子供部屋っていつから必要?個室デビューのプロセスを早稲田大学の佐藤先生に聞いてきた

公開日:2018年5月23日

子供部屋って与えたほうがいいの? いつからデビューさせるべき?

リビングで勉強する子供が増えているという昨今、「子供部屋を作るベストなタイミングは?」「いつから寝室を分ければいいの?」と疑問に思う人も多いだろう。

子供部屋デビューは、「トライ&エラーを繰り返し、行きつ戻りつしながら実現するもの」。そう語るのは、早稲田大学人間科学術院の准教授であり、建築計画研究・こども環境学の専門家である佐藤将之先生。今回は、佐藤先生に「子供部屋に対する考え方」と「デビューまでのプロセス」を聞いた。

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子供部屋に対する考え方のポイント

ポイントはこちら。

・ここ最近は「子供専用の個室」にたいする需要はなくなりつつある
・いきなり個室を与えるより、リビングなどの一角を「子供用スペース」をにするほうが安心
・子供部屋は家の中心に作る
・個室を与えるタイミングは、子供の様子を見極めたうえで決める

以下で詳しく説明しよう。

なくなりつつある子供用個室の需要

「もともと日本では戦後の団地ブーム以降、1フロアをいくつかの小部屋に分けて子供と大人それぞれに個室を作るのが主流だった。しかし近年は個室の数を増やすよりも、大きなリビングのある部屋の人気が高まっているんです」と佐藤先生。

「以前は子供の小学校入学を機に、子供部屋を確保するために2LDKもしくは3LDKの部屋へ引っ越す人が多かった。しかし最近はダイニングテーブルで宿題をしたり、リビングの片隅に子供用スペースを作ってそこで勉強をさせる家庭が増えているため、個室の需要がなくなりつつあるんです」と佐藤先生は話す。

親がそばにいるという安心感が、勉強のやる気を出させることもある
親がそばにいるという安心感が、勉強のやる気を出させることもある

リビングが広い物件の人気が高まってきたことにより、リビングの一部を子供用のスペースにしている家庭が増えているようだ。

ここからは、リビングの一角を子供用スペースにする具体的な方法や、子供から「自分の部屋が欲しい」といわれた場合の個室デビューのプロセスについて、佐藤先生が教えてくれたポイントを紹介していこう。

①. リビングに子供専用スペースを確保するには?

佐藤先生いわく「子供にとっての生活の土台は、①カバン(ランドセル)の置き場、②勉強の場、③寝る場所の3つ。特に小学校低学年は、帰宅したらリビングに直行し、そのまま宿題をするというパターンが多いので、親の管理がしやすいリビングに勉強スペースを作ってあげるのがベストです」とのこと。

少し余裕があれば、リビングの片隅に机を置き、勉強道具や教材が入る棚も設置できれば、子供専用スペースの出来あがりだ。

「もし余裕がなければ、勉強道具が入れられる棚だけを置いて、ダイニングテーブルで勉強する形でも問題ありません。小学校に入ったばかりの頃は一人で自室にこもって宿題をするよりも、わからないことがあったらすぐ親に聞ける環境の方が勉強がはかどり、勉強の習慣も無理なく身につきます」(佐藤先生)

「そのうえ親も勉強している姿を見て安心できるというメリットもあります。そのため子育て中のファミリーにとっては個室を用意するよりも、広いリビングのなかに子供専用のスペースが確保した方が安心で便利なのです」と佐藤先生は言う。

みんなが生活する場に自分のスペースができることで、子供は安心する
みんなが生活する場に自分のスペースができることで、子供は安心する

②. 手始めに寝室を分けるなどして、徐々に個室に慣れさせよう

「子供が『自分の部屋がほしい』と言い出したら、たとえば最初は自室で寝ることから始めて、勉強や生活基盤はリビングのまま残す。そのうち生活基盤を自室に移して……と段階を踏んで子供部屋への移行を進めるのが最もスムーズな方法です。ある日突然距離を取るのではなく、少しずつ段階をふんで子供部屋へ移行する方がいいでしょう」と佐藤先生。

たとえばリビングでの勉強スペースも、突っ張り棒に暖簾やカーテンをかけたり、パーテーションのような棚を新しく置いたりして、プライベート感があるスペースにしてあげる。するとキッチンからでも子供が何をしているかも何となくわかり、子供の気配も感じられて安心だ。

いきなり個室を与えるのではなく、カーテンなどの仕切りで子供のプライベートスペースを作ったほうが親の目も届いて安心
いきなり個室を与えるのではなく、カーテンなどの仕切りで子供のプライベートスペースを作ったほうが親の目も届いて安心

佐藤先生いわく「DIYが可能な物件なら、子供と相談しながら一緒に棚を作ったり、プライバシーが確保できる勉強スペースを作ることもできる。子供も納得したスペース作りができれば満足度も高まり、より学習への集中が期待できます」とのこと。

