「土嚢」の代わりに「水嚢」で水の侵入を防ぐ方法と、自宅でできる浸水対策
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手作り「水嚢」で自宅の浸水対策ができる!
年々増えている台風やゲリラ豪雨の被害。全国各地で発生している土砂災害や浸水被害のニュースを見聞きすると、低地の低階層や一戸建てに住む人は心配になるだろう。
浸水対策と聞くと「土嚢(どのう)」が一般的だが、土嚢は事前に購入して家に保存しておいたり、大雨前に各自治体に取りに行ったりと、なかなか面倒なことも多い。
そんな時、土嚢の代わりに役に立つのが、家庭で簡単に作れる「水嚢(すいのう)」。
本記事では防災システム研究所の山村武彦所長に、水嚢の作り方や浸水対策の方法を教えてもらった。
防災システム研究所 山村武彦所長 プロフィール
東京都出身。1964年、新潟地震でのボランティア活動を契機に、防災・危機管理のシンクタンク「防災システム研究所」を設立。以来50年以上にわたり、世界中で発生する災害の現地調査を実施。報道番組での解説や日本各地での講演、執筆活動などを通じ、防災意識の啓発に取り組む。また、多くの企業や自治体の防災アドバイザーを歴任し、BCP(事業継続計画)マニュアルや防災・危機管理マニュアルの策定など、災害に強い企業、社会、街づくりに携わる。座右の銘は「真実と教訓は、現場にあり」。
著書に「台風防災の新常識 災害激甚化時代を生き抜く防災虎の巻」(戎光祥出版)、「感染症×大規模災害 実践的 分散避難と避難所運営」(ぎょうせい)、「災害に強いまちづくりは互近助(ごきんじょ)の力 ~隣人と仲良くする勇気~」(ぎょうせい)など多数。
マンションの1階と戸建ては要注意!「逆流浸水」の怖さ
地球温暖化による気候変動などの影響で、「大雨」の様子は大きく変わりつつある。1978年にアメダス観測が始まった頃に比べて、集中豪雨の頻度は2倍以上、特に6〜7月は4倍近くも増えている。
つまり水害や浸水の危険地域でなくても、浸水被害に遭う可能性は高まっているということ。
なかでも低地に建つマンションの半地下や1階、一戸建てに住む人が注意しなければいけないのは、「逆流浸水」と呼ばれる現象。
逆流浸水とは雨水を処理し切れなくなった排水口から水が逆流してくる現象で、トイレやお風呂場、洗濯機の排水口などから室内に水が流れ込み、浸水被害を受けてしまう。
玄関や縁側をガードして外からの浸水を完全に防いでも、家の中の排水口から水が溢れ出せば、当然家の中は水びたしになる。
「排水口からの逆流なら少量なのでは…」などと甘くみていると、あっという間に畳がプカプカ浮くような浸水になってしまうので要注意だ。
※参考:気象庁気象研究所
土嚢よりも簡単!「簡易水嚢」を使った浸水対策
浸水を防ぐには、水をせき止めるか、別の方向へ誘導するしかありません。そのために有効なのは“土嚢”ですが、一般家庭で用意するにはハードルが高い。しかし“水嚢”なら身の回りにあるもので、簡単に作ることができます
簡易水嚢は、排水口からの逆流防止として使うことができるという。浸水被害は「あっ」という間に進んでしまうのも特徴なので、家庭内にあるもので対策ができるなら、こんなに心強いことはない。
水嚢の作り方は以下のとおり、至って簡単だ。
簡易水嚢の材料
- 40ℓのゴミ袋
- 水(10ℓ~20ℓ)
簡易水嚢の作り方
1. 40〜45リットル程度のゴミ袋を2枚重ねて、持ち運べる程度の水(10〜20ℓ)を入れる。
2. 中の空気を抜きながら、袋の口をねじりながら2枚一緒に縛る。
簡易水嚢を使った、家の「逆流浸水」対策
ゲリラ豪雨や台風など、大雨の危険性が高まったら、この水嚢を「風呂の排水口」「洗濯機の排水口」の上に乗せたり、トイレの中に入れよう。
特に低地に自宅がある場合は、気象情報で「強い雨」の予報が発表された時点で早めに設置することが大切だ。
※参考:防災システム研究所(台風・ゲリラ豪雨・洪水・土砂災害・落雷・竜巻・特別警報対策)
