時代は「令和」に……日本の歩みを振り返る3冊 昭和編
改元した今、あえて読書で「昭和」を知ろう
改元という大きな節目を迎えた2019年。新たな年号とともに未来を紡いでいく、そんなスタートを切ったときだからこそ、これまでの日本の歴史を振り返ってみるのも良いのではないだろうか? 今回はさまざまな角度から「昭和」を知ることができる3冊をセレクトする。
『昭和トワイライト百景』フリート横田
2020年東京オリンピックを来年に控えている東京だが、大イベントを前に大きな再開発があちこちで進行中なのをご存じだろうか? 東京に住んでいる人のなかには「なんだか最近よく工事してるよなあ」と感じている人もいるかもしれない。
もちろん、インフラの整備やバリアフリー化など、再開発によって便利になる側面はあるようだが、中にはそれによって無くなってしまう光景もある。この本は、そんな“昭和”に作られた風景を写真と文で紹介している1冊だ。
著者は、これまでも戦後のヤミ市ルーツの飲み屋街に関する本などを手がけてきたフリート横田氏。2017年に発売された『東京ノスタルジック百景』(世界文化社)でも消えゆく昭和の風景を紹介してきたのですが、今作はその続編として東京、そして地方のそういった街並みや建物、そこにまつわる歴史が綴っている。
章立ては大きく3つのジャンルにわかれていて、「建築・土木構造物編」では東京・大久保の「軍艦マンション」や有楽町の「ツインタワービル」といった個性的なビルを紹介。「酒場編」では大森の「大森飲食店街ビル」や新橋の「新橋駅前ビル」と言った酒場を。「路地・街角編」では「アメ横センタービル」や雑司が谷の「雑二ストアー」など。どれも、再開発によって作られた画一化された風景とは一線を画す場所ばかり。でもそれらの多くは敗戦から立ち上がってきた、“昭和の人々のパワー”が作り上げてきたものであることが、この本を読むとよくわかるだろう。
昭和の風景が消えてしまう寸前、まさに“トワイライト”の今だからこそ、先人たちの歩みに思いを馳せたい……そんな気持ちにさせてくれる1冊だ。
『夜の塩』山口恵以子
2013年、『月下上海』で松本清張賞を受賞した際、55歳という年齢と社員食堂勤務だったことで大きな話題を呼んだ山口恵以子氏。以降も小説・エッセイとコンスタントに作品を発表し続けている氏の最新作がこの『夜の塩』だ。
舞台は昭和30年。名門女子校で英語教師として働いていた十希子は、仲居として働いていた母が商社の男と心中したという知らせを受け取る。一人娘である十希子の結婚を控えた今、母が死ぬはずはない。そう思う十希子は母の死の謎を解くため、母の勤めていた高級料亭に飛び込み、仲居として働き始めることに。
舞台となっている昭和30年は、ちょうど神武景気と呼ばれる好景気の波が訪れ、高度経済成長時代が始まる時期。社会が大きくうねっていく時には、大きな権力やそれにまつわる金、そして陰謀が常につきまとうもの。主人公がそれらに巻き込まれた事がわかってゆくストーリーラインは、まさにサスペンスエンターテインメント!
しかし今作の魅力はそれだけでなく、まるで自分がその時代を生きているかのように感じられる精緻な描写にもある。都電が動脈のように東京の街を走り、今はほとんどなくなってしまった料亭や花街に夜な夜な政財界の要人たちが集う。物語の面白さだけでなく、こういった街並みの描写に関してもいろいろと気づきや発見があるはず。そういった点でも楽しめる作品ではないだろうか。
『その女、ジルバ』有間しのぶ
先日、「第23回手塚治虫文化賞 マンガ大賞」を受賞したことでも話題となった作品。2011年から『ビッグコミックオリジナル』で連載をはじめ、2018年に連載終了しコミックス5巻で完結。
もしかしたら今この作品を知った人はとても幸運かもしれない、なぜなら一度読み始めたらページを捲る手が止まらなくなるはずだから。完結している今だからこそ読み時と言えるだろう。
恋人も貯金もない40歳の女性・笛吹新。彼女はひょんなことから平均年齢70歳の高齢バー「OLD JACK & ROSE」で働き始める。物語はそんな新(源氏名は“アララ”)と、「OLD JACK & ROSE」の個性的な仲間たちの様子を生き生きと描いていくのだが……ここで少し気にならないだろうか?
「タイトルの“ジルバ”って、誰?」
そう、これこそがこの作品のもう1つの物語なのである。ジルバとは、この店を立ち上げた先代ママの名前。作品の中盤から、ジルバにまつわる人物が現れ、そして現在のママであるくじらママによるジルバとの回想が語られていくのだ。
そこにあるのは、時に犯罪に手を染めながらも戦後の厳しい時代を生き抜いてきた人々の姿と、ブラジルに渡った日本人たちが辿った苦しく、辛い運命。史実に基づいたこれらのエピソードは、おそらくこの作品で初めて知る人も多いはず。
戦後の、そして昭和の“陰”の部分ではあるものの、決して忘れてはいけない大切な歴史。彼らの積み重ねてきたものが今の私たちの生活へつながっている、そんなことを実感させてくれる作品だろう。
懐かしいけど新鮮。昭和を感じる本の世界に浸ってみよう
どれも楽しみつつ、昭和の歴史や風景を振り返ることができる3冊。ぜひ手にとってみて、昭和の時代を感じてみてはどうだろうか。懐かしさもありつつ、いまだからこそ“新鮮“に目に映るかもしれない。
文=川口 有紀
ライター、編集者。演劇雑誌の編集部員を経てフリーに。 現在は主に演劇、映画、芸能、サブカルチャーの分野で取材・執筆活動中
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