江戸川区・小岩――東京イーストサイドに息づく昭和ノスタルジックタウン

公開日:2017年5月29日

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昭和レトロな面影を残した街を訪れると、シブい個店の佇まいや、古めかしい看板など“懐かしさ”を発するエッセンスがいたるところに散りばめられていることに気がつきます。クールでモードなクリエイティブタウンではない、ともすれば野暮ったい。けれど、何だか雰囲気があってすっと肩の力が抜ける、昭和の空気感を残す街は、私たちにそんな感覚を与えてくれます。

そこで、今回ノスタルジックな気分に浸れる街として紹介したいのが、江戸川区「小岩」です。

まずは、街の概要をご説明しましょう。小岩地区は東京23区の最も東である江戸川区のさらに北側に位置しています。この地区にはおよそ9万6千人が生活しています。すぐ隣を流れる江戸川の向こうは千葉県市川市。開放感たっぷりの江戸川の河川敷は、散歩やランニングにもぴったり。

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JR総武線が通る「小岩駅」は、新宿まで約30分と都心にもアクセス良好です。南口を出ると駅前には、「昭和通り商店街」「サンロード」「フラワーロード」の3つの商店街があり、総菜屋さんや時計屋さん、ファッションブティックなどオーナーのこだわりを感じる個店が軒を連ねています。

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ちなみに、CHINTAIの家賃相場によると、江戸川区は23区中トップ5に入る安さ。さらに、小岩駅で見てみると、ワンルーム5万3000円、1K6万3000円、1DKで6万6000円とリーズナブルな価格帯です(2017年5月29日時点)。

では、そんな小岩に残されたレトロなスポットを訪ねてみましょう。

小岩駅にある“街の電気屋さん”、「わたでん」

小岩駅から10分ほど、商店街を抜けた場所にあるのが「わたでん」です。3代続く創業80年の“街の電気屋さん”。何よりも目を惹くのは、エッジの効いたこの外観。

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ぐぐっと寄ってみると……
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全部、ガラケーで装飾されています。壁につけはじめた理由は、捨てるのがもったいなかったからとのこと。独特の世界観が口コミで広まり、『NO MUSIC,NO LIFE?』でお馴染み、タワレコのポスターにもなったとか。数年前には2年連続で、イギリスのメディアも壁を取材に来たそう。いまや外国からも観光客が訪れるといいます。

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店内には、テレビをはじめ生活家電から、プリンタのインク、電球まで、こじんまりした規模ながら、さまざまな製品が取り揃えられています。ちなみに、電化製品は大手家電量販店とタイアップしているそうで、「在庫がなくてもすぐに&安くお届けできます」とのこと。

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店主である渡邊さんと、お姉さん、弟さん、92歳になるお母様、20年以上務める社員の5人で営んでおり、アットホームな雰囲気が愛されているお店です。

取材中も「飼ってるジュウシマツが寒そうなんだけど、温めるのにちょうどいい電球はないかな?」と尋ねるお客さんに、皆で相談に乗るというほっこりする場面が見られました。電化製品まわりの困りごとは些細なことでも対応してくれることから、地域に住む人から頼りにされていることが窺えます。また、常連さんが世間話をしに訪れることも多いんだとか。

店内の手作りの置き物やポップはツッコミどころ満載ですが、それも含めて人情味あふれる空気が漂います。

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現在、代表を務めるのは渡邊政直さん63歳。ちなみに、前出の“ガラケーの壁”の発案者でもあります。

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生まれも育ちも小岩の渡邊さんは、小岩好きが高じてYouTubeで自作の小岩紹介動画を配信しているユーチューバーでもあります。そんな渡邊さん、小岩は“東京のオアシス”だと語ります。

「小岩って人と人とのつながりがある街だよ。商店街の人なんか、皆気さくだから、2回くらい買い物に行って挨拶したらもう顔なじみ。いい飲み屋さんもたくさんあって、店主も人情味がある人ばかりだから、話しかけてみるといいよ。
商店街で何十年も長い間続いている理由は、真面目に続けているから。スマートでかっこいいところに暮らすのもいいけど、気が許せる街っていいもんだよ。年寄りも多いから話を聞いてるだけでも勉強になるんじゃないかな。一人暮らしで、家にこもってスマホだけ見ていたら寂しいじゃない。小岩に来たらきっと人生豊かになるよ。要はさ、小岩ってすごくいい街ってこと」(渡邊さん)

