プロが解説!賃貸借契約書の読み方とチェックすべき注意点

公開日:2020年8月26日

契約書はトラブルを防ぐための約束事

賃貸借契約書に捺印
賃貸借契約書は内容をよく理解した上で捺印しよう

部屋選びの最終段階。不動産会社で重要事項の説明を受け、大家さんとの間で「賃貸借契約書」を取り交わせば、いよいよ契約成立ということになる。ただ、契約に関することは難しい専門用語が多く、説明を聞いても内容が頭に入ってこない……という人も少なくないはず。「賃貸借契約書」は入居してからのトラブルを避けるための大切な手続き。ポイントをしっかり押さえて契約に臨もう!

この記事では数多くの賃貸契約の現場に立ち会ってきた“不動産契約のプロ”である宅建士監修のもと、「賃貸借契約書」の正しい見方と注意点、よくあるトラブルをまとめてみた。

今回監修してくれたのは?

不動産業界歴14年の宅建士で、不動産仲介「ラシックエステート」の相馬さん。
お客さまからよく質問されることなど、実際に経験したやりとりをベースに解説をいただいた!

賃貸借契約書とは?

賃貸住宅標準契約書
国土交通省が配布している、賃貸住宅標準契約書(家賃債務保証業者型)のひな形

賃貸借契約書は、賃貸物件を借りるために大家さんと借主(あなた)の間で結ぶ契約書のことだ。住みたい部屋が決まった後で、正式に借りること、貸すことを相互に約束するためのものであり、多くの場合は不動産会社で手続きが行われる。
大切な契約を交わす書類。「難しそう……」と思っても、内容を十分に読み込み、理解した上で契約しよう。

賃貸借契約書の「契約」はハンコを押したらスタート?

これまでは不動産会社の店頭で、対面で捺印し契約が開始されることもあったが、最近では、コロナの影響もあり郵送で契約書類をやりとりすることも増えているそう。郵送ではそれぞれの捺印のタイミングにずれが出るため、契約書面に定める「契約締結日」が契約効果の発生日となる。契約締結日までに大家さんと借主(あなた)のそれぞれが捺印し、借主が契約金を支払うというやりとりだ。
ちなみにこの場合、捺印を行なっていても、契約締結日前かつ契約金が未払いの場合には、契約をキャンセルすることが可能だ。

重要事項説明書との違いって何?

不動産会社では、「賃貸借契約書」を取り交わす前に、重要事項説明が必ず行われる。これは賃料や解約、違約金、部屋を使用する上での条件など「特に大切なこと」を入居予定者に説明するものであり、不動産を仲介した会社に義務づけられている手続き。宅地建物取引士の資格をもった人が説明しなければならないと法律で定められている。

重要事項説明を受け、その内容に入居予定者が同意して初めて、賃貸借契約に進めるというわけだ。ちなみに「重要事項説明書」にも署名・捺印を求められるが、あくまで「内容を確認し、理解した」ことを示すためのものであり、その時点では契約発生していない。ただし、賃貸借契約自体に必ずしも書面は必要なく、口頭での約束でも成立してしまうもの。その場合は、重要事項を理解した上で契約した……ということになるので注意が必要だ。

もしも分からないことや、賃貸借契約書と重要事項の内容と食い違う点があれば、不動産会社に遠慮なく質問しよう。

賃貸借契約書の見方と注意点

さて、ここからは賃貸借契約書で確認すべきポイントを、順番に見ていこう。

まずは物件のプロフィールをチェック

賃貸借契約書の一番上には、物件の情報や借りようとしている部屋の番号、それに設備の有り無しなどが細かく記されている。いわば、物件のプロフィールと言える内容だ。

「(1)賃貸借の目的物」の「建物の名称・所在地等」という欄には、物件名称や所在地(住所)、建て方や構造、工事完了年(築年数)など物件全体の情報が書かれた後、「住戸部分」の欄に借りようとしている部屋の番号、間取り、面積、設備などが記されている。

物件の築年数や間取り、設備などについては、予め物件情報を見たときや内見時にチェックしていると思うが、念のため再度、確認しておこう。
・内見時に置いてあったガスコンロが、設備には含まれず、入居時には撤去されていた
・入居時にエアコンがおいてあったが、設備ではなくサービス品であったため、修理が自己負担になった
契約書で設備に含まれるものに誤解があると、こんなトラブルが起きやすいので注意しよう。

部屋だけでなく、駐輪場、宅配ボックスなどの共用施設を利用できるのか? といったことも「設備等」「附属施設」欄で確認することができる。

支払う金額とタイミングを確認

賃貸借契約書の中でも、最も重要な部分と言えるのが「(2)契約期間」「(3)賃料等」の欄。「契約期間」については、この期間ずっと住み続けなければいけない……というわけではなく、この契約がどの期間、有効なのかを明示しているにすぎない。

一般的な賃貸アパートやマンション(普通借家契約)では、契約期間を2年としているケースがほとんど。2年ごとに契約内容は見直され、更新または解約手続きをする必要がある。なお、借主が更新して住み続けることを希望する場合には、正当な理由がない限り、貸主の都合で契約解除や更新拒絶ができないことになっている。

普通借家契約に比べると少数派だが、契約期間があらかじめ決まっている「定期借家」という契約形態もあるので、借りようとしている物件がどちらのタイプか、念のため確認しておこう。

