賃貸物件における経年劣化とは?通常損耗との違い、修繕費の負担について解説!
賃貸物件での「経年劣化」。負担額は借主持ちなの?

築年数がある程度経過している物件に住んでいる場合、部屋の壁紙や床、設備などが自然と劣化してしまうことがある。こうした「経年劣化」や「通常損耗」によりトラブルになってしまうのが、退去時に生じる原状回復の負担額である。
そこで今回は、経年劣化と通常損耗の違い、経年劣化を見極めるポイントについて詳しく解説していく。また、記事の後半では経年劣化に当てはまるものとそうでないものの例も紹介するので、トラブルなく退去したいと考えている方は参考にしてほしい。
このページの目次
そもそも経年劣化とは

物件や建物にはよく「経年劣化」というワードが使われる。経年劣化とは、使用する時間に比例して生じる劣化のことである。
一般的に賃貸物件を含めた建物は、さまざまな理由で時間が経過すると建物としての品質が下がってしまう。たとえば、陽の光による日焼けや変色、浴室やトイレの壁の黄ばみなどが経年劣化の一例だ。
注意したいのが、経年劣化とはあくまで自然に起きる劣化のみを指すということ。故意に壁や床を傷つけた場合やタバコのヤニ汚れ、掃除を滞ったことで発生したカビなどの汚れは、経年劣化としてカウントされない。ペットを飼育している場合は、ペットによる傷や汚れも経年劣化とはみなされないので注意が必要だ。
「通常損耗(つうじょうそんもう)」とは?経年劣化との違いは?
通常損耗とは、通常の生活を送る中で生じてしまった物件の痛みや損傷のことである。たとえば長く同じ物件で生活をしていると、不注意で床や壁などに小さな傷をつけてしまうことがあるが、このような傷は通常損耗の範囲といわれている。
一方、故意に傷をつけてしまった場合は「特別損耗」と呼ばれ、借主側に修繕費を請求される恐れがある。
また、通常損耗は先述した「経年劣化」と間違えられやすいが、別の言葉だ。経年劣化は時間が経過したことによる物件の劣化や不具合のことを指す。一方で、通常損耗は生活をする中でやむ得ず発生してしまう床や壁などの痛みや損傷のことを指すということを覚えておこう。
経年劣化・通常損耗に対する原状回復の必要はない
経年劣化・通常損耗により建物や設備に修繕の必要が生じた場合、費用はどちらも大家さんの負担となる。
国土交通省が発表している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によると、原状回復とは「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」とされている。つまり、「通常の使用」の範囲内で生じたキズや劣化については、基本的に入居者が修繕費用を負担する必要はないのだ。
なぜなら、一般的に契約した際の敷金の中に通常損耗分の修繕費用が含まれているからだ。故意に傷をつけてしまった場合は修繕費を支払う必要があるが、元々払っている敷金の中に修繕費が含まれているということも基礎知識として覚えておく必要があるだろう。
賃貸物件の価値は入居後に下がっていく
国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では「減価償却」の考え方が取り入れられており、建物や付属する設備は年月が経つと価値が減少するものとされている。そのため、一つの賃貸物件に長期間住み続けると、原状回復費用を負担する割合が下がることが多い。
また、それぞれの家具や設備には「耐用年数(=利用に耐える年数)」というものが法令で設定されている。たとえば住居用の壁紙やカーペットの耐用年数は6年、流し台は5年となっている。同じ物件に住み続けた場合、新品の壁紙を100%とすると、入居者が原状回復費用を負担する割合は年に15%ほど下がるといわれている。6年以上住み続ければ壁紙の価値は1円となり、特約にもよるが、基本的に入居者は壁紙の修繕費を請求されない。
長年住んでいるにも関わらず高額の原状回復費用を請求された場合は、大家さんに一度確認してみるとよいだろう。
どこまでが経年劣化?修繕費用の支払いが発生するか見極めるチェックポイント

先述の通り、経年劣化を見極めるポイントは傷や汚れが発生した経緯である。しかし、どのように傷や汚れが生じたかを判断することはなかなか難しい。賃貸物件における傷や汚れの種類は、生じる原因によって大きく以下の3つに分けられる。
- 経年劣化
- 通常損耗
- 特別損耗
「通常損耗」とは、先述したように普通に生活しただけで生じる傷もしくは汚れのことだ。一方、「特別損耗」は入居者が故意につけた傷や通常の清掃を怠ったことで発生してしまった汚れのことである。このように、入居者が注意すれば防げるものが特別損耗に該当し、入居者に修繕費用の支払い義務が発生する。
それでは、入居者に修繕費用の支払い義務があるケースとないケースはどうやって見分けたらいいのだろうか。ここからは、場所ごとのチェックポイントを詳しく見ていこう。経年劣化や通常損耗で原状回復費用が不要なケースと、特別損耗のため原状回復費用が必要なケースのそれぞれを紹介する。

