朝目覚めたら、まず遅刻の理由を考えます。なんか惜しいぜ、押居A太です。
「ふと、人生の道に迷ってしまい…」は、父U作の遅刻の言いわけだった。
父は朝が遅い分、帰りも遅かった。
大体のところ、父はなにもかもが鈍臭く、遅かった。父兄参加の運動会では、ダントツだ。
脚力はスゴイが、気づくのが遅い。残念、父さん…。ゴールはこっちだ。
不器用な父ではあったけれど、お風呂だけは別。
帰宅が遅い父は、「追い焚き機能」を巧みに操り、とっくに冷めてしまったお湯を最高の湯殿につくり変えた。
ときに熱し過ぎた湯に身をもだえながら、失敗の果てにたどり着いた究極の湯。
「お湯だけにユートピア」。
これは、父が勝負所で好んで使った必笑ワードでもある。
ちなみにこの追い焚き機能、最近では二時間の半身浴デトックスをはじめた母もよく使う。
さて、「お湯だけにユートピア」。そんなダジャレが疎ましく思えた、ささやかな反抗期。
ボクは塾に通いはじめ、父より帰りが遅くなった。お風呂もボクが後だ。
しかし不思議なことに、ボクには、追い焚き機能を使った記憶がない。
なぜか…?追い焚きを完全マスターした父は、ボクの帰り時間から逆算し、ちょうどいい湯加減を生む独自の技を習得していたのだ。
秘技、追い越し焚き。
運動会で逆走していた父が、まわり回って遂に逆転。
「負けたよ、父さん」…あのとき言えなかっただけに今さらくやしい。
時間はもう戻らない。…そして今、ボクは遅刻の真っ只中。
無情にも時は進む一方なのだ。
ぶ、部長、来る途中、人生の道に迷ってしまいまして…。「押居くん、今日もかね?」