【民法改正】隣家との付き合い方はどう変わる?「相隣関係」の変更点を解説

【民法改正】隣家との付き合い方はどう変わる?「相隣関係」の変更点を解説

公開日:

「お隣さんから木の枝が伸びてきた……」「隣の空き家が荒れ果てている」など、隣家との間に発生するトラブルは様々だ。2023年4月1日より改正民法が施行し、「隣地の使用」「管理者が不明の土地」に関する規定が見直され、隣家との付き合い方が大きく変わることとなった。

新たな隣家との付き合い方、改正民法のポイントを解説していこう。

隣家とのトラブルを調整する「相隣関係」――民法改正でどう変わった?

隣家との関係を調整するために定められたルール――それが相隣関係(そうりんかんけい)の規定だ。

相隣関係とは、「隣接する不動産の所有者間において、通行・流水・排水・境界などの問題に関して相互の土地利用を円滑にするために、各自の不動産の機能を制限し調整し合う関係」のこと。

一言でいえば、隣家との「持ちつ持たれつ」の関係を指す。

民法では、相隣関係を良好に保つために、囲まれた土地から公道に出るための権利(隣地通行権:210条~213条)や、天災で低地が閉塞した時に水流の障害を除去する権利(水流に関する権利:215条~222条)などが規定定義されている。

相隣関係のよくある困りごととしては、「隣家から伸びてきた樹木の枝をどう処理したら良いのか」「隣が空き家になり、荒廃した場合はどうしたら良いのか」などがある。

近年は、人口減少や高齢化などの影響から、地方だけでなく都市部でも空き家の増加が深刻な社会問題になっている。所有者が不明、または所有者が分かっていても連絡がつかないことから、自治体や事業者が土地を有効利用する際の妨げになるほか、民間でもトラブルが多発するようになってきた。

このため、土地の円滑な利用と隣地間のトラブル解決をスムーズに進めるべく、民法の相隣関係規定も見直されることになったのだ。

今回の民法改正では、相隣関係について、次の3項目が見直された。

・隣地使用権
・ライフラインの設備、設置使用権
・越境した竹木の枝の切除問題

3つのポイントを解説しつつ、「新たに行使できるようになった解決策」と「その解決策を行使する際の注意点」を見ていこう。

隣家の土地を使用できる「隣地使用権」とは?

建物を建てたり、修繕したりする場合は重機を運び入れたり、足場を組んだりすることがある。作業を進めるにあたり、隣の土地に入らざるを得ないこともあるだろう。

また、自分の家から隣へ伸びてしまった枝葉を切り落とすときも、同様に隣地を使わざるを得ないケースがある。そんな場合、一定の条件で隣地を使用できることを定めたものが「隣地使用権」だ。改正前の旧民法では次のように定められていた。

土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる。 ただし、隣人の承諾がなければ、その住家に立ち入ることはできない。

民法(改正前)第209条1項

この旧民法にのっとると、隣地の所有者・使用者が不明だったり、関係が良好でなかったりした場合は隣地が使用できない。これにより、新築工事や修繕、木の剪定に支障をきたすこともあった。

そこで行われたのが、今回の改正である。新たに定められた行使方法に従うなど一定の条件の下であれば、隣地の所有者や使用者の承諾がなくても隣地を使用できるようになったのだ。

隣地を使用できる条件、方法をチェック

民法改正により、隣地を使用できるのは以下のようなケースだ。

・境界またはその付近における障壁又は建物、工作物の築造、収去、修繕
・境界標の調査、境界に関する測量
・木の枝の切り取り

隣地を使用するためのアプローチ

使用の目的や日時、場所、方法を隣地の所有者及び使用者に通知する。また、合理的な調査を尽くしても所有者の所在が分からないなどの理由で、事前に通知することが難しい場合は、使用後に所有者が判明した段階で速やかに通知すればよい。

隣地を使用する際の注意点

使用する日時や場所、方法は、隣地の所有者や隣地を現に使用している者にとって、損害が最も少ない方法を選ばなければならない。使用によって損害が発生した場合、その損害に応じて賠償金を支払わなければならない。

改正民法では、隣家の承認を得られない場合に、隣地使用権を行使するための条件が明確化された。これにより、従来に比べて隣家トラブルを解決しやすくなったことは間違いないだろう。

但し、 「隣地所有者の権利を尊重しながら利害関係を調整する」という基本的な考え方は変わっていない。隣地使用権を行使しやすくなったとはいえ、あくまで隣地は所有者のものである、という点は押さえておこう。

ガベル
隣地の使用条件が明確になった

民法改正で「ライフラインの設置」「枝の切除」が可能に!