経年劣化のチェックポイント①フローリング・畳
フローリング・畳の場合は以下のようなチェックポイントがある。
原状回復費用の負担が不要なケース
陽の光によって畳が日焼けした場合や、日常生活で使うような家具や家電によるフローリングのへこみは経年劣化もしくは通常損耗として扱われることが多い。
原状回復費用の負担が発生するケース
食べ物や飲み物をこぼした際に生じたシミや汚れ、家具の移動による傷は特別損耗と判断される。ペットによる汚れや引っ掻き傷なども、原状回復が必要となる可能性が高い。
フローリングの張り替えは6畳あたり10〜15万円ほど、畳の張り替えは1枚あたり1万円ほどかかる。住んでいる期間や張り替えの範囲で負担額は変わるが、高額の負担になることも予想される。
経年劣化のチェックポイント②壁紙
次に、壁紙のケースを見ていこう。
原状回復費用の負担が不要なケース
日焼けや家具の配置による変色は、基本的に原状回復費用は不要である。画鋲の使用は、壁紙の下地を張り替える必要がなければ、通常損耗とみなされることがほとんどだ。
原状回復費用の負担が発生するケース
タバコのヤニによる汚れや臭い、掃除をしなかったことで生じる汚れやカビなどは原状回復費用が必要だ。下地の交換が必要となる画鋲による穴や釘やネジによる傷、その他日常では起こり得ない傷や汚れは、すべて特別損耗となる。
壁紙の張り替えは、6畳あたり5万円ほど。フローリングと同様、張り替える範囲や住んでいる年数によって負担費用が異なる。
年数によって負担費用が異なる。
経年劣化のチェックポイント③バストイレなどの水回り
最後に、お風呂やトイレなどの水回りについて解説する。
原状回復費用の負担が不要なケース
浴槽や壁紙の黄ばみ、浴室のパッキンが壊れた場合は経年劣化となる場合が多い。普通に掃除をしていても発生する汚れなども、経年劣化としてカウントされる。
原状回復費用の負担が発生するケース
掃除を怠ったことで発生した水垢やカビは、基本的に特別損耗とみなされる。さらに、トイレや浴槽、洗面台のひび割れや傷などといった原状回復費用も入居者負担となる。
経年劣化に当てはまる例と当てはまらない例

経年劣化かどうかの見極めは、入居者が手入れを怠っていない、傷や汚れが自然に生じたということが大きなポイントとなる。
退去時に経年劣化かどうかを悩んでいる方は、以下にまとめたポイントを参考にしてほしい。
経年劣化に当てはまる例
経年劣化としてカウントされやすい例をまとめると、以下のようになる。
- 日焼けによる天井、壁、床の変色
- 下地が傷ついてない場合の画鋲による壁の穴
- 通常に家具を置いたことによる床のへこみ
- 設備の故障
- 浴室、トイレの壁の黄ばみ
注意したいのが設備の故障だ。通常に使用していたうえでの設備故障は経年劣化とみなされる場合が多いが、故障したまま使用を続けると特別損耗扱いになるので、そのような場合はすぐに大家さんに連絡しよう。
経年劣化に当てはまらない例
反対に、経年劣化としてカウントされない主な例は以下の7つ。
- タバコのヤニによる天井、壁、床の変色
- 下地が傷ついた場合の画鋲、釘、ネジによる壁の穴
- 鋭利なものや重すぎるものを置いたことによる床の傷
- 壊れた設備の使用
- 故意、不注意による傷や汚れ
- ペットの飼育による傷や汚れ
- 掃除を疎かにして発生した汚れやカビ
ワザとではなく、うっかり傷つけたり汚してしまったりした場合も、特別損耗として扱われるので注意が必要だ。
経年劣化の基礎知識を覚えて退去時にトラブルがないようにしよう!
入居者がワザとや不注意、手入れ不足ではなく自然に生じた傷や汚れのことを指す経年劣化。経年劣化と判断された傷や汚れは退去時に費用が発生しないケースが多いため、どのようなものが経年劣化とみなされるかをしっかり覚えておくことが重要だ。
金銭が絡むとトラブルが起きやすいので、なるべく面倒ごとをなくすために経年劣化や原状回復の基礎知識を身につけておこう。