
【解体直前!中銀カプセルタワービル住民アンケート】夢の暮らしはどうやって手に入れる?
中銀カプセルタワービルのご近所へ「住民アンケート」!
2021年春から住民の退去が進み、解体へと向かう名建築「中銀カプセルタワービル」。丸窓のついたキューブを積み上げたような見た目で異彩を放ち、部屋の間取りも個性的とくれば、住民だって少し変わっている。銀座と新橋のあいだの解体寸前のこのビルに、今でも住んでいる(利用している)のはどんな人たちなのだろうか。解体を前に「住民アンケート」を実施し、同じく住民である筆者・ふくいを含む11人が答えた。
中銀カプセルタワービルは近未来を夢見ていた

中銀(なかぎん)カプセルタワービルは、1972年に建築家・黒川紀章(1934~2007)によって設計された集合住宅。丸窓のついたキューブ型のカプセルは10㎡の部屋になっており、ひとつずつ取り換え可能な「新陳代謝する建築」となる予定だった。1960年代に展開したメタボリズム建築の代表ともいわれ、情報化社会や定住に捉われない暮らしを前提としたつくりで、多様な使い方ができる。未来を見通したかのようなこの建物は、49年経った今でも世界中から注目を集めている。

カプセルを訪れた人が言う代表的なセリフは「思ったより狭い」だ。大きな丸窓のおかげで圧迫感はないものの、ユニットバスを含めて10㎡しかない。カプセルの外寸は2.5m×4.0m×2.5m。道路で運べるサイズで、取り外してカプセルごとお引越し!もできるはずだった。

キッチンや洗濯機スペースはなく、ベッドのヘッドボードには、電話に時計にラジオ。オプションでテレビや、当時の最新の音楽機器であるオープンリールデッキがついている部屋もあり、あらゆる情報をここに集結させ、洗濯や炊事をはじめとする家事はアウトソーシングする仕様である。
もうすぐ築50年の「限界マンション」

イカす!しびれる!カッコいい!!!と思うのはここまでだ。よく考えてほしい。「新陳代謝するマンション」として建てられ、カプセルは25年ごとに取り換える構想があったのに、約50年のあいだ大規模な改修もなく今に至っているのだ。「限界マンション」なのである。
劣化が激しく、お湯は出ないし、雨漏りはするし、風通しも悪い。雨が降ると部屋のあちこちにプラカップを置き、除湿機とエアコンを常時稼働させ、シャワーを使わないユニットバスはスーツケースをしまう物置になり、毎晩銭湯へ通う。外壁は隙間だらけで、害虫やネズミとともに暮らし、殺虫剤をふりまく。
DJにスナックのママ……どんな人が何をしている?

ものすごく狭くて、ありえないほど不便。設計を手がけた黒川紀章もびっくりの部屋に住んでいるのは一体どんな人なのか。年齢層はグラフの通り。そのほか、男女比率は圧倒的に女性が多い。職業はメディア関係などカルチャーによった仕事がやや多く、DJ、記者、編集者、WEBディレクター、スナックのママ、主婦、隠居(!)など幅がある。
ご近所づきあいで感じた個人的な見解だが、住民はみな繊細さを持ちながらも憎めない人柄で、住まいのトラブルには非常にタフ。愛しさと切なさと心強さを兼ね備えた魅力的な人たちだ。
わたくし、ライターふくいの住居として利用するカプセル
DJ声さんのカプセルはDJブースがあり、定期的に配信などもおこなう
それぞれの詳しい使いみちを聞いてみた答えは以下の通り

