賃貸物件の申し込み後にキャンセルできる? 契約書を交わす前なら問題ない?【CHINTAI法律相談所】

賃貸物件の申し込み後にキャンセルできる? 契約書を交わす前なら問題ない?【CHINTAI法律相談所】

公開日:2022年11月22日

賃貸物件に関する疑問に弁護士がアドバイス

賃貸にまつわるトラブルや疑問について解説する【CHINTAI法律相談所】。

入居前から入居中、退去時まで、さまざまなタイミングで発生しやすい賃貸トラブル。その疑問や対応について、不動産トラブルに強い瀬戸仲男弁護士に聞いた。

賃貸トラブルは、いつ巻き込まれてしまうかわからない。現在トラブルにあっている人だけでなく、これから賃貸物件を借りる予定の人もぜひ参考にしてほしい。

瀬戸仲男さん
瀬戸仲男 弁護士

「アルティ法律事務所」所長。東京弁護士会、および東京簡易裁判所・民事調停委員に所属。顧問弁護士業務や遺産相続など取扱分野は多岐に渡り、特に不動産問題に精通している。弁護士になる前に不動産会社に勤務しており、不動産業界・実務にも詳しい。テレビやラジオなど多数のメディアに出演し、不動産関係の講演も行っている。
アルティ法律事務所 公式HP

Q.賃貸物件の申し込み後にキャンセルは可能? 

賃貸物件の入居申し込みをした後、より気になる物件を見つけてしまった……。申し込み後でもキャンセルできる? 契約書を交わす前なら違約金とかは取られない?

A.申し込みしただけならキャンセル可能。金銭の支払いも必要なし!

そもそも賃貸物件を借りる場合は、まず入居申し込みを行い、入居審査を受ける。審査に通れば、重要事項説明を受けた後に正式な賃貸借契約を結ぶ。

つまり入居申し込みは部屋を借りる第一歩目であり、キャンセルしても法律上は原則的に問題ない。キャンセル料が発生することもないし、賃貸借契約自体が未成立=存在してないため、違約金を請求されることはない。

不動産仲介会社に支払っていた預かり金も、全額が返金される。もし預かり金の返還を拒否されたとしたら、それは宅地建物取引業法に違反している。申し込み時の書類に「キャンセル時は返金なし」と書かれていたとしても、法的には返還する義務がある。仲介会社が返金してくれない場合は、消費者センターや都道府県の不動産業指導課である監督官庁などに相談しよう。

気をつけたいのは、仲介業者が「諾成契約(だくせいけいやく)」を主張した場合だ。諾成契約とは、当事者間で合意の意思表示によって交わされる契約方法。契約書を交わしていなくとも、口頭の合意で「契約が成約した」とみなされる。

しかし、売買・貸借・交換といった不動産の取引では宅地建物取引業法35条によって、重要事項説明書を交付して説明し、書面に記名・押印しなければならないと定められている。賃貸物件の申し込みをしただけで、諾成契約が認められることはない。

そのため「諾成契約をした」と主張され、契約書への署名・捺印を求められても、従う必要はない。毅然とした態度で断ろう。

なお、例外的に「契約締結上の過失」によって損害賠償義務が生ずることがある。入居申し込み時の言動で大家さん側に損害を生じさせた場合、その損害賠償責任を負うケースもまれにあるので、注意が必要だ。

契約書を交わした後のキャンセルは物件の解約と同じ扱いとなる

注意すべきは賃貸借契約を交わした後のキャンセル。今回のケースでは該当しないが、もし申し込みだけではなく、後に契約まで締結していたら、入居前であっても無条件のキャンセルはできない。入居者が退去するときと同じ解約扱いとなる。

当然、礼金や仲介手数料は戻ってこないし、「賃貸借契約の解約通知は1ヵ月前まで」と定められているなら、当月分の日割り家賃と翌月分の家賃も返金されない。もし解約通知を「2ヵ月前まで」としているなら、翌々月の家賃も支払う必要がある。

ただ、部屋が未使用であるため、敷金や鍵の交換費はそのまま返金される可能性が高い。火災保険料も保険会社へ連絡すれば、一部未経過分を返してもらえるだろう。

このように契約前ならキャンセルできるが、もちろん不動産仲介会社に喜ばれる行為ではない。賃貸物件の申し込みをするときは基本的に契約する前提で依頼するべき。キャンセルをする場合はできるだけ早く連絡し、きちんと謝罪することが大切だ。

ここがポイント!

賃貸物件の申し込みをしても、契約前であれば原則としてキャンセルできます。預かり金も全額返金されます。不動産仲介会社が返金を拒否したら法律違反にあたるので、その旨を指摘して返金を求めましょう。それでも対応してくれない場合は、消費者センターや監督官庁などに相談してみてください。

覚えておきたい法律用語「諾成契約」

当事者の意思表示のみで成立する契約のこと。メールやLINEなど電子上における文面でのやりとりでも、諾成契約は成り立つ。

民法ではほとんどの契約を諾成契約とみなし、賃貸借契約も諾成契約とされている。しかし、賃貸借契約の場合は宅地建物取引業法によって重要事項説明(宅建業法35条)と、それに付随する賃貸借契約書への捺印・記名が必要となる。そのため、諾成契約が認められることはない。

宅地建物取引業法第35条
宅地建物取引業者は、宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の相手方若しくは代理を依頼した者又は宅地建物取引業者が行う媒介に係る売買、交換若しくは貸借の各当事者(以下「宅地建物取引業者の相手方等」という。)に対して、その者が取得し、又は借りようとしている宅地又は建物に関し、その売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、少なくとも次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面(第五号において図面を必要とするときは、図面)を交付して説明をさせなければならない。

宅地建物取引業法 – e-Gov法令検索

当然、賃貸物件の申し込み時点では「契約が成立した」とみなすことはできない。「文面として残っている」と言われても、キャンセル料や違約金を支払う必要はない。

取材・文=綱島剛(DOCUMENT)

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