【解説】今度は”スマホは落とさない”? 映画2作目『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』をさらに楽しむための5つのポイント

公開日:2020年3月2日

映画『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』の魅力を解説!

現在、映画『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』が公開中だ。

本作は2018年に公開されたスリラー映画『スマホを落としただけなのに』の直接的な続編で、『リング』や『クロユリ団地』などで知られる中田秀夫監督が再びメガホンを取った。前作で活躍した千葉雄大演じる刑事が今回の主人公となり、キャストの一部も“特別出演”という形で続投しているが、物語としてはほぼ独立している。本作から観るという方も問題なく楽しめるだろう。

映画『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』のあらすじ

黒髪の女性ばかりが狙われた連続殺人事件(前作)の解決から数ヶ月後、同じ現場から新たに身元不明の死体が発見された。刑事の加賀谷が自らが逮捕した連続殺人事件の犯人・浦野のもとを訪れると、彼は自身が師と仰ぐ“M”という人物の存在について語りだす。
一方その頃、加賀谷の恋人にも謎の男の影が迫っていた。

ここでは、本作をもっと面白く観られるかもしれない作品の魅力や、志駕晃による原作小説『スマホを落としただけなのに』『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』(いずれも宝島社文庫)を読んでこそわかる注目のポイントを、大きなネタバレのない範囲で記していこう。

1:刑事と連続殺人鬼の奇妙なバディの関係性が面白い

『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』で殺人鬼・浦野を演じる成田凌
©2020映画「スマホを落としただけなのに2」製作委員会

本作の魅力として筆頭にあがるのは、サイバーセキュリティ対策課の刑事・加賀谷(千葉雄大)が、収監中の連続殺人鬼・浦野(成田凌)と手を組み、新たな殺人事件の捜査に乗り出すというプロットだ。

浦野は、今回の容疑者と思しき謎の人物である“M”の存在を加賀谷に教え、「自分なら”M”に近づくことができる」と豪語する。連続殺人鬼であると同時にサイバー犯罪のスペシャリストと言えるクラッカー(ブラックハッカー)である浦野は、ネットの深層領域(ダークウェブ)に潜んでいる”M”の捜査にはうってつけの人物だったのだ。

”刑事と連続殺人鬼”という、全く正反対と言える立場の2人が同じ目的を共有し、捜査を経て親交を深めているようにも見える……そこには、あり得ない関係性を覗き見しているようなスリルがある。
通常であれば犯罪者(しかも連続殺人鬼)の協力を得ること、ご丁寧に高性能パソコンとネット環境を与えることなど言語同断。しかし“それしか方法がない”という歯がゆい状況。浦野の協力で真相を暴いていく過程では、「殺人鬼を信用できない」という疑心暗鬼が生まれていく。どんでん返しに次ぐどんでん返しも繰り出される様は、やはり面白い。

前作『スマホを落としだけなのに』は、一般人がサイバー犯罪および殺人事件に巻き込まれる様を描いていたが、今回でメインとなるのはこうした“刑事と連続殺人鬼の奇妙なバディ”の関係性だ。その時点で前作の二番煎じにはならない差別化が計れているし、一方ではサイバー犯罪を駆使する連続殺人鬼を何とかして見つけ出すというエンタメ性もしっかり踏襲されている、続編としては理想的と言える内容になっている。

なお、犯人が仕掛けるサイバー犯罪は、仮想通貨の流出、ランサムウェア(パソコンやスマホを使えなくして解除する代わりに身代金をする不正プログラム)、個人情報の特定など多岐に渡る。捜査に協力する浦野は、本人がそうした犯罪者を犯しているからこそ、サイバーセキュリティ対策課の刑事よりも的確にやり口を理解しているのだ。犯罪者側の手口を知るというのは、現実での危機管理にも役立つかもしれない。