メインの住居としている人は30%にとどまったが、アンケートに答えた半分以上の人のうち70%が寝泊まりするのに利用し、暮らしの拠点にしていることがわかる。
マイカプセルをどのように使っていますか?
呑み会やイベントの開催、時々仕事をしたり、泊まったり。
1人で好きな事をして過ごす。家族とキャンプ感覚で遊ぶ。カプセル住人と遊ぶ。
平日の日中は出社しているので平日夜中と休日、安らぐ場かつ作業場として利用しています。
住居として使用しています。住居カプセルや水回りがあり、シェアハウスではないけど、ちょっと物足りない日は住人に声を掛けたらすぐ会える、共用部多すぎ長屋に住んでいる気分です。朝は管理人さんと挨拶して「いってらっしゃい」をいってもらうのが気に入ってます。
自宅以外のパーソナルなスペースとして利用する人も多いようだ。それぞれに話を聞くと、閉鎖的なひとりの空間を求めて入居したが、想像よりも住民とのコミュニケーションが多く、実際に住んでみると団地や寮のようだったとの声も聞かれた。
雨漏りは突然に。困っていることは?
予想だにしない場所から急に雨漏りが始まる

住民のコミュニケーションが密である大きな要因は、暮らしの不便さだ。配管のトラブルで蛇口から赤い水が出ればLINEで声をかけ合い、ゲリラ豪雨でマイカプセルのドア前に水たまりができれば、ご近所に助けを求める。カプセルのオンボロ具合と住民の交流はセットなのだ。
「暮らしで困ることや不便なこと、その解消法」を尋ねたところ以下のような回答があった。
暮らしで困ることや不便なこと、その解消法は?
水回りが基本死んでいる、お湯がでない、窓が開かない、虫やネズミがでる。それもひっくるめて中銀カプセルだと、菩薩の境地で受け止めて、逆にそのサバイバルを楽しんでいる。とはいうものの住めば都。なんとでもなります。死ぬわけじゃないし。
ゴキブリは私の大敵なので、現れた時はゴキジェットを片手に戦闘体制になりながらスマホで住民を呼び出します。カビも大敵です。雨漏りが多く、換気ができず、湿気の多いカプはすぐにカビの温床になります。スーツがカビだらけだったり、気付いたら天井にふさふさの白カビが出来ていたり。机を開けたら青カビだらけだった住人もいました。
と、ここまで散々愚痴を書きましたが本当のところそんなに不満には思っていません。逆によく耐えてくれているなと愛らしく思えてきたりします。これがここで暮らす困りごとの最強の解消法かもしれません。
未回答を除いて「不便なことはない」と答えたのは、ひとりだけ。多くの住民が不満を多数あげ、それらの最良の解決法が「カプセルへの愛」だと語った。また「トラブル=カプセルでしか体験できないこと」という回答も多く、トラブルをイベントとして楽しんでいるようだ。
快適に暮らすためのカプセル7つ道具

そんなこと言っても実際どうやって解決しているの?という訳で、カプセルで暮らすのに欠かせない道具を聞いてみた。
暮らしの必需品、カプセル7つ道具を教えてください
- エアコン:窓が開かず玄関ドアしかないため換気の意味でつけっぱなしになる
- サーキュレーター:在カプしているときは換気の意味でつける
- 除湿機:梅雨以降、夏は手放せない(つけないと湿度85%くらいになる)
- 温度湿度計:心地よく生活するために
- 布団乾燥機:梅雨以降、夏は手放せない(布団干せないのでダニの温床に)
- お風呂セット:銭湯生活をより快適にするために
- 100均のファイルボックス:窓際の雨漏りを受けるために必要
- 布団乾燥機、衣類乾燥モード付き除湿機、ケトル、珈琲ドリップセット、プロジェクター、水面投影機(プラネタリウムみたいなもの)、酒

水面投影機を映すとカプセルが幻想的に!
必ず住民があげるのは、除湿機と布団乾燥機。カプセル暮らしは常に湿気をはじめとした水との戦いなのだ。中には布団乾燥機を駆使して、雨漏りで濡れたカーペット敷きの床を乾かす人までいる。また、より快適に過ごすために、壁に映画などを投影するプロジェクター、音楽を流すためのレコードやスピーカーなどの答えもあった。
カプセルに求めていたものは…?

