特約の形でクリーニング費用全額の負担を求められることもある。
例えば、ペットを飼う・タバコを吸うなどの場合には、通常の入居に比べて部屋の汚損が激しくなることが予想されるため、クリーニング費用の負担についてあらかじめ特約で定められていることが多い。
クリーニング費用を入居者負担とする特約は、
・契約書に「入居者が負担すべきクリーニング費用の範囲」について具体的な定めを記載している
または
・大家さんや不動産会社が口頭により説明し、入居者がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められる
など、その旨の特約が明確に合意されている必要があります。
退去時にいくら返ってくる?退去費用と敷金との関係は?
賃貸物件を退去するとき、返還される金額は「敷金から退去費用などを差し引いた残額」となる。
返還額 = 敷金 – (退去費用+もしあれば、未払い家賃など)
敷金は、賃貸契約時に入居者が大家さんに預ける「保証金」のことだ。
敷金がどのくらい返ってくるかは、退去後の手続後に連絡がきて判明する。
返還額が決まるステップは以下の通り。
- 貸主や管理会社が退去時に室内の状態を確認し、部屋に傷や汚れがないか、修繕が必要かどうかをチェックする
- 確認結果をもとに退去費用が計算される
- 原状回復のための修繕費用や借主側が負担すべきクリーニング費用、未払い家賃等を敷金から差し引く
- 残った金額が借主に返還(足りなければ請求)される
敷金の返還(もしくは足りない分の請求)は通常1~2ヵ月以内に行われるのが一般的だ。
退去費用の精算の際は、明細を確認しよう
敷金の返還で大切なのは、退去費用の計算内容をしっかり確認すること。
- クリーニングや修繕の範囲が適切か
- 契約書に記載された条件と一致しているか
などをチェックしよう。
特に契約書に特約がある場合は、通常の原状回復費用に加えて追加費用が発生するケースもあるため、しっかり把握しておくことが肝心だ。
入居者の「通常の使用を超えるような使用」による損傷を修繕するための費用(原状回復費用)以外にも、契約書で合意したクリーニング費用や畳替え費用などが請求されることがあります。
退去後も一定期間契約書を保管しておき、契約時に合意したクリーニング費用や畳替え費用の請求がされた場合には、「賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか」確認できるようにしておくことが重要です。
修繕費用が借主負担になる主なケース
次のケースは修繕費用が入居者負担になる代表的なものだ。
引越し作業でつけた傷
引越しや模様替えで、家具や荷物を運ぶ際に誤って壁や床に傷をつけた場合の修繕費は入居者の負担となる。ただし、家具の重みで床にへこみができた場合は、通常損耗の範囲として大家さんの負担と判断されることが多い。
飲み物をこぼしたことでできたシミや、結露を放置して発生したカビ
汚れや水滴を放置したため、汚れが広がったりカビが発生したりした場合のクリーニング費用は、汚れを放置したという点で、過失として入居者負担と判断される可能性が高い。清掃を怠ったことによるクリーニング費用の請求は、ガスコンロなど水回りに多いので注意しよう。
落書きや故意、禁止行為を行ったことによる汚れ
壁や設備に落書きをしたり、ペット禁止の物件で犬を飼育して傷をつけたりなど、契約書や重要事項説明書で禁止されていることを行った場合は、損害も大きいため原状回復のための費用が高額になる可能性が高い。
これらの修繕費用は、敷金から差し引かれることが一般的だが、敷金が足りない場合には、追加で費用を請求されることもある。余計な出費を防ぐためにも、日頃から丁寧に物件を使い、マメな清掃を心がけよう。
弁護士が教える退去費用のトラブルを防ぐ方法
退去費用をめぐるトラブルを防ぐには、契約書の確認や立会いの時の対応が重要になる。注意すべきポイントをまとめてみよう。
①契約書や特約をしっかり確認
契約書には、あらかじめ退去費用のルールが書かれているので、内容をちゃんとチェックしておこう。「特約」と呼ばれる追加ルールが書かれていることもあるので、見落とさないように注意だ。
契約書に原状回復以外の費用負担が規定されていないかを確認し、退去時に原状回復費用以外に要する具体的な金額を計算してから契約することが大切です。