2:『羊たちの沈黙』『デスノート』も彷彿とさせる成田凌の怪演

前述した「収監中の連続殺人鬼の助言が刑事の捜査を後押しをする」という内容、監獄の壁を隔てたところで加賀谷と浦野の2人が会話を繰り広げる様を観て、『羊たちの沈黙』を連想する方も多いだろう。事実、連続殺人鬼・浦野を演じた成田凌は「『羊たちの沈黙』のハンニバル・レクター博士をイメージして欲しい」と中田秀夫監督に要求されていたのだそうだ。

その成田凌の演技は“怪演”という言葉がふさわしい。レクター博士よりも狂気を感じさせ、子供のような陽気さを併せ持ち、マンガおよび映画の『デスノート』の“L”を連想させる、間を置かずに矢継ぎ早にしゃべりまくる様子から“天才肌”な気質も感じさせる。理解も同情もできないが、恐ろしくも魅力的に見えてしまうのだ。

浦野はなぜか獄中で白髪になっており、その理由は劇中では明かされないのだが、「パソコンに触れられないストレスで白髪化した」と考えてみるのも面白い。もちろん現実にはあり得ないだろうが、牢獄で“エアキーボード打ち”をしている様や、パソコンと部屋を提供してもらった時の嬉しそうな様子は、「そんなにパソコンが欲しかったのかよ!」と笑ってしまう領域に達していたのだから。

さらに、終盤で彼が起こす行動は、もはや悪趣味なギャグとも捉えられるほどに混沌めいたことになっていく。爛々と目を輝かせながら、楽しそうに悪役を演じる成田凌を見るとこっちもついつい笑顔になる。『愛がなんだ』のダメ男なのに愛おしい成田凌、『カツベン!』の生真面目すぎて不器用でキュートな成田凌を超える、”史上最高の成田凌”を期待しても、裏切られることはないだろう。

3:千葉雄大による怒りや他者への距離感を示す演技にも注目

千葉雄大演じる刑事・加賀谷は、一見すると正義感溢れるまともな人間だが、他人への共感能力に乏しく、特に恋人への同調に消極的なキャラクターだ。その加賀谷と恋人との関係性は、新たな殺人事件を追うメインの物語と平行するサブエピソードとして展開しており、彼の本質的な性格を示す意味でも重要となっている。

原作小説では「あまり人の気持ちを考えたことがなかった」「煩わしい人間関係とは無縁でいたいと思っていた」などの表現もあり、映画でもそれを思わせるところがあちこちにある。例えば、序盤の結婚式シーンで加賀谷が恋人にした行動をよく見てみると、口には出さないが「結婚したくない」という意識が見えるようになっている。

千葉雄大は、その演技力をもって“他人への距離感”を見事に表現している。加賀谷は恋人へは淡白であったり要求をはぐらかす態度ばかりを取っているが、一方で連続殺人鬼には怒りや不安の感情を露わにして接する。ある意味、彼は恋人よりも連続殺人鬼のほうに本当の自分を見せているとも言えるのだ。

そんな彼が恋人を囮捜査で利用する提案に、激しく激昂するというシーンがある。ここで千葉雄大は普段の童顔で可愛らしい印象を忘れさせる、怒りを全身全霊で噴出させた見事な演技を見せていた。これは原作小説にはない映画オリジナルの改変であり、本質的には恋人への愛情が確かに存在することを示す重要な意味を持っていた。

4:連続殺人鬼は刑事と友達になりたかったのかもしれない

『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』で殺人鬼・浦野を演じる成田凌
©2020映画「スマホを落としただけなのに2」製作委員会

刑事と連続殺人鬼の奇妙なバディが本作の大きな魅力だと前述したが、実は殺人犯相手には司法取引は成立しないため、この捜査に協力したところで減刑というメリットはない。では、なぜ浦野は協力をするのか。終盤に浦野がある目的のために協力していたことが発覚する(ネタバレになるから書かない)のだが、それ以上に加賀谷と「友達になりたかったから」という理由があるように思えたのだ。