丸窓に網戸を貼り付けて、中銀カプセルタワービルを刺繍
カプセルのオーナーが所有していたオープンリールデッキを動かしてみる
丸窓の外を眺めながらのコーヒーを飲んだり、カプセルを自分だけのシアターにしたり。カプセルの日常自体がここでしか味わえない体験だ。最近は解体が迫っていることもあり、住民が思い出づくりにいそしみ、イベントや作品を企画してはカプセル愛を交換しあっている。ここでしか味わえない魅力について聞いたところ、7割以上が「住民のコミュニティ」をあげ、「代替不可能なカプセルの雰囲気」についても言及する人が多かった。
ここでしか味わえないことは?
この個性的な物件に住みたい、という共通点を持った奇遇な人に出会えること。
この部屋の中は時空が違う!狭さゆえに、自分の内面に向き合えるのか、わたしは好きなレコードやソフビを大集合させているのですが、それらの好きなものに向き合える濃度が濃く、時間と空間の在り方がここは異次元だと感じます。
中銀カプセルタワービルを借りているということ以外は、職業も趣味もバラバラな住民たち。理想の住まいや暮らしに共通項はあるのだろうか。「次に住みたい物件」と「憧れの暮らし」を聞いてみた。
次に住みたい物件は?
次もカプセルサイズを体験したいです。
ユニークで個性的な建築物。荒川修作の三鷹天命反転住宅、梵寿綱のラポルタイズミ、荻窪の西郊ロッヂングなど。
平屋建てとか、こぢんまりした一軒家。みんなが集まれるような家に住みたい
憧れの暮らしは?
カプセル生活で複数拠点の旅っぽい暮らしが性に合っていることを再認識したので、日本の各地や海外を3カ月くらいごとに移動しながら生きていきたいです。
都心とカプセル住居の2拠点生活。月一海外旅行。
沖縄の海の前に家を建てる。設計施工全て自分でやりたいな
次に住みたい物件には、部屋の狭さやコミュニティなど、個々の感じるカプセルの魅力が反映された回答がみられた。憧れの暮らしには複数拠点生活や旅をしながら暮らすといった、定住にこだわらない回答が半数以上あった。かつて黒川紀章が考えたコンセプトにぴったりの住民が集まっているということだろうか。
中銀カプセルタワービルとは、なんぞや

中銀カプセルタワービルは形を変えていく。最新鋭の分譲マンションから、限界マンションになり、解体された後はそれぞれのカプセルが美術館での展示などとして世界へ散りばめられる予定だ。「中銀カプセルタワービル」は今後、この建物を愛する人々によるコミュニティへと成長していくのかもしれない。不便でも、退去したいと思ったことは一度もないと語る住民たちにとっても、単なる住まいやビジネススペース以上の存在であることは間違いなさそうだ。
あなたにとってカプセルタワーとはどんな場所ですか?
過酷なネオ桃源郷
時空を超えることができる空間
朽ちながらこれからも成長していくところ
好きなことを追いかける自分を後押ししてくれる味方。また、そんな人々が集まっているホームタウン。
カプセルを出たあとも、いつも心のどこかにカプセルの気配が残っていて、いつか戻りたいなと思ってます。
住む場所が人生を変えるかも?住民から部屋探しのアドバイス
最後に。胸をはって自慢の物件!と言いはる住民たちに部屋探しのアドバイスを聞いたところ、8割以上が「フィーリング」と「思い切り」が大事との答えだった。
素敵な物件に出会いたい人へ
一期一会と運です!あとは見つけた時の思い切り…。
気になることにはまっしぐらに!
内見できるならとりあえず内見!見てみて、無理なら無理だし、ちょっと住んでみたいならいろいろ交渉してみるべし。直観だけじゃなく要検討も重要かもです。
カプセルのように、どこか遠くで旅をしているようなのに人と密に関わり合える物件は、世界のどこかにもあるのだろうか。カプセル住民なら、どこへでも突撃していきそうだけれど。
この記事を読んでくれた皆さんのお部屋探しが成功し、「夢の暮らし」が叶うことを祈る!
協力:中銀カプセルタワービルの住民のみなさん、中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト
イラスト:Kiji-Maru Works
構成・編集:CHINTAI編集部