変更ポイント1:民法でようやく「ライフライン」が規定された!

民法が制定されたのは明治29年(1896年)で、施行されたのは明治31年(1898年)。当時としては西欧の法律を参考にした先進的なものだったが、その後時代の変化に応じて様々な改正がなされてきた。一方で、「相隣関係」については、120年の間改正がなく、現代にフィットしない条項が置き去りとなっていた。

その一つが、今回の改正で新設された「継続的給付を受けるための設備(以下「ライフライン」という)に関する条項」だ   。

ライフラインとは?

改正民法で関連規定が整備されたライフラインとは、一般的には電気や水道、ガス、電話やインターネットといった現代社会に欠かせないインフラのことを指す。現在、建物を建てる際にはこのライフラインを新たに引き込む必要がある。公道にある送電線や水道管から建物、私有地にライフラインを引き込む際、隣地を通ったり、他人が所有する設備を利用したりしなければならない。

そこで、次のような「ライフラインの設置・使用権」が新たに定められた。

他人の土地や設備を使用しなければ、電気、ガス、水道の供給やそれに類する継続的給付を受けられなない土地の所有者は、必要な範囲で「他人の土地に設備を設置する権利」「他人の所有する設備を使用する権利」がある。

ライフラインの設置にともない隣地を使用する際の注意点

前述のとおり、ライフラインを設置する際に使用する場所・方法は、他人の土地や設備にとって「最も損害が少ないもの」に限られる。また、土地や設備の所有者にあらかじめ「目的、場所、方法等」を通知することが求められる。

(213条の2、2~3項)

さらに、次のような場合には土地や設備の所有者に償金を支払ったり、費用金銭を分担負担したり することが求められる。

・設備設置、使用工事のために一時的に土地を使用する損害に対する償金
・設備の設置により土地が継続的に使用できなくなることによる損害に対する償金

これは、インフラ工事で他人の土地を使用することで発生した損害や、設備の使用を停止したことで生じた損害を補償しなければならない、ということだ。

変更ポイント2:隣地から伸びてきた枝が切れるようになった!

これまで、隣地から伸びてきた枝葉は勝手に切ることはできなかった。しかし、根が敷地を超えて伸びてきた場合は、隣家に事前通告すれば切ってもOK――民法をかじった人には「あるある」の謎ルール。

このため、隣家の人にお願いしても枝葉を切ってくれない場合は裁判を経て強制執行などの手続きを取る必要があった。「隣家から伸びてきた枝のカット」は実に悩ましい問題だったのである。

今回の民法改正により、隣地から越えてきた枝を(木の所有者に切るよう請求するだけでなく)自分で切ることもできるようになった。これは画期的な改正だが、もちろんいくつかの注意点がある。

枝を切る前に、ココだけは注意!

改正により、隣地の木の枝を自分で切ることができる。ただ、それは以下のケースに該当する場合だ。

・樹木の所有者に切ることを催告したのに、相当期間内に切除してくれない場合
・樹木の所有者が不明な場合(所在が不明な場合も含む)
・急迫の事情があるとき

改正されたからといって、勝手にガンガン切れるわけではない。あくまで、所有者にお願い(催告)をしたにも関わらず、切ってくれない場合や木の所有者が分からない場合などに限られる。

「相当期間内」はケースバイケースだが、最低でも2週間程度と考えておけば良いだろう 。「急迫の事情」とは、台風や豪雨などの自然災害で、急いで切らなければ被害が想定される場合と考えておこう。

所有者不明土地、ゴミ屋敷に対処できる新制度スタート

ここまでは、隣家に人が住んでいる場合の相隣関係を良好に保つための民法改正のポイントについて解説してきた。一方で、隣地の所有者がはっきりせず、交渉を進められないケースもある。

いわゆる「ゴミ屋敷」と隣り合うことで住環境が悪化したり、雑草や害虫が発生したり、建物が倒壊する危険が高まったり、長期の空き家が治安の悪化を招いたり……隣家の荒廃によって起こるトラブルは数多い。

この問題を解決するために、改正民法に基づいてスタートしたのが「所有者不明土地・建物管理制度」「管理不全土地・建物管理制度」 だ。制度ができた背景と内容、トラブルの解決について見ていこう。

所有者不明の土地は、どれだけ増えている?

