【祝!相互直通運転】都民からは影が薄い存在「相鉄線」の魅力とは?
神奈川県内を走る相模鉄道の相鉄線が、JR線との相互直通運転を今年11月末から始めることを発表した。神奈川県から東京都心まで乗り換えなしで行けるようになる。しかし、それは東京在住の人間にとって、どんなメリットが有るのだろうか。電車好きの編集部員に連れられ、縁もゆかりもない相鉄線の発表会に行ってきたそのレポートをお伝えする。
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都民からは影が薄い存在「相鉄線」とは

東京在住の人間からしたら、地方都市を走る電車に興味は沸かないかもしれない。
ましてや知名度も薄い鉄道会社なら尚更だ。
神奈川県に「相模鉄道(さがみてつどう)」という鉄道会社があり、ここは相鉄線(そうてつせん)という路線を運行させている。
生まれてこのかた30年。東京で生まれ育った自分からすると、この「相鉄線」も全く知らない路線だ。

相鉄線の線路の総延長はたった38.1kmと、非常にコンパクトな路線であるが、横浜駅から海老名駅まで走る本線と、そのあいだの二俣川駅から分かれて南西に延びて湘南台駅までを結ぶいずみ野線の2路線を持つ、関東の中でも大手私鉄のひとつだ。
なお、相鉄線と同じように横浜駅を通っている大手私鉄のひとつに「東急東横線」がある。都民にとって東急東横線は馴染みのある路線のひとつだと思うが、多分それは東京に伸びているからだろう。
ここまで言えばお分かりかもしれない。そう、相鉄線は2019年4月現在東京への直通運転などをしておらず、この電車だけでは東京には出られないのだ。相鉄線は神奈川県だけで運行しているのである。
しかし、近い将来、相鉄線はJRや東急東横線と相互直通運転する予定であり、その発表会が先日行われた。

なぜ、縁もゆかりもない相鉄線の発表会に自分が訪れたのか。
理由は簡単、CHINTAI情報局編集部内に電車好きな人間がいて、無理やり一緒に連れられて行ったたからだ。ちなみに、その電車好き編集部員は生まれてこのかた神奈川育ち。生粋の相鉄ユーザーだ。
ちなみに、相鉄線はまずはJRとの直通運転から始めるとのこと。相鉄線西谷駅で分岐をし、羽沢横浜国大駅(新駅)からJR線を経由して新宿方面へ直通する計画となっているそうだ。2022年度下期には、羽沢横浜国大駅と東急線の日吉駅(横浜市港北区)を結ぶ相鉄・東急直通線も開業し、相鉄線と東急線の相互直通運転が始まる予定なんだとか。


駅や沿線が増え、なおかつ直通運転を行うことにより様々な場所に向かうことができる相鉄線。沿線沿いに住んでいる人からすると、これまで以上に大変便利になるだろう。これは相当なニュースのはずだ。都民からすると、井の頭線が銀座線と直通運転を開始するレベルで嬉しいと思う。
とはいえ、自分のような東京都民からすると相鉄線に直通運転が開始されたかといって、滅多なことがないと行かないだろう。そもそも、相鉄線に乗ったことがないので、どんな街があるのかがわからないし、駅なんて横浜と海老名しか知らない。
そのようなことを電車好き編集部員に喋っていたところ、結構大きな声で「なんてことを言うんだ!」と怒られてしまった。確かに自分も、普段使っている「京王新線」のことをバカにされたら、それは怒るかもしれない。そして、知らない・興味が無いことを頭ごなしに否定をすることは、反省すべき点だと感じた。
ということでで発表会の後、せっかくなので相鉄線沿線をチラっと覗いてみることにした。東京から相鉄線沿いに訪れる理由を探して。
神奈川県民の約8割は知っている「二俣川」駅
横浜駅から相鉄線に乗って、二俣川という駅にやってきた。「あれ、この駅知ってる気がするな」と思ったが、それは二子玉川駅の間違いだった。相鉄線に乗ったこともないのに、二俣川なんて知ってるはずがないのだ。

駅の綺麗さだったら、二子玉にも負けていないほどである。アトレやルミネのような“エキナカ”ではなく、初見の“ジョイナス”という名前の施設があったが、ここも割と規模が大きく、周りの住民からしたらとても便利そうだった。

ここ二俣川は、神奈川県民なら一度は行かなければならない機会が訪れる街だという。
それは、神奈川県唯一の運転免許試験場があるからだ。
唯一ということは、横浜在住の人も小田原在住の人も、全神奈川県民がここで免許取得の試験を行うことになるのだろう。遠いところからご苦労さまだ。

また、駅前も割と栄えており、買い物は横浜までも行かずにこの街だけで完結できそうだった。相鉄ローゼンというあまり馴染みがないスーパーもあったが、このスーパーは相鉄線ユーザーからすると身近な存在なのだろう。