②退去時の立会いで気をつけること
交渉においては、自身の主張が正しいといえる資料を残しておくことが重要だ。
- 入居時の状況
- 退去時の状況
いずれも、床の傷やクロスの汚れがあるか、設備の不具合はないかなど、写真とテキストで記録しておきたい。
退去後に予想外に高額な原状回復費用を請求され、実際に損傷等が存在していたか、損傷が入居時から存在していたものであるかなどが争点となることがあります。
特に大家さんからフローリングや壁クロスの全面張り替えの費用を請求された場合には、全面張り替えが必要な程度の傷があったかも重要なポイントとなります。
部屋の状態を大家さんや管理会社と一緒に確認するときも、写真などで記録を取っておくと間違いがない。壁の傷や汚れなどを確認し、原因をはっきりさせておこう。 請求額については、明細を確認してから対応するのが望ましい。
③負担すべき範囲を理解する
普通に生活していてできた汚れや経年劣化は、通常の場合入居者の負担にはならない。例えば、子供の落書きが原因で壁1面分のクロス張替えを行う場合、破れてしまったクロスを替える金額は入居者の負担とされているが、(色を合わせたいなどの理由で)それ以外のクロスも一緒に張替える金額は大家さんの負担とされる。
いずれにしても、入居中の不注意や過失でできた傷や汚れは費用負担となる可能性が高いため注意しよう。
なお、耐用年数を経過しているからといって、原状回復費用負担の必要がないということにはなりません。
適切に使用され貼り替え等が必要ではない状況にもかかわらず、故意や過失により棄損してしまった場合には、耐用年数を超えていても入居者が原状回復費用の支払義務を負います。
明細を確認し、交渉も選択肢に
請求された退去費用の内訳を確認し、どの項目にいくらかかっているのかをチェックしよう。クリーニング費用や修繕費用など、それぞれが妥当な金額かどうかを確認するのが大切だ。「高すぎる」「不当だ」と思う項目があれば、大家さんや管理会社に相談しよう。
それでも解決しないときは、消費者センターや弁護士などに相談するのも選択肢の一つだ。
法的な手続きを取る場合には……
予想外に高額な原状回復費用を請求された場合、その理由や内訳、経年劣化の考慮などを大家さん(や管理会社)に質問し、金額を交渉することになるだろう。
敷金の返還を求めたくても、費用や時間の問題から弁護士への依頼や訴訟での解決はハードルが高いと感じる方も多いと思います。
比較的手軽な解決方法としては、少額訴訟手続※があります。ただし、先方から手続きを拒否された場合は、通常の裁判手続に移行することに注意が必要です。
その他、民事調停や国民生活センター、消費生活センターなどの第三者を入れての話し合いでの解決も選択肢として考えられます。
※少額訴訟手続きとは、60万円以下の金銭の支払いを求める訴えについて、原則1回の審理で紛争を解決する審理手続きのこと
退去費用を減らすためにできること
退去費用をできるだけ減らすためには、入居したときからの準備や普段の生活で気をつけることがある。具体的な対策は次の通りだ。
入居したときに部屋の状態を記録
入居した時点で、部屋の状態を写真や動画で撮っておく。既にある傷や汚れを日付入りで保存しておくと、トラブル防止に役立つ。
普段からのケアを適切に
家具を動かすときは傷に気をつける。水回りの掃除や換気をこまめに行い、結露を防ぐとカビの防止になる。エアコンのフィルターも定期的に掃除したい。水漏れや設備の故障など、何か問題が起きたら、すぐに大家さんや管理会社に連絡を。放置すると被害が広がり、修繕費が高くなることもある。
退去費用の金額は契約前・入居中・退去時の心がけで変わることも
退去費用は、入居時の準備、入居中の清掃やルールの順守、退去時の心がけによって大きく変わることもある。事前の確認や日頃の管理がトラブル防止のカギであり、余計な出費を抑えるための重要なポイントだ。この記事を参考に、契約書の確認、日常の手入れなど、慎重な対応を心がけよう。
国土交通省は「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を公開しており、原状回復にあたっての基本的な考え方や具体的な事例を含めた解説をしています。原状回復費用の請求が適正な請求か不安になった方は、この記事と併せて一度チェックしてみてください。
文=佐々木正孝(キッズファクトリー)