これぞ、失われつつある昭和っぽい人情味。ちなみに、渡邊さんの切れ味鋭いコメントはかねてより評判で、最近はTBS「サンデー・ジャポン」で世相を斬るご意見番として度々テレビに出演しています。こんな大人が身近にいるのも魅力のひとつかもしれません。

イベント年間200以上、カセットテープとCDが豊富な演歌の聖地・レコード店「音曲堂」

テンションがあがる洋楽も、パリピなクラブミュージックも、ダンスがかわいいJ-POPも、なんかもう物足りない……そんな音楽難民の方がいたら、ぜひ訪れてもらいたいのが小岩の “レジェンド”「音曲堂」。創業86年のレコード店で、演歌歌手約600人のCDやカセットが1000枚以上販売されています。演歌好きのメッカとして知られており、演歌歌手の生ライブステージも開催している有名店です。

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1階には、洋楽やJ-POPなどの商品も取り扱っていますが、一旦スルーして2階の演歌専門フロアを覗いてみましょう。

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壁面にズラリと陳列されているのは、すべてカセットテープ。

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最近は、美男美女の若手演歌歌手界隈が盛り上がっているそう。

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演歌専門マガジンも平積みで販売しています。表紙は両方とも石川さゆりさん。クマモン柄の帯に、熊本出身である石川さんの郷土愛を感じます。

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演歌の魅力は何といっても日本独自の伝統音楽の要素を多く含んだメロディー。哀愁と情念たっぷりの歌詞を、伸びのある声で歌い上げる。これが演歌の醍醐味です。また、歌手も子どもの頃から民謡などで鍛えられてきた実力派揃い。

音曲堂では、そんな演歌歌手によるステージが年間200回開催されています。ちなみに取材した日は、新進気鋭の美人演歌歌手・丘みどりさんのステージが予定されており、チケットはソールドアウトの人気ぶりでした。

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HMVやタワレコとは一線を画す激シブなレコード店ですが、演歌に親しみがある人も、縁遠い人もふらっと「音曲堂」に立ち寄ることで、激シブワールドに魅了されるはず。何も予定がない日は、生ライブイベントに足を運んでみるのも手。きっと演歌の魅力に引き込まれるはずです。

銭湯が多い江戸川区。とりわけレトロな銭湯「照の湯」

また、江戸川区は銭湯が多いのも特長。区内に39軒あり、小岩地区では10軒が営業しています。とりわけ創業時の姿をいまに残しているのが、小岩駅から徒歩8分のところにある「照の湯」。

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約60年近く営業を続ける「照の湯」は、商店街「フラワーロード」から少し住宅街に入った場所で、ひっそりと営業しています。

内装は、ほぼ創業当時のままとのこと。木製の古い下駄箱がなんともかっこいい。ところどころ扉がなくなっているのはご愛嬌。

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レトロではありますが、とても清潔感がある脱衣場。
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資生堂の古い広告が、逆に新しくておしゃれな気さえします。
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現役で稼働中のお釜型のドライヤー。初めて見ました。
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こちらが浴場。思いのほか天井高があって、窓から陽が射し込んで明るい空間です。地下から湧き出るミネラルたっぷりの水を薪で沸かしたお湯は、身体が芯まで温まり、湯冷めがしないと評判なんだとか。
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今時珍しい形状のシャワー。
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お風呂上りは、窓から庭園をボーっと眺めているだけで癒されます。
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女将さんが淹れてくれる日替わりのお茶で一服。種類は、番茶や麦茶、ルイボスティーなど。身体への配慮が伝わります。「お茶飲んでいってね~」と声をかけてくれるのも嬉しい。
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照の湯の女将さんは、銭湯の良さについてこう話します。

「一人暮らしのアパートってお風呂が狭かったり、シャワーだけだったりするじゃない?だから、湯船にしっかり浸かると疲れも取れるのよ。あと、お風呂で温まるだけじゃなくて気軽に世間話できる場所。テレビでこんなことやってたとか、最近暖かくなってきたねとか、そんな会話ができるっていいじゃない?」

どれだけ長湯しても、大人460円。漫画「島耕作」や女性誌も読み放題なので、あっという間に時間が経ってしまいそうです。照の湯は、まさにノスタルジックな小岩を象徴するようなスポットなのです。