って、危ない。
住みやすい街を探している場合ではなかった。いや、住みやすい街を紹介したい気持ちは山々だが、今回の記事とは趣旨が違う。
今回は東京から相鉄線沿線の街に向かう“理由“を探しに来たのだった。
二俣川駅はなかなか良さげな街だった。とはいえ、あれくらいの規模の街は、東京にだってある。
そして運転免許試験場がこの街にあるからといって、それは都民には全く関係ないのである。都民にとっては、鮫洲か府中だ。
ということで、ここから歩いて次の駅「希望が丘」に向かうことにした。
ここに希望はあるのか?「希望が丘」駅
駅に到着し、ちょっと拍子抜けした。

希望が丘、という名前が付いていたので、もっときらびやかな街を想像していたが、至って普通の街であった。
この駅は1950年代、戦後の混乱期から立ち上がり「明るい未来を目指す」という願いが込められ、一般公募により駅の名称が決まったという。

なにもない、と言われればなにもない街だ。だが、この街を歩いていて、個人的に映画『ストロベリーショートケイクス』の台詞を思い出した。自販機でタバコを買う主人公の台詞だ。
池脇千鶴さんが演じる主人公、里子が作中ラストにタバコの自販機の前で「HOPE」というタバコを購入しようとするのだが、運悪く売り切れだった。
その際に発した一言が、「希望は売り切れですか」という台詞。
とはいえ、物語の最後は登場人物たちに希望が見える感じで終幕する。ゆえに、辛いことがあっても、まだまだ大丈夫だな、そう思える映画だった。
この街も初見ではなにもないと思われるかもしれないが、実はそうではなくいくつもの希望が散りばめられているのかもしれない。

って、危ない。
変なポエムを口にしている場合ではなかった。知らない路線を歩いて、ポエムを吐き出したい気持ちは山々だが、今回の記事とは趣旨が違う。
今回は東京から相鉄線沿線の街に向かう“理由“を探しに来たのだった。
あとになって解ったことだが、ここ「希望が丘駅」と相模鉄道いずみ野線「ゆめが丘駅」間を結ぶ乗車券「ゆめきぼきっぷ」というものがあり、「夢と希望を結ぶ」切符として受験生や就職活動者の縁起物となっているそうだ。これはわざわざ東京から向かう理由にもなりそうである。
それでは最後に、相鉄本線最後の砦、「大和駅」に向かうことにする。
横浜に次ぐ相鉄線の主要駅「大和駅」
小田急江ノ島線との乗り換えもできる「大和駅」は、横浜に次ぐ相鉄線の主要駅と言っても過言ではないだろう。

この大和駅を擁する大和市の市長は以前、「町田市・相模原市と合併して東京都になる」と言い出した事があるそうだ。なかなかおもしろいことを言うもんだ。
なお、駅の周りには飲食店やスーパー、ショッピングモールなどが広がっており、前述した「二俣川駅」と変わりないほど暮らしやすそうな街並みが広がっていた。

少し離れると都会とは異なり、自然が広がっているようだ。家族連れにはかなり住みやすい街だろう。


街を散策していて、特に印象に残ったのが上記のような「昔ながらの飲食店」だ。立派な駅ナカと隣り合わせに数十年前からあるような趣のある飲食店がたくさん並んでいる。夜になるとたくさんのサラリーマンがここで飲み明かすのだろう。
そして特に気になったのがこの店だ。

自分の本能が“この店はヤバイ“と言ってくるように聞こえた。自然に足が前に進み、気づけば店内に入っていた。
入ってすぐに理解する。やはり思うまま行動することは正しかったということを。

一言で言うなら、「大和駅が誇る文化財」。都内は多数の純喫茶が未だに残るが、ここのように“元クラブ”だった店をそのまま純喫茶として営業している店は少ないだろう。壁一面の絵も、本棚にある大量の漫画も、革張りの椅子の配色も、その絶妙な雰囲気をアップデートしている要素だ。近所にあったら毎日通いたい。というか、ここに行くために大和に定期的に行きたい。


知らない街を見に行くのは、なかなか面白い
2019年末、相鉄線とJRの相互直通運転が開始されても、興味がない人は特に相鉄線沿線には向かわないだろう。
たぶん、この記事を書くという仕事がなければ自分も訪れてはいなかったはずだ。
しかしいざこの路線を散策すると、普段自分が生活している圏内から逸れ、全く知らない世界が広がっていた。そう思うと、観光地っぽい場所に行くのも面白いが、たまには自分の感性で街を見に行くのも面白いのではないだろうかとも思う。
年末に相互直通運転が開始されたらメディアでたくさん報道されるので、また相鉄線のことを思い出すかもしれない。少しでも興味があったら、ぜひ散策してみてはどうだろう。

文・写真=編集部