【弁護士監修】敷金・礼金とは?ゼロゼロ物件はお得?法的トラブルを避けるための賃貸契約の基礎知識

この記事では、弁護士監修のもと、「敷金・礼金」の役割や返還の仕組み、そして「ゼロゼロ物件」の特徴をわかりやすく解説する。契約時や退去時のトラブルを防ぐために、この記事で要点を押さえておこう。
このページの目次
敷金と礼金の違いを明快に解説!
ここからは、賃貸物件を契約する際に発生する「敷金」と「礼金」の違いを解説していく。
敷金と礼金の違い
賃貸物件を契約する際に発生する「敷金」と「礼金」は、それぞれ異なる目的を持つ初期費用だ。
敷金は、入居者(借主)が大家さん(貸主)に預ける保証金のようなもので、家賃滞納時の充当分や退去時の原状回復費用などに使われる。契約が終わると、これらの費用を差し引いた残りが返還(残りが足りない場合は追加請求)される仕組みだ。
一方、礼金は大家さんへの謝礼として契約時に支払われるもので、基本的に返還されない。
なお、2020年の民法改正により、敷金の返還ルールがより明確になった。契約が終了し、物件が大家さんに返された時点で、大家さんは入居者に敷金から必要な費用を差し引いた残額を返還する義務を負う。
返還の有無 | 目的 | 金額の目安 | 支払いのタイミング | |
---|---|---|---|---|
敷金 | 家賃滞納や原状回復費用などを差し引いた残りが返還される(不足する場合は追加で請求される) | 退去時の清掃費用や家賃滞納など、借主の支払い義務を担保するための保証金 | 家賃の1~2ヵ月分 | 契約時に支払うが、敷金は退去時に精算される |
礼金 | 貸主への謝礼のため返還されない | 契約成立への感謝や権利金 | 0.5~2ヵ月分程度 | 契約時に支払う |
敷金は2020年の民法改正で法的に明確なルールが設けられた。一方で、礼金は法的な定義がない慣習的なものだ。関西など地域によっては「保証金」や「敷引き(敷金の一部を返還しない特約)」の仕組みのところもある。
物件情報には「敷金・礼金がいくらか」の記載がありますが、金額の交渉自体は可能と考えられます。ただ、民法には「契約締結自由の原則」があります。先方も「交渉に応じない自由」を持っていますので、入居したい場合に減額を断られてしまえば、それ以上の交渉は難しいと思われます。
敷金は返ってくる?よくある敷金(礼金)トラブル

敷金は原則として返還されるものと解説したが、実際には退去時の精算をめぐってトラブルを招くこともある。例えば、費用の内訳や精算方法について、借主と貸主の間で意見が食い違うというケースだ。
坂東先生によれば、特に「退去時に高額な原状回復費用を請求され、結果的に敷金が充当されてしまい戻ってこない」という例が多いとのこと。トラブルを避けるため、何が入居者の負担となるのか、賃貸借契約書をよく確認しておこう。
何の費用が入居者の負担となるかは、最近では賃貸借契約書に細かく記載されている場合が多いため、事前に内容を把握しておくことが必要です。その上で、賃貸借契約上の入居者の義務とは言えないような部分が請求されていないか確認するべきでしょう。
退去費用の精算については、下記記事でも詳しく解説しているが、契約書の確認に加えて、入居時・退去時の部屋の状態をしっかり記録しておくことが重要となる。
ゼロゼロ物件のメリットとチェックしたいポイント

