【今さら聞けない】芥川賞ってどんな賞? 芥川賞のことを理解できる本まとめ
“新進作家の登竜門” 芥川賞はエピソードが満載!
数ある日本の文学賞の中でも、ネームバリューの高さでいえばダントツなのが直木三十五賞と、芥川龍之介賞。先日第161回受賞者が発表され、ニュースを目にした人も少なくないだろう。
通称“直木賞”“芥川賞”で知られるこの2つの賞、発表されるたびに話題に上るが意外と「名前は知っているけれど、どんな賞かはよく知らないかも」という人もいるのではないだろうか。
ということで今回はその中のひとつ、芥川賞についてご紹介。新人作家が受賞対象になるという芥川賞、受賞者がとかくニュースになりがちな印象だが、そんな芥川賞がどんな歴史を持つのか、どんな作品が受賞しているのか、よくわかる3冊を紹介しよう。
『芥川賞の謎を解く 全選評完全読破』鵜飼鉄雄
実は、芥川賞にまつわる知識や歴史を描いた本は意外とたくさん出版されている。その中でも、「芥川賞ってどんな経緯があって生まれたんだろう?」「これまでどんなことがあったんだろう」というシンプルな問いに明快に答えてくれるのがこの1冊だ。
この賞を作り出したのは、文藝春秋創刊者、菊池寛。盟友だった文豪を偲んで名前を冠した賞を……というのがきっかけ(ちなみに本が売れなくなる2月・8月に売上を伸ばしたかったという理由もあるらしい)。
そしてこの賞は第一回から波乱づくしとなる。太宰治の落選、そして公開された川端康成の選評に太宰が激怒という文学史に残る事件が勃発。そう、この本のタイトルには「全選評完全読破」とあるが、多分「選評とそれにまつわる事件」という方が正しい気がする。
それほどまでに、昭和文学史の生々しいやり取りがこの本には満載だ。川端を「刺す」とまで言った太宰を始め、2.26事件当日(!)に行われた選評会のエピソード、社会派作家たちの台頭による議論、女性作家の活躍……。読んでいると時代の流れをしみじみ感じてしまうだろう。
『芥川賞全部読む』菊池良
「芥川賞がドラマチックなのはわかった。じゃあ芥川賞受賞作ってどんな作品があって、何から読んだらいい?」……そんな風に思った人にうってつけの1冊が、今年の5月に発売された。
これはもう、タイトルが内容を表している。まさに「芥川賞を全部読み、その内容を紹介している」という1冊。芥川賞にまつわる史実を書いた本はあれど、内容を全て紹介した本は実はこれまでなかったということに驚く。
この本のポイントは、読みやすいように細かな工夫が施されていること。最大の特徴は第1回受賞作からスタートするのではなく、発売当時最新の「第160回」から始まっているところだ。
これは正しい構成だと思う。なぜなら、普段文芸作品を読み慣れていない人にとって第1回受賞者の石川達三から始まっても、おそらく面食らってしまうだけだろうから。しかし最新受賞作から紹介することで、仮想通貨を題材にした上田岳弘『ニムロッド』(第160回)、劇作家としても活躍する本谷有希子の『異類婚姻譚』(第154回)、そしてベストセラーとなった又吉直樹『火花』(第153回)と続いていく。ニュースやテレビで見聞きする名前、題材から始まることで読者の興味も途切れないし、そうやって時代を遡っていくことで作品が書かれた背景や歴史を少しずつ知ることもできる。
合間に入る田中圭一のパロディ漫画も面白い。ブックガイドとしてもおすすめの1冊だ。
『火花』又吉直樹
今さら詳細の紹介は不要なのでは? と思ってしまう。そんな、言わずとしれたベストセラーのこの一冊。作者の又吉直樹はお笑いコンビ・ピースとしても活躍し、テレビ番組にも出演多数。受賞当時は既に圧倒的な知名度を持っていたそんな彼が、文芸デビュー作で芥川賞を受賞……これはもう、ニュースにならないほうがおかしい。
しかしこの作品が興味深いのは、内容に関しても評価が非常に高いところだ。文学賞はしばしば、「話題性だけで選んだのでは?」という候補者が現れることがある。大抵そういう候補者は選評会でいろいろ言われてしまうものなのだが、この『火花』に関しては審査員の中でも宮本輝、川上弘美という大御所が絶賛。山田詠美と小川洋子の2人も推し、こちらも今やバラエティでおなじみ、羽田圭介の『スクラップ・アンド・ビルド』と同時受賞となった。
実は受賞前に既に64万部と、純文学に関しては異例の部数を記録していた『火花』。しかし芥川賞の候補になる前に三島由紀夫賞の候補にも挙げられ(こちらは落選)、続いての芥川賞候補、そして受賞。そのニュースが続いたこと、映画化やドラマ化も相次いだことから、累計発行部数はなんと驚異の253万部!
芥川賞受賞作品として歴代第1位、文藝春秋刊行物として歴代第2位の単行本部数を誇ったというからすごい。
売れない芸人たちが繰り広げる、まさに“火花”のようなやりとりと、一瞬のきらめき。それはまさに、現役の芸人である彼にしか書けない作品ともいえるし、あの時期の彼だからこそ生み出された1冊とも言えるのでは。まだ未読の人は、一度手にとってみてはどうだろう。
次はどんなスターが現れる? 今後も芥川賞に要注目
既に活躍している作家が受賞する直木賞とは違い、芥川賞の場合は時として、デビューしたての新人作家が一夜にしてスターとなる姿を見ることができる。そんな劇的な場面に出くわすのもまた、文学の楽しみの一つ。今回はこの候補者かな、いずれはこの作家が獲るかも……そんな想像をしながら本を読んでみてはいかが。
文=川口 有紀
ライター、編集者。演劇雑誌の編集部員を経てフリーに。現在は主に演劇、映画、芸能、サブカルチャーの分野で取材・執筆活動中
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