「賃料等」については、家賃と共益費を毎月何日までにどんな方法で支払うのか、また敷金や一時金の金額が記載される。物件によっては「支払い方法」が相手先銀行口座への振り込みに限定されている場合(自動引き落としの利用不可)もあるので、ここで確認しておこう。駐輪場などの附属施設を使う場合に、別途使用料がかかるケースもある。どのタイミングで、いくらかかくのか、綿密に確認しておくことが大切だ。

もしものときの連絡先

「(4)借主及び管理業者」の欄には、貸主(大家さん)と管理業者、建物の所有者(貸主と所有者が異なる場合のみ)の名前と住所、電話番号等を記したもの。入居後に何らかのトラブルが起きたとき、修繕などについて相談したいときなどには、ここに記載されている相手への連絡が必ず必要になる。「こんなケースでは、誰に連絡すべきか?」を不動産会社に確認しておこう。「水漏れの場合は?」「近隣トラブルの場合は?」「契約更新に関することは?」など、具体例を挙げて聞いておくとベターだ。

契約書は後半パートこそ重要!

ここまでは、暮らし始める部屋の詳細と契約内容について、改めて確認するような意味合いの書面だった。しかし、賃貸借契約書で本当に重要なのは、実はこれ以降の部分! 物件ごとの細かな規約について説明した後半部分だ。

細かな字がズラズラッと並んでいるので、全部読むのは正直大変……でも、面倒くさがってはいけない。以下に、特に注意すべきポイントをまとめてみた。

・解約の申し入れをいつまでにすべきか?
借主が借家契約を解約したいとき、いつまでに申し入れすべきなのか? は必ずチェックしよう。一般的な解約予告期間は「少なくとも30日前」とされていることが多くなっているが、実際はケースバイケース。「30日前だと思い込んでいたら、60日前までという契約になっていた! 引越しの30日前に申し入れたが受け入れられず、結局30日分余計に家賃を払うことになってしまった!」という場合もあり得る。

解約申し入れの期日は、「乙(借主)からの解約」という項目に書かれている。

・修繕費の負担は誰がするのか?

何も無い部屋の写真
部屋を借りている人は、退去時に部屋を原状回復する義務がある

入居しているときに、修繕したい箇所を見つけたら、どのように処理し、誰が費用を負担するのかを確認しておく。東京都のガイドライン等では、「経年変化や摩耗による損傷は貸主負担、「水をこぼしてできた床のシミ」「家具をぶつけて壁紙が破けた」など、入居者の過失によりできた損傷は借主負担が原則としているが、契約内容によって、その通りとは限らない。

特にエアコンなど附属設備が壊れた場合の修理費は誰が受け持つのか? といったケースは物件によって判断が異なるので、念入りに確認しておくこと。「契約期間中の修繕」という項目に記載されているはずだ。

・原状回復の負担割合は確認マスト!
退去時の原状回復と、敷金の返還規定に関することは、賃貸契約で最もトラブルになりやすいケース。ちなみに原状回復とは、入居したときの状態に戻すことではない。

国土交通省のガイドラインでは「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義。つまり、自然に劣化した床や壁など、経年変化・摩耗によるダメージの修繕費用、製品寿命で壊れたものの修理代を入居者(借主)が負担する必要はない、ということだ。

また、たとえ入居者の故意や過失で傷ついてしまった物でも、交換費用全額を負担する義務は基本的にない。ガイドラインでは「自然に劣化した部分(貸主が負担すべき部分)」の割合を経過年数ことに計算し、借主の責任によって発生した損傷部分のみ費用負担すること、と定められている。

ただし、あくまでガイドラインなので、物件によっては特約(一般的な原則とは異なる、個別の約束事)で上記と異なる内容が盛り込まれていることがある。賃貸借契約書の中で、「原状回復」についての文面は漏れなくチェックしておこう。

・敷金がどれだけ戻ってくるか?
敷金とは、家賃の支払いに延滞があったり、上記の借主が負担すべき原状回復や修繕費用が支払われなかったりしたときに充当されるべきもの。それ以外の金額は、退去時には借主に全額返還されるのが本来であるべき姿だ。ただ、こちらも特約によって「退去時に一定額が差し引かれる」といった内容になっていることがある。「敷金」と書かれた項目で確認しよう。

・禁止されていることは何?
ペットの飼育、楽器演奏の可否など、物件によって禁止されている内容は異なる。禁止事項の中でも、貸主の承諾を得ればOK、通知をすればOKな事柄もある。「禁止又は制限される行為」という項目や別表に書かれているので、もし違反した場合の違約金とともに確認しておこう。

犬の写真
ペット飼育の可否は、契約前に必ず確認しておこう

・念のため、滞納したときの対処法も
期日どおりに家賃を納めるのが当然だが、万一、期日に遅れてしまったとき、滞納してしまったときに、どう対処されるのか? 遅延損害金がいくら請求されるのかも確認しておこう。

なお、家賃滞納による遅延損害金については、賃貸借契約書に記載されていない場合もあるが、その場合でも借主が支払う義務は発生。契約書に明記されていない場合の遅延損害金は年利率3%(2020年4月1日改正民法施行以前に結んだ契約では年利率5〜6%)、特約などで定める場合でも年利率14.6%が上限とされている。

次のページでは、賃貸借契約に関するよくあるトラブルをご紹介する。

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CHINTAI編集部
CHINTAI編集部

1992年創業、お部屋探しや生活の情報を発信してきた株式会社CHINTAIが運営するWebメディア。引越しに関する情報はもちろん、家事や家計、季節の楽しみなど日々を豊かにする知識を調査・ご紹介。
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