「ゼロゼロ物件」とは、敷金や礼金がかからない賃貸物件のこと。初期費用が少なくて済むため、特に若い人や初めて部屋を借りる人から人気を集めている。一方で、気をつけるべきデメリットもあるので注意が必要だ。背景や注意点を詳しく見ていこう。
ゼロゼロ物件が一般化した背景
昔に比べ、ゼロゼロ物件は一般的になっている。その背景には、賃貸市場や入居者の状況に関する変化がある。
- 賃貸市場の競争が激化し、空室率が高まる中で、入居者を確保するために敷金や礼金を不要にするケースが増えた
- インターネットの普及により物件情報を簡単に比較できるようになり、初期費用が安い物件が選ばれやすくなった
- 家賃保証会社の利用が広がったことで、敷金がなくても大家さん側のリスク(主に家賃滞納)をカバーしやすくなった
- できるだけ初期費用を抑えたい若年層のニーズが高まったこと
これらの要素が、ゼロゼロ物件の人気を支えているといえる。
ゼロゼロ物件のメリットと注意点
ここからはゼロゼロ物件のメリットと注意点を紹介する。
メリット
ゼロゼロ物件の代表的なメリットは次の3点だ。
- 初期費用を軽減できる
- 短期入居の場合、総コストを抑えやすい
- 引越しのハードルが低く、住み替えがしやすい
ゼロゼロ物件は、敷金や礼金がかからないため、初期費用を抑えられるという大きな魅力がある。このことから、特に引越しにかかる費用をできるだけ減らしたい若い世代や、短期的に住み替える予定がある人にはぴったりだ。引越しのハードルが低いため、気軽に住み替えを考えられる点もメリットといえるだろう。
注意点
ゼロゼロ物件には注意が必要な点もある。代表的なものは以下のとおりだ。
- 家賃が割高に設定されている場合がある
- 敷金と相殺されないため、退去時に支払うクリーニング費用が高額に感じられる
- 家賃保証会社への加入が必須となる場合が多い
初期費用が抑えられている分、家賃が割高に設定されていることや、退去時に入居者が負担すべきクリーニング費用を全額請求されるため、敷金を預けていた場合に比べて高額に感じる可能性もあることは、押さえておきたい注意点だ。
ほかにも、敷金がないことで「家賃保証会社への加入が必須」となり、その分の費用が初期費用として別途かかったり、「管理費」や「更新費用」などが高額に設定されている場合もある。
こういった予定外の請求により、大家さんや管理会社とトラブルになることもあるだろう。
思わぬ出費を避けるには、契約前に賃貸借契約書を丁寧に確認し、不明点は大家さんや不動産会社にしっかり質問することが大切だ。
トラブルを未然に防ぐために大切なのは、入居時及び入居後に「契約~退去で総額いくら支払う必要があるのか」をしっかりと把握することです。契約締結時に疑問に感じたことを確認せずに契約してしまっても、後から取り消すことはできないのが原則。契約締結時に疑問を解消しておきましょう。
ゼロゼロ物件以外に初期費用を抑える方法って?

敷金や礼金が不要なゼロゼロ物件について解説してきたが、初期費用を少しでも抑える方法は他にもある。
フリーレント物件を探す
フリーレントとは、契約開始後の1~2ヵ月間など特定の期間の家賃が免除される仕組みのこと。フリーレント物件を選ぶと、一定期間の家賃が無料になるため、その分を初期費用に充てることができる。空室対策として提供する特典で、初期費用を大幅に抑えたい人には魅力的な選択肢となるだろう。
仲介手数料を確認する
不動産会社に支払う仲介手数料は金額が法律で定められており、家賃半月分(+税)が基準。上限額となる仲介手数料を1ヵ月分としたい場合には、不動産会社から事前の説明を行い、合意を得ることが義務付けられている。仲介手数料が無料の物件も存在するので、そうした物件を探すのも一つの手だ。
長期的コスト削減を考える
初期費用だけでなく、長期的なコスト削減を考えるアプローチも効果的だ。インターネット無料や家具家電付きの物件、共益費が家賃込みになっている物件を選ぶことで、後々の生活費を抑えることもできるだろう。
初期費用のポイントを押さえて、スマートな賃貸生活を

初期費用を抑えたい――これは、お部屋探しをする多くの人にとって素直な思いだろう。しかし、安さだけを優先してしまうと、思わぬトラブルに巻き込まれるリスクもある。そのため、物件や契約条件をしっかり比較し、総合的に判断することが大切だ。
「ゼロゼロ物件」という仕組みは、初期費用を抑えられる点で魅力的な選択肢になる。一方で、認識しづらいコストや特有の契約条件の存在も理解しておきたい。契約前には不動産会社からの説明をしっかり確認し、自分にとって最適な物件かどうかを慎重に見極めよう。
賃貸市場の変化により、ゼロゼロ物件は今後さらに増える可能性がある。だからこそ、メリットだけでなくリスクにも目を向けることが大切だ。正しい知識をもって契約に臨めば、納得のいく物件選びができ、快適な新生活を楽しめるだろう。
ゼロゼロ物件は、初期費用を抑える効果を持つことから、入居者にとってはお得感があると思います。しかし大家さんから見ると、敷金礼金ありの物件に比べてリスクがあるため、そのリスクを回避したいという欲求が出てきてもおかしくありません。契約の全体像を掴んだうえで、契約を締結するかどうか判断しましょう。
文=佐々木正孝(キッズファクトリー)