純喫茶の聖地・小岩。小説家や著名人にも愛される「木の実」で過ごす寛ぎのひととき

毎日の暮らしを豊かにしてくれるグルメ。小岩には、長年地元の人に愛されてきたお店がたくさんあります。昨年、江戸川区初のスタバが小岩駅の駅ビルに開店しましたが、小岩は「純喫茶」の聖地。コーヒーが飲みたくなったらぜひ純喫茶に行ってほしいと思うくらい魅力的なお店が多いのです。

なかでも、小岩で60年続く老舗純喫茶「木の実」は、小説家や著名人が足しげく通ったことでも知られています。東京都美術館や江戸川区立篠崎図書館でも、お店の歩みをパネルで紹介されるほど、その功績を認められているレジェンド的な存在です。

お店の外観は山小屋風にデザインした和洋折衷の造り。通りでひと際目立っています。

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アンティーク調の照明や絵画、白黒のタイル床が異空間を演出。また、純喫茶ならでは(?)のたばこのモクモク感がないのは、「店は歴史が長いですが古くても清潔感を保ちたい」とはオーナーのこだわり。

超強力空気清浄機の導入や、店内の植木に蛍光灯をあてることで酸素の発生を促進、いい空気の循環を保っています。こうしたことからも、お客さんへの細やかな気配りが感じられます。

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コーヒーやハーブティー、ハンバーグからビーフシチューまで、メニューは100種類以上。人気の品は、「クラブハウスサンドイッチ」(950円)と、30年来の常連さんたちに支持されているコーヒー「50番ブレンド」(430円)。

ロースハムやクリームチーズ、タマゴなどをたっぷり挟んだ「クラブハウスサンドイッチ」は、特製のからしバターが隠し味の逸品です。一度食べたらクセになると評判で、実際これだけの量でもぺろりと平らげてしまえます。

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コーヒーは一杯ずつハンドドリップで丁寧に淹れられて、深みがあって風味がとってもフルーティーです。

身体が喜ぶ“栄養ドリンク”「小松菜とフルーツの生ジュース」(650円)は、30年前からのロングセラー。疲れた日の朝食のおともに持ってこいです。

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毎日通いたくなるアットホームな老舗の居酒屋「江戸政」

最後に訪ねたのは、居酒屋「江戸政」。小岩で知る人ぞ知る、ディープな酒場です。

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店内にはカウンター席とお座敷席がありますが、お一人様なら大将と会話できるカウンターがダントツおすすめ。ちなみに、最近は若い女性の一人客も増えているんだそう。
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そして特筆すべきは、この価格設定!
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すべての料理が丹精込めた手作りながら、この価格設定は「美味しいものをたくさん食べてほしい」という大将の心意気。

こちらが人気の3トップ。手前の「さしみ盛り合わせ」の魚はすべて市場で仕入れた新鮮なもの。左上の「牛すじ煮込み」は、丁寧に5時間以上炊かれたトロトロの牛すじと、野菜がたっぷり。右上の「ポテトサラダ」はキュウリやニンジンなど、野菜がゴロゴロ入っています。全部あわせて1000円ぽっきりとは驚きです。

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また、こちらに来たらぜひ飲んでいただきたいのが、コーヒー豆の旨みが溶け込んだ焼酎をソーダで割った自家製の「コーヒーハイ」(300円)。渋みと爽やかさが絶妙な味わいでどんどん飲めてしまいます。こちらも破格の自家製「浅漬けおしんこ」(100円)と一緒に。
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手作り感溢れるメニューは、胃袋だけではなく心も満たしてくれます。人情味のある店主との会話も“オプション”のひとつ。一見するとちょっと話しかけにくそうですが、実はとっても気さく。お一人様でも、温かく受け入れてくれます。家に直行して帰りたくない気分の日や、自炊に疲れた日に立ち寄りたいお店です。

東京駅や新宿まで30分なのに、小岩はディープで昭和でノスタルジックな温かい街だった

取材を通して感じたのは、小岩は“昭和”がいたるところに残っているということ。それは、商店街や喫茶店、銭湯、街角にさりげなく佇んでいます。雑誌に載っているようなおしゃれなカフェやバルではなく、シブい純喫茶や居酒屋に心惹かれる人にとっては、まさにオアシスな街。小岩には、毎日でも通いたいノスタルジックなスポットが充実しています。温かな故郷を感じられる場所で暮らしたい、そう願う人を裏切らないだけの魅力が小岩にはあるのです。東京駅や新宿駅に30分以内できる場所で住まいを探している人は、ぜひ小岩の暮らしを検討してみてはいかがでしょうか。

※記載している情報は、すべて2017年3月29日の内容です。

(取材・文・写真=末吉陽子)

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