原作小説で浦野は「僕はここに入ってあなたと出会って、初めて友達というものが理解できたような気がします」「友達ならば、損得を抜きにして捜査に協力することができます」とはっきり言い切っている。それをもって、友達としての“とっておきの秘密”を教えてもらうことを条件に、彼は捜査に協力していたのだ。
さらに原作には浦野が「ハッカーとクラッカーはやってることは真逆ですが、基本的には同じタイプの人間です」と言及するシーンがある。ITの知識や技術を活かして社会に貢献するハッカー(ホワイトハッカー)と、犯罪に用いるクラッカー(ブラックハッカー)。どちらも子供の頃はいたずら半分でネットワークに侵入したりしていたのかもしれない。殺人犯と刑事という立場が正反対の加賀谷と浦野も、一枚皮を剥げば(大人の今でもネットワークに侵入しているという点では)同じだし、仲良くできるのでは……そう浦野は訴えている。
映画では浦野の「友達になりたい」という意思は暗に示される程度になっていたが、ぜひ意識しながら観てみてほしい。“出会い方が違えば友達になっていたかもしれない2人”だと思えば、鏡像関係でありながらも、似た者同士でもある”奇妙なバディ”の関係性が、より面白く観られるだろうから。

5:ツッコミどころがストレスになってしまうかも?

『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』のずん・飯尾和樹
©2020映画「スマホを落としただけなのに2」製作委員会

ここまで『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』を賞賛したが……正直に言ってダメ出しをしたくなる部分も多い。はっきり言って、ミステリーとしてはどうしても“冷める”原因となる、ツッコミどころが散見されるのである。

具体的には、警察内部に「いくら何でもそんな行動や考えはしないだろう」と思ってしまう人間が多い。
飯尾和樹(ずん)演じる男は「サイバーセキュリティ対策室の室長なのになんでその程度のネットリテラシーなのか?」と思ってしまうし、アキラ100%は完全にお笑い芸人としての持ちネタ通り“裸になる”要因としてキャスティングされていて、しかもスベらされているように見えて気の毒だ。極め付けは平子祐希(アルコ&ピース)演じる刑事で、彼が浦野にする”ある行動”は「どうひいき目に見てもあり得ない」と感じる方がほとんどだろう。

『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』のアルコアンドピース・平子祐希
©2020映画「スマホを落としただけなのに2」製作委員会

それぞれ本職がお笑い芸人の方たちが誠実に演じられている(特に平子祐希のイヤなやつの演技はものすごく上手い)し、“あえて”の浅薄な人物像なのだろうが、序盤に「警察の後手に回る捜査に批判が集まる」という事実が提示されているのだから、それを覆す警察の優秀さを示す必要はあったはずだ。そうであるのに、これらの短絡的な行動や考えする者がいる上に、警察側の捜査の迂闊さや、ただ事態に翻弄されてしまう展開が連続するため、必要以上にストレスが溜まってしまう。

原作小説では、連続殺人鬼が「日本の警察はリアルな犯罪に関しては世界トップの捜査能力を誇っていますが、サイバー犯罪に対しては相当遅れていますから」と口にしているシーンもあったのだが、映画では「サイバー犯罪どころかリアルな犯罪でも日本の警察はバカでダメじゃん!」という印象を持ってしまう。実際の警察官の方が怒ってもおかしくないレベルである。

『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』で松田美乃里を演じる白石麻衣
©2020映画「スマホを落としただけなのに2」製作委員会

ストレスが溜まると言えば、刑事・加賀谷の恋人である白石麻衣演じるヒロイン・松田美乃里にも、悪い意味でイライラさせられてしまった。公衆の面前で「キスをして」と要求するなど、原作小説に比べて自己中心的に思える性格へと変更が加えられている。その時点で彼女に感情移入がしにくくなっているし、ある“勘違い”から加賀谷の母親がいる病院を訪れる過程はどう見ても不自然。後半では「こんなに重大な事件に巻き込まれているタイミングで、それを要求するか?」と疑問が湧く行動にもでてしまう。