近年は、土地を相続した人が相続登記や住所などの変更登記を行わないケースが増えており、「所有者不明土地」が急増している。

国土交通省の調査によると、不動産登記簿上で所有者が確認できない土地は全国の約22%、10年前と比べて倍以上増えている。さらに調査しても所有者が不明の土地は約0.44%に及ぶという*。

土地や建物を購入した場合に「隣家が空き家、空き地」となるケースは決してレアケースではなくなっているのが現実なのだ。

*出典:「所有者不明土地法について」(国土交通省 土地・建設産業局 令和元年10月)

空き家
所有者不明の土地は、この10年で倍増している

「所有者不明土地・建物管理制度」とは

こうした所有者不明土地は、住環境や治安の悪化を招いたり、防災対策や再開発の妨げになったりすることもある。そこで、改正民法で定義され新たに創設されたのが「所有者不明土地・建物管理制度」だ。

これは、土地や建物の所有者でなくとも、その土地や建物を管理する権利を申請できるもの。この制度によって所有者が不明な土地・建物を管理することが可能になった。

「管理不全土地・建物管理制度」とは

また、土地や建物の所有者が分かっていても、適切に管理されずに荒廃・老朽化が進んで周囲に危険や損害を与えている土地・建物もある。いわゆるゴミ屋敷への対処を可能としたのが、「管理不全土地・建物管理制度」だ。

管理不全土地・建物とは、「所有者によって適切に管理されずに荒廃・老朽化が進んで周囲に危険や損害を与えている土地・建物」を指す。

この制度で、管理が行き届いていない土地や建物の管理について、裁判所に本制度利用の申立てができるのは、あくまで「管理不全土地・建物の管理についての利害関係を有する」者のみ。先に挙げたように、不適切な管理によって不利益を被る恐れがあったり、実際に被害を受け被ったりしている場合に限られる。「利害関係」の有無については、事案ごとに裁判所が判断を下すことになる。

両制度によって管理できる範囲は?

所有者不明土地・建物管理制度または管理不全土地・建物管理制度について、裁判所への制度利用の申立てが認められた場合に、「管理人」が行えるのは、土地や建物の「保存行為及び土地・建物の性質を変えない範囲内での利用・改良行為」となる。具体的には、ゴミの撤去や害虫の駆除、破損が生じた壁の補修工事などを指す。

また、所有者不明土地・建物管理制度においては、所有者の同意がなくとも裁判所の許可を得れば、土地や建物を処分することができる。 他方、管理不全土地・建物管理制度においては、所有者の同意がなければ土地・建物自体を処分することはできない。

土地所有者に、管理を妨害された場合

「管理不全土地・建物管理制度」により裁判所から「管理人」に選任されたとしても、ゴミ屋敷の所有者に管理を妨げられる可能性もある。

このようなケースでは、従来通り、町内会や役所に相談して、改善を促してもらうことが必要となる。相談する際は、管理不全土地の所有者、ゴミの状況、溜まり始めた時期、自分の敷地への浸食状況などの被害状況をまとめておくとよい。それでも、改善がみられない場合は訴訟によって対応を考えていくことになる。

改正民法を押さえつつ、隣人とは円滑な関係を心がけて

今回の民法改正により、隣家とのトラブルや困りごとの解決が進めやすくなったのは確かだ。ルールに則って、越境した枝葉を切れるようになったのはその典型だろう。ただ、伸びてきた枝を勝手に切ったり、ゴミを勝手に捨てたりしていいわけではない。

新たに認められる対応手段も、土地や建物の所有者と交渉を試みて、それでも連絡がつかなかったり、緊急だったりした場合に限られることを押さえておこう。これまでと同じように、普段から隣家とコミュニケーションを心がけ、良好な関係を築いておくことが大切だ。

監修=大江橋法律事務所
文:佐々木正孝

CHINTAI編集部
CHINTAI編集部

1992年創業、お部屋探しや生活の情報を発信してきた株式会社CHINTAIが運営するWebメディア。引越しに関する情報はもちろん、家事や家計、季節の楽しみなど日々を豊かにする知識を調査・ご紹介。
不動産店舗での業務経験者、宅建試験合格者などお部屋探し分野のプロも活躍する編集部が、新生活に役立つ情報をお届けします。

リンクをコピー
関連記事関連記事