エレベーターで防犯カメラを見つけると変顔してしまう。なんか惜しいぜ、押居A太です。
社会人一年目のエリコの場合は、約十分。
駅から家まで、歩いてかかる時間です。「遠すぎず、近すぎず。
それでいて計算が立つ距離」。
ふむ、なるほど。「駅が目の前というわけにはいかないけど、その分相場も安いみたい。ぜんぜん歩ける距離ですね、運動不足の解消になるし」。
まず駅周辺のにぎやかな街道を抜けると、コンビニとレンタルビデオ店の通りに出る。どちらも深夜まで営業しているから、帰りの夜道は明るめ。
そこからジャングルジムがある公園を挟んで向こう側に見える閑静な住宅街、そこがエリコの住むマンションがあるエリア。
ひっそりしすぎて少々不安な夜は、お気に入りのプレイリストを聴きながら帰宅するらしい。
「ちょうどアルバム最後の二曲が終わると家のドアの前です」。
ラストを飾るのは、等身大の女の子の気持ちを歌にしたスローテンポのバラード。
家に帰ると同時に“本当の自分”に戻るという。
掃除、洗濯、夕食の準備。それから日記をつけたり、本を読んだり、ゆっくりお風呂に入ったり。
駅から十分程度で帰宅できれば、時間の余裕が生まれる。それをやれるだけの体力も気力も。
ちょっとうらやましい…。家が遠くなると、通勤だけでなんだか疲れきってしまう。
そして一日が何も出来ないままに終わってしまう…。
一日があと少しだけ長いとしたら、ボクには何が出来るだろう。
三分なら夜食にカップ麺の贅沢を。五分なら毎朝の寝癖チェック。十分なら…二度寝。
しかしボクが十分後の目覚めに成功したことは…、ない。