逆流浸水の水圧はせいぜい1~3㎏程度のため、水嚢の水の量は5L(5㎏)以上であれば防げるといえる。しかし、水嚢を置くとぺたーと広がり重さが分散するので、水は8ℓから10ℓ入れた方が安全だ。
置くだけで防げるのですから、低地の住まいで“危ないな”と思ったらとにかく設置する。避難する際も、自宅の逆流浸水対策をしておくだけで不安要素が減ります。使い終わった後も、中の水はキレイなので浴室の掃除などに使えて無駄にはなりませんし、断水時は煮沸して飲み水にもなります。
あわせて知っておきたい、避難前の浸水対策
ちなみに避難所等への避難で自宅を空ける際は、次の浸水対策を行おう。
① 水嚢を排水口の上に置き、トイレの便器の中にも入れる
逆流浸水が原因の浸水対策も重要です。
② 移動できる家電・電子機器類は2階もしくは高いところに置く
浸水してしまったとしても被害を最小限に抑えられるようにしましょう。
③ 感電防止のためにブレーカーを落とし、電源タップのコンセントを抜いて高い位置へ移動させる
浸水後は建物や電気機器に外見上の損傷がなくても、屋内配線の損傷や電気機器内部の故障により、再通電からしばらくして火災になる場合があるため注意しましょう。
土嚢代わりになる裏技! ダンボール水嚢で「外水氾濫」対策
水嚢の用途は排水口の上に置く「逆流浸水」対策だけではない。ダンボールに詰めて防波堤のようにすれば、家の外からの水の侵入を防ぐこともできる。また、ダンボール水嚢とブルーシートを組み合わせて使えば、より浸水を防ぐことができる。
今回はそんな「強化版」ダンボール水嚢の作り方を紹介する。
ダンボール水嚢の材料
- 40リットルのゴミ袋(4枚)、もしくは2ℓペットボトル(12本)
- 水(20ℓ~40ℓ)
- ダンボール(2箱)
- 大きめのブルーシートやレジャーシート
ダンボール水嚢の作り方
- 大きめのレジャーシートやブルーシートを敷き、その上にダンボール箱を並べて置く。
- ダンボール箱の中に水嚢や水を入れたペットボトルを詰める。
- シートでダンボール箱をひとまとまりに包むと、水嚢のできあがり。
レジャーシートやブルーシートで包むのは、複数のダンボール箱を一つにまとめ隙間をなくすと共に水圧に耐えられる重さにするためだ。さらに止水性を向上させたい場合は、止水板と水嚢を組み合わせよう。
このダンボール水嚢を、マンションなら玄関や地下駐車場の入り口、一戸建てなら道路際や基礎部分の換気口にも置くことで、外からの浸水を防ぐことができる。
特にマンションの地下には、機械室や電気室が集中しています。自宅に浸水被害がなくても、機械室などに水が入れば電気や水道が何日も使えなくなります。大家さんや管理会社への相談や住民同士で協力して事前の準備や対策が必要です。
いざという時のために! 水害に備えて「今」やるべきこと
ゲリラ豪雨や台風など、近年は水害をともなう自然災害が多発している。いざという時のために、普段からできることもあるはず。
ここでは水害対策に焦点を絞って、「今」できることを考えてみよう。
水害対策① 自分の住んでいる土地について知っておく
自治体で発行しているハザードマップを入手し、自分の住んでいる所や近隣がどの程度の危険度か、避難場所までの道などが浸水区域になっていないかなどを確認しておこう。
ここ最近の気候変動を受けて国は平成27年に「水防法等の一部を改正する法律」を施行し、今は1000年に一度の大雨(想定し得る最大規模の洪水)を想定してハザードマップを作成しています。基準が厳しくなっているので、以前は安全とされた場所も、新たに浸水区域に指定されている可能性があります。
つまり常に最新のハザードマップでチェックしないと、リアルな自宅の危険度はわからないということ。
危険でない雨の日に近隣を歩いてみて、水の濁り方や土砂の流れ具合など、荒天時にはどうなるか、状況を把握し備えておくことが大切です。
水害対策② 防災グッズを準備しておく
地震などに比べると、手薄になりがちな水害の防災グッズ。
浸水対策として下記の防災グッズを用意しておこう。