これらの気になってしまうツッコミどころは、原作小説では存在しなかった(警察側の迂闊さはあるが、映画よりは目立たない)ものだ。映画化のため、小説版よりもわかりやすく伝えようとする、エンターテインメント性を高めようとする工夫も見られるのだが、どちらかと言えば裏目に出ている部分のほうが多いと思ってしまう。

今作も前作も「登場人物のネットリテラシーがいくらなんでも低すぎだし迂闊な行動をしすぎじゃないか?」「展開が幾ら何でも現実離れしすぎじゃないか?」と思うところが散見された。おかげで「自分も(スマホを落としただけで)犯罪に巻き込まれてしまうかもしれない」という“身近な恐怖”を感じにくくなっていた。今回のツッコミどころやムチャとも言える展開の連続で、その問題点がさらに顕著になってしまったのは、非常に残念だ。

なお、劇中の犯人の手口も荒唐無稽に見えてしまうところもあるが、原作小説では現実にあった“黒子のバスケ脅迫事件”の例などをあげて、リアルなサイバー犯罪捜査のうんちくが語られているので、映画の後に読むと少しは溜飲が下がるところがあるかもしれない。

おまけ:まさかの“タイトル回収”にびっくり?

『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』で松田美乃里を演じる白石麻衣
©2020映画「スマホを落としただけなのに2」製作委員会

さて、予告編にしろ本編にしろ『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』を観ながら、こう疑問に思った方もいるのではないだろうか。「あれ? 今回はスマホを落としていないじゃん」と。

前作はタイトル通り「スマホを落としただけ」でサイバー犯罪および殺人事件に巻き込まれる様を描いていていたのだが、今回の物語の発端の一つにあるのは「偽のフリーWi-Fiにつないでパスワードを再入力したために情報を盗まれてしまった」というものだ。これだとタイトルは『フリーWi-Fiにつないだだけなのに 囚われの殺人鬼』のほうが正しい。

そもそも、前作の原作小説の最終選考時のタイトルは『パスワード』であり、内容もスマホを落とすことそのものよりも“インターネットとSNS時代のあらゆる危険性”を多角的かつ包括的に描いたものだった。つまり、タイトルは作品を売るためのキャッチーなコピーに過ぎないとも言えるのだが、このままだと今回は「タイトル詐欺」とも言われてしまいかねないだろう。

しかし……今回の『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』では、しっかり「スマホを落としただけ」のシーンがある。これも、原作小説にはないオリジナル要素だ。

「そんな雑にタイトル回収するのかよ!」と憤慨する意見もありそうだが、個人的には大好きな部分だ。観客に納得してもらうための、「やっぱりちゃんとタイトル通りにスマホを落とさなきゃ!」という、作り手の矜持(?)をまざまざと感じさせたからだ。
ここは、本作のキュートなところでもあると思う。前述したツッコミどころもかわいいと思えば、イライラすることなく楽しめるのかもしれない。

そんな訳で、さまざまなツッコミどころはあるものの、『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』は”刑事と連続殺人鬼の奇妙なバディ”の姿を通して、千葉雄大と成田凌の見事な演技が楽しめることは間違いない作品だ。この2人の関係性がどのように帰結するのかにも、ぜひ期待して観てほしい。

※配信作品に関しては最新の情報と異なる場合があるので、最新の配信状況はParaviサイトにてご確認ください。

参考記事:
『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』千葉雄大×成田凌インタビュー|互いの“優しさ”が垣間見れる撮影秘話「緊張感のあるシーンしかないのに…」
参考文献:
『スマホを落としただけなのに』志駕 晃(宝島社文庫)
『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』志駕 晃(宝島社文庫)

ヒナタカ

WEB媒体を中心にオールジャンルの映画を紹介・解説する雑食系映画ライター。「サイゾー」「女子SPA!」「ねとらぼ」「Cienams PLUS」などで執筆中。おすすめは「リリイ・シュシュのすべて」「ビッグ・フィッシュ」で検索すると1ページ目に出てくる解説記事。

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