③. トライ&エラーを恐れないことが大事

子供部屋を与える時期に関して、親はどうしても「中学生になったら個室へ移行した方がいいのではないか」「川の字で寝るのは小学生まで」などと最初から決めつけがちだ。

佐藤先生によれば、「“ベッドを試しに個室に移動させて一人で寝てみる”“ひとまず自分の部屋で一人で勉強してみる”といった、お試し期間を設けるべきだと考えます。そして“やっぱり一人で眠るのは怖い”“個室だと勉強に集中できない”となったら、また前の状態に戻してみる、このトライ&エラーを面倒くさがらないことが大切です」とのこと。

日々の生活に忙しい親は「決めたことを遂行する」ことを重要視して、子供のサインを見過ごしがち。「生活の形態を変えるのは子供にとっても大きな冒険であり、ストレスを感じることもある。少しずつ変化させ、失敗したら1ステップ戻せばいい、と大らかに考えてフレキシブルな対応をしましょう」と佐藤先生は言う。

個室を与えてみてストレスが溜まっているようならまた元に戻せばOK。性格や成長度合いに合わせて柔軟に対応しよう
個室を与えてみてストレスが溜まっているようならまた元に戻せばOK。性格や成長度合いに合わせて柔軟に対応しよう

④. 子供部屋は家の中心に作るのがおすすめ

「子供部屋を作るときは玄関から直接行けるところではなく、必ずリビングを経由して入れる部屋にしましょう。親の顔を見ることなく玄関の出入りが自由になると、“友人が勝手にあがりこむ”“知らない間に外出する”など親が想像しないことが起こり得ます。誘拐監禁や殺人事件などを犯した青少年の部屋は、多くが親に会わずに直接玄関から自室に入れる“独立性の高い部屋”だったという専門家もいるんです(※)」と佐藤先生。

子供の体調や精神状態を推し量るのも、顔を見なければなかなか難しい。「監視する」のではなく「見守る」ために、家の中心に子供部屋を配置しよう。
※『子供をゆがませる「間取り」』横山彰人著

子供を見守るのは親の仕事。子供部屋を作る位置にも心を配ろう
子供を見守るのは親の仕事。子供屋を作る位置にも心を配ろう

個室を与えるタイミングはそれぞれに適した時期に

いつかは「子離れ」「親離れ」の時期は訪れる。

佐藤先生いわく「でもそれは小学校入学や中学校入学といった社会通念的なカレンダーに従う必要はありません。たとえばヨーロッパでは、我が子が幼いと思えば、小学校入学時期を1年遅くすることもでき、それによって劣等感を持つこともないのです。日本でもそのシステムを導入すべきとは言いませんが、せめて家庭内で子供に個室を与えるタイミングは子供の成長度合いを観察した上でそれぞれが適した時期と思える時に合わせてあげたい」のだそう。

「精神的にも成長が早く、本人が個室を必要としているなら(また親がふさわしいと思えば)、就学前からでも個室を与えても良いでしょう。全ての活動を個室で行う必要はなく、段階的に活動を移行してあげたりしながら。しかし本人が甘えん坊で個室はほしがらず、学習管理もできないようなら、中学生であっても個室は必要ないかもしれません。大切なのはその子に合った与え方なんです」(佐藤先生)

ただ子供がリビングにいれば、親は世話を焼き、子供も甘えたままという「親離れ・子離れ」が進まない傾向もある。「自分の部屋(場所)を管理する」というマネジメント能力を育てるうえでも、適した時期に部屋や個人スペースを与えて、子供自身に管理させることは必要だろう。

個室には、子供のマネジメント能力を育てる役割も持たせられる
個室には、子供のマネジメント能力を育てる役割も持たせられる

子供部屋への移行はゆっくり・じっくり

子供部屋は必ず与えなければいけないものではない。小さな頃からリビングでの勉強を続けていると、中高生であってもリビングで勉強する子供が多いようだ。

「幼い頃から家族みんなでリビングで過ごす癖がついていると、場を共有することに抵抗がなくなるのではないかと私は考えています。結果、中高生になっても個室を欲しがらないという声もよく耳にしますね」と佐藤先生。

そうした子は、リビングでみんなと過ごし勉強もする。兄弟共有の部屋で着替えや明日の学校の用意をして、寝るときは家族全員で寝るという生活だそうだ。このように目的別に部屋が用意できるのも、実は非常に贅沢で余裕がある家づくりともいえる。

部屋を借りるときには、「子供が2人いるから2LDK以上ないといけない」「兄弟が男女だから子供部屋は分けないといけない」などと杓子定規に考えず、子供の成長に合った部屋選びをすればいい。そこに賃貸で子育てをする強みもあるのだから。

これだからこう! ということはない。それぞれに合う部屋の活用を
これだからこう! ということはない。それぞれに合う部屋の活用を

小学校入学や受験など、ライフイベントに合わせて考えがちな子供の個室への移行。親は「親離れ・子離れの節目」のように考え、つい焦ってしまうもの。しかし個室を欲しがる時期も子供によって違い、必要ないと考える子も実は多い。「こうあるべき!」と考えるのではなく、それぞれの子供に合った時期に、子供に合った方法でゆっくり・じっくり行おう。

教えてくれたのは?

佐藤将之 准教授

早稲田大学人間科学学術院准教授。1975年秋田生まれ。秋田高校、新潟大学工学部卒業、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了。江戸東京博物館委嘱子ども居場所づくりコーディネーター等を経て現職。2男児の父。

文=元井朋子

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