- 簡易水嚢の材料(ゴミ袋やペットボトルとダンボール)
- ブルーシート(またはレジャーシート)
- スマホの防水カバー
- 一週間分の水・食料・非常用トイレ
- 防水のラジオ・懐中電灯
- カッパなどの雨具(風雨が強いと傘は役に立たない)
水嚢の準備はもちろんだが、避難することも考えると「スマホの防水カバー」は必須。
避難が必要になるような雨の場合、下着までびっしょり濡れて、ポケットに入れた携帯が使えなくなることもあります。スマホは親戚・知人との連絡や、情報収集のための命綱。ジップロックでもいいので、防水対策はしっかり考えておきましょう。
また食料や水などの備蓄を用意する際には、ハザードマップに掲載されている「浸水継続時間」もチェックしよう。浸水継続時間とは水が50センチ以上になった地域の水が引いて50センチ以下になるまでの時間のことで、これが続くと外に出られず、籠城期間が長くなってしまう。
大規模災害になると物流は1週間ほど止まってしまうので、水・食糧・非常用トイレ、予備の電池などは最低1週間分ほど備蓄しておくと安心。普段使っている水や食糧を多めに用意しておき、ローリングストック方式(定期的に非常食を食べて、新しく買い足す)がおすすめです。
水害のための防災グッズは、地震や台風などと重なるものも多い。懐中電灯やラジオは防水のものを用意し、大きめのジップロックなどに入れて保管しておけば、豪雨などの際にも使えて便利だ。
水害対策③ 避難場所を調べておく
コロナ以降、避難所の収容人数は少なくなっているので、指定避難所が変わっている可能性もある。ハザードマップには最新の指定避難所が明記してあるので、避難所の場所と経路を、この機会に確認しておこう。
また避難所がすぐ満員になってしまい、受け入れてもらえないケースも増えている。自宅籠城の準備はもちろん、避難させてもらえる親戚・知人の家を確保したり、ビジネスホテルなどの避難場所を考慮したりする必要があるかもしれない。
いずれにしても、「災害→避難所に避難」という構図は崩れつつある。低地や低層階に住んでいる人は、「何かあったら避難所に行けば大丈夫」とタカをくくらずに、さまざまな「分散避難」の避難先を3カ所程度は考えておこう。
「安全は準備に比例」もしものための準備が大事
気候変動により、以前は降らなかったような大雨の頻度が増えた日本列島。「水害」が対岸の火だった時代は終わり、自宅浸水や停電も、いつ、どこで起こるかわからないのが実情だ。
そんな不安を少しでも解消してくれるのが、自宅にあるもので比較的簡単に作れる「水嚢」。本記事で紹介したゴミ袋水嚢のほか、水嚢専用の袋や水分を含むと土嚢のようになる「吸水ゲル水嚢」なども売られている。
昔の職人は“段取り8割”と言って、ほとんどのコストとエネルギーを事前の準備に注ぎました。災害が発生してしまえば、できることはせいぜい2割程度。災害時の命の安全は、いかに真剣に事前対策をしていたかに比例します。
と、山村所長は日頃の準備の大切さを教えてくれた。
災害が「いつ起きても大丈夫」、と思えるような周到な対策をしておこう。
防災システム研究所 山村武彦所長 プロフィール
東京都出身。1964年、新潟地震でのボランティア活動を契機に、防災・危機管理のシンクタンク「防災システム研究所」を設立。以来50年以上にわたり、世界中で発生する災害の現地調査を実施。報道番組での解説や日本各地での講演、執筆活動などを通じ、防災意識の啓発に取り組む。また、多くの企業や自治体の防災アドバイザーを歴任し、BCP(事業継続計画)マニュアルや防災・危機管理マニュアルの策定など、災害に強い企業、社会、街づくりに携わる。座右の銘は「真実と教訓は、現場にあり」。
著書に「台風防災の新常識 災害激甚化時代を生き抜く防災虎の巻」(戎光祥出版)、「感染症×大規模災害 実践的 分散避難と避難所運営」(ぎょうせい)、「災害に強いまちづくりは互近助(ごきんじょ)の力 ~隣人と仲良くする勇気~」(ぎょうせい)など多数。
取材・文=元井朋子