困ったときはまず土下座。なんか惜しいぜ、押居A太です。
「…困るよ、押居くん」。
…あわわ、スミマセン部長。このミスは必ず取り返しますデス。
と言いつつこの日はA太史上最悪の一日なのでした。
朝は大遅刻、商談の席では「こにゃにゃちわ」とテンパってしまい、コピーを二十枚のつもりが二百枚…、しかも裏向き。
トホホ、こんな日は早く家に帰るに限ります。
「ドンマイ、A太先輩。よかったら家で一緒に飲みませんか?」。
声を掛けてくれたのは、石原くん!キミがそんなに先輩想いだったなんて。
うれしいなあ、よし行こう。
石原くんの住まいは都会のオアシスに建つ高層マンションの十五階。
うらやましい…。でもボクなら毎日遅刻しちゃうかも。
だって、朝はエレベーターが混むでしょ?ボクはもう遅刻はできないんだ。
「大丈夫ですよ、先輩。一桁の階には停まらない、十階以上の直通エレベーターですから」。
へえ、便利なんだね。
「さあ着きましたよ、どうぞ中へ」。
石原くんの部屋はちょっと広めの1LDK。
間取りはボクの家とそんなに変わらないけれど、なんだかすごく開放的な気が…、カーテン全開!?
「外の視線を気にしなくていいですから」。確かに、低層階ではちょっとできないです。
「ま、先輩。とにかくこの景色見てくださいよ。仕事のコトなんて忘れちゃいますから」。
…ありがとう、石原くん。
眼下に広がる都会の灯。心が洗われてゆく爽快な景色。ときに美しい風景は人を正直にしてしまうものです。
「…ところで先輩。今朝、部長に怒られてたあのミス、僕です」。おまえか!